2017年10月の次期神戸市長選挙は、阪神・淡路大震災復興事業の「負の総決算=損切り」選挙となるだろう、新長田南地区再開発と神戸空港への対応が市長選の帰趨を決めることになるだろう、阪神・淡路大震災20年を迎えて(最終回)

 今年1月3日から集中的に書き始めた「阪神・淡路大震災シリーズ」も今日で30回を数えた。まだまだ書きたいことは山ほどあるが、もうこのあたりで一応の締め括りをして次のテーマに移りたい。最終回のトピックスは、2017年10月の次期神戸市長選をめぐる話題だ。

一般的に言って、現職首長の2期目は当選確率が高いといわれる。新人候補の時は支持基盤が薄いうえに有権者に顔と名前が知れ渡っていないので、余程のことがない限り苦労するのが通り相場だと聞く。久元現市長の場合もそうだった。これまでのように助役(副市長)出身の身内候補ではなく、国の天下り官僚だからなおさらのことだ。選挙戦終盤では市民派候補の優勢が伝えられ、投票当日の出口調査でも情勢は五分五分で当落の予想が全く付かなかった。開票後、相手候補に一時リードされたときなどは、「敗戦の弁」を用意するまでに追い詰められていたという。

聞くところによれば、矢田前市長は「もう一期やりたかった」というのが本音らしい。しかし、市職員の3分の1の「大リストラ」をやった市長が庁内の支持を得られるはずがない。といって、またもや助役(副市長)出身の「身内候補」では市民の反発は避けられない。誰が知恵をつけたのか知らないが、進退窮まった矢田氏が窮余の策として選んだのが「天下り候補」の払い下げであり、それが久元現市長だったいうわけだ(矢田氏は、回顧録『道を切り拓く』のなかでも2013年市長選のことについては一言も触れていない)。

市役所一家の身内候補なら「市役所マシーン」(市職員現役・ОBの合同選対組織)がフル回転して票集めに動くところだが、天下り候補の場合はそうはいかない。まして久元氏は矢田前市長が外から勝手に連れてきた(といわれる)候補だから、市職員にとっては面白くないことこの上ない。選挙運動はいっこうに盛り上がらず、その後も「あてがいぶち」の市長では仕事をやる気がしない――との空気が広がっていると聞く。

それはともかく、特段の事情がない限り久元現市長は次期市長選にも出馬するのだろう。しかし問題はその時点での神戸市を取り巻く情勢がどうなっているかということだ。「政治は一寸先が闇」だから予測することは難しいが、それでも言えることは、新長田南地区再開発と神戸空港を取り巻く情勢が一段と厳しさを増していることだけは確かだろう。

新長田再開発事業については先行きが全く見えない。そうでなくても地元の長田区と兵庫区の人口が回復せず(減少を続け)、しかも新長田商店街周辺では大型店の出店が相次ぎ、それぞれが「小さくなったパイ」を取り合っている有様なのだ。こんな状況下では、小手先の対応策など通用せず、事態はますます悪化するばかりだ。にもかかわらず、久元市長からのメッセージも聞こえてこなければ、担当部局からの見るべき政策提案もない。神戸市政の劣化にともなって政策能力が著しく低下し、諦めと無力感が庁内全体に漂っている。このままでは、ズルズルと「ゴーストタウン」への道を歩むことにもなりかねない。

神戸空港に至っては、もはや「自力再建」を断念しているとしか思えない。まだ海とも山ともわからない関空・伊丹両空港の運営権売却先の新会社に望みを託し、「あなたまかせ」の方策に身を委ねているだけだ。2億円の調査費で運営権売却の準備をするというが、実質的には外部のコンサルタントに委託料を支払って報告書を受け取るだけのことだ。しかし、この種のコンサルタントの報告書には怪しげなものが多い。神戸空港の計画に際しても、外部コンサルタントの報告書は当初、年間利用者数の需要予測を2010年時点で570万人と計算していた。それが「過大」だと批判されると、今度は一気に150万人減の420万人に訂正する始末なのである(ちなみに2010年の実際の利用者数は222万人だった)。

