無党派層はなぜ自民に回帰するのか、無党派層を一括りにして選挙動向を見るのは危険だ、無党派層のなかにも「固定票」「中間票」「浮動票」がある、2014年総選挙を分析する(その7)

 2014年12月8日に掲載された毎日新聞衆院選中盤情勢調査(12月5〜7日実施)は、読み応えがある記事が多かった。「自民圧勝」と伝えた各紙の序盤戦調査では十分に解明されていない疑問点について、掘り下げた分析が随所に見られたからだ。なかでも2面の「無党派層 与党へ」と題する一連の分析は、これまでの「無党派層=野党支持」との選挙常識を覆すもので、日本の有権者の投票行動に構造変化が生じているのか、それとも「無党派層」という分析枠組み自体に問題があるのか、いずれにしても従来の選挙にはなかった「新現象」が生じていることを伝えている。

 毎日記事は、具体的には2009年、12年、14年の3つの衆院選において、「支持政党はない」と回答した無党派層比例代表の投票先として挙げた政党の割合を比較し、過去2回と今回が異なる傾向を示していることを明らかにしている。すなわち2009年衆院選無党派層の投票先は、当時野党だった民主が34%となって与党だった自民の14%を倍以上に上回り、政権交代の原動力になった。

2012年衆院選では、無党派層の投票先は「新しい野党=第3極」として登場した「日本維新の会」14%、「みんなの党」7%、「日本未来の党」5%に向かい(合わせて26%)、与党だった民主は9%に激減して政権を失った。その一方、野党の自民は15%とほぼ前回並であったにもかかわらず、小選挙区制に助けられて政権に返り咲いた。無党派層は、野党とりわけ「新しい野党=第3極」にその多くが流れたのである。

ところが今回の2014年衆院選では、無党派層の投票先は与党の自民が野党時よりも6ポイント増えて21%となり、野党の民主は4ポイント増えて13%になったものの、逆転するに至っていない。維新は3ポイント減って11%になった。これは「第3極」の「みんな」や「生活(旧未来)」が解党状態になり、「日本維新の会」も「維新の党」と「次世代」に分裂して、「第3極」が事実上雲散霧消しつつあるからだ。行き場を失った無党派層が第3極から自民へと還流し、そのおこぼれが若干民主にもまわったものの、与野党逆転には至らなかったと言うわけだ。一方、共産は前回及び前々回の4%から8%へと4ポイント増えた。

こうした無党派層比例代表の投票先の変化をみると、一口に無党派層と言っても、その内実は自民寄りと共産寄りに分かれ、その中間に民主や第3極が位置していたことがわかる。前回及び前々回は自民15%前後、共産4%で合わせて20%前後が「固定票」、35%前後が民主、第3極などの「中間票」、残りの45%前後が文字通りの「浮動票」という内訳であり、この「中間票」および「浮動票」が無党派層の投票行動の特質を示すものとこれまで理解されてきたのである。

ところが今回の衆院選で「異変」が生じたのは、無党派層の投票先が自民と共産を合わせて30%近くに膨らみ、民主と維新が25%近くに収縮したことだ。つまり「浮動票」の比率は変わらないものの、「固定票」と「中間票」の比率が逆転したのである。そして、このことの意味することは決して小さなものではない。なぜなら、特定政党を支持しない無党派層の中にも政策志向が強まり、その結果として時々の情勢に応じて政策を変えたり、政党間の協力関係を変えたりする中間政党の存在が次第に薄れてきたのである。つまり無党派層は必ずしも「野党支持票」でもなければ、「浮動票」でもなく、政党政策を吟味して投票行動を決定する「確信票」の様相を帯びつつあると言えよう。

今回の「自民圧勝」の構図は、民主や維新などに一時期待をかけ支持してきた無党派層が「中間政党離れ」を起し、そのなかの比較的多数が自民に還流し、比較的少数が共産に流入した「過渡期の現象」だと考えられる。このことは、無党派層を含む全有権者の投票意向によっても確かめられる。集団的自衛権の行使に反対しながら(賛成35%、反対46%)、政党支持は自民23%、民主22%、共産12%、維新11%、公明7%に拡散しているのがその証拠である。政策評価と政党支持が乖離しているのは「過渡期の現象」の特徴であり、やがてその乖離は遠からず是正されていくだろう。「自民圧勝」は小選挙区制のマジックによるものであって、国民有権者の政党支持マップをそのまま示すものではない。この点を無視して安倍政権が暴走を続けるときは、次回総選挙での「無党派層の反乱」によって必ずや手痛い打撃を蒙るだろう。

なお12月9日、産経新聞衆院選情勢についての世論調査結果(12月4〜7日実施)を発表し、毎日新聞よりも自民優勢の選挙予測を報じた。「自民 単独3分の2迫る」、「民主伸び欠く、共産倍増も」というのがその見出しであり、私が注目してきた維新の動向は、「維新 お膝元でも苦戦」というものだ。それによると、大阪選挙区の終盤情勢は19選挙区のうち自民9、公明4、民主1がそれぞれ優勢に立ち、残りの5選挙区は「競り合い」になっている。うち維新が「僅かでも優勢」だと伝えられるのは1選挙区にすぎず、総崩れの可能性もないわけではない。今後とも「大阪冬の陣」に注目していきたい。(つづく)