「第3極」の分裂は結局、野党再編の“極右化”につながっただけだ、多母神氏の「石原新党」入りは極右政党の旗揚げを意味する、維新と野党再編の行方をめぐって(その15)

 2014年5月29日の石原・橋下会談で突如発表された日本維新の会の分裂騒ぎが今後の野党再編に如何なる影響を与えるのか、その行方をめぐって目下いろんな観測が乱れ飛んでいる。各紙の記事を一通り読んでみたが、維新の分裂が野党再編の引き金になるという点では一致しているものの、それがどのような方向に向かうのかという点についてはほとんど具体的な言及がない。それほど事態は流動的であり、かつ混迷しているということなのかもしれない。

 だが、そのなかで唯一姿勢を明確にしているのが産経新聞だろう。同紙は5月29日以来、連日大型紙面を使って維新分裂の一部始終を伝え、5月31日の「主張」(社説)では「維新の会分裂、改憲路線の維持期待する」との見解を次のように掲げた。
 「政界を変える起爆剤となる期待も背負って登場した日本維新の会が、衆院選から2年を待たずに分裂した。新たな『第三極』が注目されたのは、自民党とともに憲法改正を志向する立場を掲げたことからでもあった。だが、その憲法観がきっかけで橋下徹石原慎太郎両共同代表がたもとを分かつ結果となったのは残念だ。それでも、日本の立て直しに何が必要かという両氏の認識に変わりないはずだ。今後とも率先して憲法改正を政治課題に位置付ける路線を維持してもらいたい」

 産経新聞のことだから言わんとすることは明らかだが、意図的かどうかは別にして、この「主張」が極めて不正確な表現で粉飾されていることに要注意だ。第1に、日本維新の会が「憲法改正を志向する立場」を掲げた「第3極」であるがゆえに注目されたとあるが、維新はそんなヤワな政党ではないことは誰でも知っていることだ。2013年3月に承認された最初の綱領をみると、「日本を孤立と軽蔑の対象に貶め、絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた元凶である占領憲法を大幅に改正し、国家、民族を真の自立に導き、国家を蘇生させる」など、国家(極右)主義そのもののドギツイ主張が掲げられているではないか。これを「憲法改正を志向する立場」などと読むのはよほどの「乱視」でなければ不可能だろう。

 2014年2月に修正された綱領においても、その内容は「国家・民族、国民の自立を損なわせしめた占領憲法を大幅に改正し国家を立て直す」とほとんど変わっていない。第一、「占領憲法」という表現自体が歴史修正主義の立場に立つものであり、現行憲法よびそのもとでの戦後体制を根底的に否定するものであるから、これを「憲法改正を志向する立場」などとソフトな言葉でいうのは事実誤認(粉飾)もはなはだしいといわなければならない。

 第2に、石原氏と橋下氏が分裂したのは「憲法観の違い」といった生易しいものではなく、石原氏が「自主憲法」制定の主張をあくまでも譲らなかったからだ。いうまでもなく「自主憲法」制定とは「占領憲法大幅改正=現行憲法破棄」の主張そのものであり、橋下氏や松井氏がこれをいくら「言葉の上のこと、憲法改正と同じだ」と言い張ってもとうてい騙し(だまし)きれるものではない。維新と野党再編を目論む江田氏(結い)や前原氏(民主)ですらのめなかった主張を、「憲法改正にかかわる憲法観の違い」といったさりげない言葉で誤魔化すのはとうてい無理がある。

 私がこの分裂劇において最も注目したのは、「『石原新党』に多母神氏」というこれも産経新聞記事(2014年5月30日)だった。同記事は「日本維新の会石原慎太郎共同代表は29日、国会内で記者会見を行い、維新を分党し、新党を結成すると正式に表明した。『石原新党』には元航空幕僚長の多母神俊雄氏も参加する」と断定的に報じている。つまり、維新分裂後の「石原新党」の旗揚げに際しては多母神氏の参加が前提になっており、産経新聞はそれをこともなげに書いているのである。

 このことの意味する背景は大きくかつ重いと思う。そう言えば、今年2月の東京都知事選において、石原氏が多母神氏を維新公認候補としてではなく「個人推薦」した意図も見えてくる。田母神氏は選挙の終盤戦で「侵略戦争南京事件従軍慰安婦、全部ウソだ」と訴え、さらに「外国人参政権に反対」、「靖国神社に参拝して誇りある歴史を取り戻す」と主張した。そして、その多母神氏が予想を大きく上回る61万票(第4位、得票率12%)を獲得したとき、石原氏は維新を分裂させて「石原新党」の結成を決意したのではないか。それ以降の石原氏の一貫した強気発言は石原新党の結成が前提だったと思えば納得がいく。

 石原新党には最終的に維新の何人が加わるか、目下のところ予測できない。しかし維新内部の多数派工作(綱引き)が本格化するなかで、石原氏側21人、橋下氏側36人、未定5人という5月30日現在の数字が流れると(毎日新聞、5月31日)、橋下氏支持の議員からは「石原氏支持が予想より多い。橋下氏の党運営が響いた」とのショックの声が隠せないでいるという(読売新聞、同)。当初は15人前後といわれていた石原氏側がここまで数字を伸ばしているのは、石原氏が分裂に備えて早くから事前工作に着手していたことを物語るものだろう。

 この間の一連の「第3極」分裂騒動でわかったことは何か。「みんな」は「結い」と分かれ、維新は石原派と橋下派に分裂した。そして、石原派はみんなと手を結んで「石原新党=極右政党」の結成にほぼ見通しをつけつつある。これに対して残る橋下派は、結いと合流して民主党に代わる衆院野党第1党を目指すというが、橋下派(衆院32人+アルファ)と結い(衆院9人)が合流しても民主(衆院56人)には遠く手が届かない。これではいったい何のために維新を分裂させてまで野党再編劇に参加したのか、まったくわからないというべきだ。

 結局、「第3極」の分裂は、石原新党という戦後はじめての極右政党の結成に手を貸し、安部政権の改憲路線を右から加速させるだけの結果に終わるだろう。「そうではない。次の第2、第3の幕が開くまではわからない」という声もあるが、いまの民主党の有様からすれば、「そうだ」というにはかなりの勇気が要る。第2幕、第3幕の行方も含めて、政党政治のプロから卓見を披露してほしい。(つづく)