今回もおそらく神戸空港計画時の需要予測と同じく利用価値を最大限に見積もり、運営権の売却価格を可能な限り吊り上げるとの指示が出されるのであろう。コンサルタントはクライアント(注文主)の要請に応えなければ仕事がもらえない。通常の見積もりは個々の要素を積み上げて計算するものだが(だから積算と言う)、このような場合はまず神戸市から希望価格が提示され、それを満たすための計算式とパラメーターをコンサルタントが用意するということになるのではないか。適当なパラメーターの数字が得られない時は、調査をして該当する数字を見つけるのである。

だが、空港運営権の売却価格はこんな計算式で決まるのではなく、あくまでも売り手と買い手の交渉で決まる。あえて言えば、両者の力関係で決まるのである。現在、運営会社そのものがまだ架空の存在なので何ともいえないが、「火の車」状態の神戸市の足元は誰もが見ている以上、売却交渉がそんなにうまくいくとは思えない。なにしろ新会社が設立されても神戸市との交渉が始まるかどうかもわからないし、またスカイマークがそのときに存続しているかどうかもわからない。行き着く先がタダ同然の神戸空港の「身売り」でなければよいと思うが、ちょうどその頃に次期市長選がやってくるのである。

 2017年10月の次期神戸市長選挙は、阪神・淡路大震災復興事業の「負の総決算=損切り」選挙となるだろう。新長田南地区再開発と神戸空港の結末をどうつけるか、この困難な課題をクリアーしなければ次の神戸市長の座を窺うことはできない。久元現市長の人気がそれほどでもないらしいから、2期目といえども挑戦者側には大いに可能性があると思う。ただし、上記の2つの課題をクリアーできるだけの政策とそれを実現できる意思と能力を持った候補者の存在が大前提となる。

 次回の選挙政策の要諦は、神戸の「夢と希望」を語るというよりは、神戸の「厳しい現実」に真正面から向き合うものになるだろう。有体に言えば、それは阪神・淡路大震災以降の「負の総決算」を市民に提起することであり、具体的には不良復興事業の「損切り」を断行するものでなければならないということだ。しかし、この政策を市民に理解してもらうのは容易なことではない。神戸市の責任でやった失敗をなぜ市民が尻拭いしなければならないのか、市の責任において処理すべきだとの声が当然上がるだろう。

 問題の本質は、震災以降の「負の総決算」がもはや市役所一家の能力の限界を超えているところにある。市の責任追及は当然だが、その方向は「市長交代」に向かうものでなければ、問題を解決することができないということなのだ。新たな開発(三宮再開発など)資金を捻出するために「総決算」するのではない。「まちなか再生」「神戸再生」のために、そして神戸市政の刷新のために不良事業の「損切り」を断行しなければならないのである。

 選挙政策は一夜にしてできるものではない(どこかの政党のように上からの文章をコピペして政策を作ることなど、政党活動の劣化と退廃以外の何物でもない)。まして市民の「痛み」をともなう政策は、政策を作るプロセス自体が既に選挙戦だと言ってもいい。私が前回のブログで新長田再開発事業と神戸空港建設に関する調査検証を呼びかけたのは、検証作業自体が政策作りの上でも市民合意の上でも不可欠の作業だと考えるからだ。市当局や市議会が乗り気でなければ市民がやる他はない。そして「痛み」を分かつ合意を市民の間に形成するためには時間をかける他はない。

 一番難しいのは候補者問題だろう。次期神戸市長選の候補者は市役所一家のしがらみを断ち切れない政党・労組関係者や役人上がりは最初から「ペケ」だ。また、言うだけで実行力のない学者やタレントも問題外だ。新長田南地区再開発事業と神戸空港の結末をつける「負の総決算=損切り」選挙には、知恵と腕力と良心がある経済人が不可欠だと思う(いればの話だが)。企業倒産や合併など数々の修羅場を潜り抜けてきた辣腕の経営者、それも神戸再生に情熱と使命感があり、市民と共に歩もうとする候補者を見つけ出さなくてはならないし、見つけ出せればと願う。

●次のテーマにかかるまで少し時間を必要としますので、2月中旬までブログを休みます。