「地方元気戦略」の「地方」とは地方拠点都市のことだ、地方拠点都市に投資を集中することは周辺自治体を疲弊させる、1点集中型の「地方元気戦略」は機能しない、日本創生会議の「人口急減社会=地方消滅論」を批判する(その4)

日本創生会議の目標の第2は、「地方から大都市へ若者が流出する『人の流れ』を変え、『東京一極集中』に歯止めをかける」ことだ。このためには「地方を立て直し、『選択と集中』の考えの下、『若者に魅力ある地域拠点都市』に投資と施策を集中する」という「地方元気戦略」が提起されている。実は「地方拠点都市に投資と施策を集中する」という元気戦略こそが増田提言のキモであり、これを言いたいために「消滅可能性都市=投資非効率都市」が誇張される仕組みになっているのである。言わんとするところは次のようなことだ。

「当面の地方の人口減少は避けられない。この厳しい条件下で、限られた地域資源の再配分や地域間の機能分担と連携を深めていくことが重要となる。そのためには『選択と集中』の考え方を徹底し、人口急減に即して最も有効な対象に投資と施策を集中することが必要となる」

「現在、政府においては地方圏からの人口流出を食い止めるダム機能を目指すものとして、地方中枢拠点都市(政令指定都市および中核市[人口20万人以上]で昼夜間人口比率1以上の都市、全国で61市、平均人口約45万人)と近隣市町村のネットワークの形成によって、人口減少期における地方経済の牽引役とするとともに、高次の都市機能の集積を図る構想が検討されている。この地方中枢拠点都市圏は、当面引き潮の時を迎える地方圏が踏みとどまるためのアンカーを打ち込む役割を果たし、さらにはそれが地方から大都市への『人の流れ』を変えるような機能を果たすことが期待される」

増田提言には実は台本がある。昨年6月、第30次地方制度調査会(内閣総理大臣の諮問機関、以下、地制調という)で決定された「大都市制度の改革及び基礎自治体の行政サービス提供体制に関する答申」がそれだ。第30次地制調は橋下知事(当時)の大阪都構想が注目される中でスタートし、「大都市制度のあり方」をテーマとしたことでマスメディアの関心を集めたが、実際は人口減少社会の下での市町村再編のあり方に関する議論が中心だった。

そのなかで答申は、人口減少が不可避の(3大都市圏以外の)地方圏において、(1)人口20万人以上、(2)昼夜間人口比率1以上の条件を満たす61都市を「地方中枢拠点都市」と位置付け、「地方中枢拠点都市を核に、産業振興、雇用確保、広域観光、高度救急医療、介護、障害者福祉、広域防災、人材育成等の分野において、都市機能の『集約とネットワーク化』を図っていくことが重要である」と勧告した。つまり基礎自治体である市町村のファンダメンタルズ(基礎体力)を強化するのではなく、特定の地方中枢拠点都市に都市機能を集約して周辺市町村はそれを利用すればよい(ネットワーク化)としたのである。

このように「集約とネットワーク化」とは聞こえがいいが、要するに地方拠点都市に都市機能を集中し、周辺住民は自分の市町村にはなくても地方拠点都市の施設やサービスを利用すればよいとする「リストラ型」の行政システムのことに他ならない。端的に言えば、町や村に医院がなくても地方拠点都市の病院に行けばよい、近くに買い物する店がなくても地方拠点都市のショッピングモールに行けばよい、学校がなくても地方拠点都市まで通学すればよいということだ。

平成大合併によって多くの小規模自治体が姿を消した。役場がなくなり、小学校や中学校がなくなり、病院や診療所がなくなった。かっての村民・町民は「市民」になったが、広域合併で誕生した「市」は住民にとってますます遠い存在になり、住民生活は一段と不便さを増した。日本創生会議の提案する「地方元気戦略」の「地方」とは、その実は「地方拠点都市」のことであって周辺市町村は眼中にないのである(安倍内閣の「地方創生」も同じこと)。つまり地方拠点都市に都市機能を集中するということは、地方拠点都市を中核とする広域市町村合併を推進するのと同じリストラ効果を持ち、日本創生会議の「地方元気戦略」は形を変えた市町村合併政策に他ならないということだ。

地制調の担当は総務省自治行政局)なので、答申の政策化は総務省を中心にして進められる。しかし平成大合併を強行して自治体リストラと行政サービス削減を推進した総務省に対しては全国市町村からの批判が根強く、とてもこれ以上のリストラ策を言い出せる状況にない。そこで元総務相の増田氏を座長に起用して提言をまとめさせ、しかも政府発表ではなく民間機関の提言として打ち出すという二重三重の仕掛けが施された。そしてこれを機に大々的な「人口減少・自治体消滅」プロパガンダの幕が切って落とされたのである。

だが、「選択と集中=集約とネットワーク化」による地方元気戦略は果たして成功するだろうか。地制調や増田提言が「地方中枢拠点都市」として挙げた全国61都市をみると、北海道では旭川、札幌、函館の3市、東北6県では青森、八戸、秋田、盛岡、仙台、山形、福島、郡山、いわきの9市、四国4県では徳島、高知、高松、松山の4市などとなっており、「地方中枢拠点都市」は基本的に県庁所在都市に限定されているか、あるいはこれに道県内1〜2の都市が加えられているに過ぎない。つまり増田提言が言うように、各県のごく限られた都市に対して「選択と集中」の考え方を徹底し、「人口急減に即して最も有効な対象=地方中枢拠点都市」に投資と施策を集中することは、その他の市町村にとっては「後は野となれ山となれ」と言われるに等しいことになる。(つづく)