橋下市長は焦っている、橋下市長は追い詰められている、大阪都構想説明会の空気が変わり始めた、大阪府議選・市議選から都構想住民投票へ(2)、橋下維新の策略と手法を考える(その20)

 昨日、大阪都構想の説明会に行った知人の話を聞いた。「個人的な感想だが」と前置きして語り始めたその内容は、新聞紙上で伝えられている会場の様子とはかなり異なっていた。結論から言うと、橋下市長は一見冷静そうだが、追い詰められて、かなり焦っていると言うのである。

 橋下氏は都構想説明会を住民投票のための絶好の機会だと捉えてきた(今もそう考えている)。テレビのトークショーと同じく、自分の話術を以ってすれば如何なる論敵も打ち負かせるとの自信がそうさせるのだろう。市内一円での説明会で「都構想はよくわからないが、何だかいいものらしい」との雰囲気を作り上げ、電通博報堂など大手広告会社のプロパガンダ(誘導宣伝活動)をフルに利用して一挙に住民投票になだれ込む作戦だ。

 この作戦は、維新が市内各地で行ってきた「タウンミーティング」と称する演説会の経験に基づいている。橋下氏が上段から都構想のメリットを大きく謳い上げ、「橋下フアン」の聴衆がやんやの拍手を送ると言うあの構図だ。これだとうるさい議会とは違って、短時間で宣伝効果を挙げることができるし、また多くの聴衆を動員することもできる。こんなことで、維新の「タウンミーティング」のセカンドバージョンとして説明会が企画されたのだろう。

 ところが、市議会の反対各派は説明会への参加を拒否した。維新の意図する「タウンミーティング」に参加すれば冷静な議論ができず、橋下市長の一方的な主張に巻き込まれるとの理由だ。しかし、これは拙かった。橋下氏にわざわざ宣伝機会を与え、しかもその場で反論しないのだから、まるで「戦わずして負けた」ようなものだ。市民の目には「自信のないことおびただしい」と映ったのではないだろうか。

 公開討論は通常の場合、テーマ(論題)をめぐって双方あるいは各派が討論する形で行われる。都構想の場合で言えば、維新が提案して公明が賛成した協定書の内容が論題になり、そのなかの重要項目について討論し、内容の妥当性を公衆の面前で明らかにすることが目的になる。

しかし、橋下氏の場合はこのルールが通用しない。今でも記憶に新しいが、某政治学者とのテレビ討論で橋下氏が採った論法は、テーマをまともに議論しないで、「現場を知らない」という相手側の弱点を最大限攻撃するものだった。これはいわば、正面攻撃は避けて側面から奇襲攻撃をかけると言う橋下氏の例の得意戦法だ。この作戦にまんまと乗せられた政治学者はなすところなく降板した。

市議会各派おそらくこんな場面を恐れたのであろう。公衆の面前で橋下氏の「すり替え論法」や「奇襲攻撃」に対応できずに立ち往生すれば面目が立たず、政治的に傷がつくと尻込みしたのではないか。しかし、私は議会各派が橋下論法に真正面から「愚直」に対決して欲しかった。橋下氏のようなデマゴーグが繰り出すレトリック(詭弁)にいちいち取り合わず、自らが信ずるところを真正面から愚直に訴え続けてほしかったのである。

 都構想の説明会は4月26日まで39回が予定されている。説明会は橋下市長が一手に引き受けるのだから、彼が何と言おうと都構想反対各派が自らの信条を真正面から愚直に訴え続ければ、説明会は一過性のテレビのトークショーではないのだから、序盤は無理だとしても終盤になれば会場の空気は必ず変わるはずだ。しかし、説明会には議会各派が登場しない。

 なぜこんなことを言うかというと、昨日の知人の話では会場にこんな空気が流れ始めているというのである。橋下氏は市民の質問や意見を封じるため、自分の発言時間は一方的に延長しながら、質問者の発言時間は極力短縮して説明会を切り上げようとする。それに対して参加者の間からは「こんな説明会の運営はおかしい」とか、「もっと質問させろ」との声が上がり始めたと言う。いわば、市議会各派が尻込みした説明会に市民が堂々と参加し、率直な疑問や意見を真正面から愚直にぶつける場面があらわれてきたのである。

 誤解を恐れずに言えば、市民は橋下市長に納得できる説明をいちいち求めようとするよりは、彼の発言の如何に関わらず、自らが信じるところを真正面から愚直に発言し続けることが大切だと思う。そして、市民のごく当たり前の疑問や要求に応えようとしない(応えることができない)橋下氏の姿勢を白日の下に晒すことが重要だと思う。39回の説明会をその場限りのトークショーに終わらせることなく、39回全体を通してみた時に橋下市長の言い分のでたらめさと不当さが市民の前に明らかになるような全体戦略が求められるのである。

都構想説明会の空気が中盤から変わりはじめたことで、橋下市長に焦りが見え始めてきた。もっと言えば、橋下市長は追い詰められているといえるのかもしれない。私もその空気を確かめるため、近く説明会の見学にいく予定だ。(つづく)