消費税増税の先延ばし策(安保法案隠し)で総選挙の議席を掠め取り、消費税負担軽減策の財務省案(安保法案逸らし)で公明党支持層を撹乱する安倍政権の「目くらまし謀略」の真相、大阪都構想住民投票後の新しい政治情勢について(6)、橋下維新の策略と手法を考える(その60)

 安保法案審議が参院で最終盤に差し掛かった9月10日、自民・公明両党による与党税制協議会が開かれ、財務省から消費税10%時の負担緩和策としてマイナンバーカード利用を前提とする2%還付案すなわち「日本型軽減税率制度」が突如示された。今回の財務省案は、自民党の野田税調会長、公明党の北側副代表、財務省の佐藤主税局長らが中心となって極秘に練られてきたもので、両党税制調査会幹部も大筋で了承していたと伝えられている。ただ、マイナンバー制度を利用するため「改正マイナンバー法」(2018年から金融機関の預貯金口座にマイナンバーを適用して国民の預貯金額を把握)の成立までは党内にも伏せられていた関係で、公表された内容に驚いた与党議員も少なくなかったという(朝日新聞、2015年9月8、11日)。

 財務省案は、かねてから経団連が要求してきた「消費税軽減税率の導入反対」を具体化したもので、消費者が店頭で「酒類を除く飲食料品」(外食を含む)を購入する際に税率10%分の金額を支払い、後日2%分に見合う金額の給付(ただし上限あり)を申請する仕組みだ。この案は財務省にとっては「一石二鳥」「一石三鳥」のメリットがあり、(1)消費品目ごとに軽減税率を適用する「線引き」の事務負担がなくなる、(2)還付額に上限を課すことで、本来消費者に還元すべき消費税額の相当部分を確保できる、(3)マイナンバーカードを提示しなければ還付を受けられない仕組みにすることで、マイナンバー制度の普及を図り、預貯金などの名寄せを行って課税漏れを防ぐなどなど、財務省にとっては喉から手が出るほどのメリットが盛り沢山だ。

 しかし、財務省にとっての「メリット」は国民にとっての「デメリット」に他ならないから、当然のことながら国民の間からは激しい批判と反発が沸き起こった。私などは、マイナンバーを「国民総管理」の手段にして「国民の財布」を一手に掌握しようとすることなど、まるで戦前の内務省特高の発想ではないかと思ったくらいだ。だいたい毎日の買い物の中身を国税庁に知られるなんて、考えてみただけでもぞっとする。そんなことは「絶対にイヤだ」と思う気持ちは、国民全体に共通するものではないか。

 この財務省案にひときわ強い反応を示したのが公明党だ。例によって北側副代表が公明党の窓口になって自民党との密談(取引)で案をまとめ、これが両党合意の内容だとして党幹部が所属議員を説得して自民党案を呑ませるというのが、これまでの公明党の常套パターン(手段)だった。その典型が高村・北側合作の安保法案であり、公明党は安保法案を丸呑みして自民党の「パシリ」を勤めてきたのである。

ところが、今回は案に相違して9月11日の公明党税制調査会総会では異論が噴出し、翌日12日の地方組織の代表を集めた全国県代表者会議では「これでは参院選が戦えない」との抗議の声が上がったという。そう言えば、2014年衆院選公明党の公約の目玉は、消費税率を10%に上げる際には食料品などは軽減税率を導入して税負担を軽くするというものであり、それがご破算になったので怒りが爆発したと言うわけだ(日経新聞、9月16日)。

 私はこのニュースを聞いたとき、最初は「またしても」と思ったが、暫くしてこれは「安保法案逸らし」の釣り球ではないかと気付いた。「平和の党」の看板を投げ捨てて安保法案(戦争法案)の成立に向かってひた走る公明党に対しては、このところ創価大学関係者からも厳しい批判の声が上がり、親子代々の創価学会員からも安保法案反対の署名活動が起こるなど次第に批判の輪が広がってきている。これに対して有効な説得手段を持たない党幹部は、山口代表自らが特別委員会質問などのジェスチャーで批判をかわそうとしたが不発に終わり、安保法案から公明党支持者や学会員の目を逸らすもっと大きな「釣り球」が求められていた。それが今回、安保法案審議の最終盤になって投げられた財務省の「日本型軽減税率制度」だったのである。

 果たせるかな、公明党内は財務省案批判一色となり、あたかも政府に対して公明党が支持者や学会員のために奮闘しているかのような構図が作られた。こうして党執行部に向けられつつあった安保法案反対の矛先は、巧みに消費税軽減財務省案反対の方向にすりかえられ、「安保法案逸らし」は予定通り進行しつつある。
 
それにしても、今回の安保法案強行劇は何から何まで異様きわまるものだった。2014年総選挙で自民党が掲げた選挙公約は、表紙の『景気回復、この道しかない』とのタイトルにも象徴されるように、消費税10%増税先送りを中心とする景気対策が公約の目玉であって、「集団的自衛権」の文字など何処を探しても見つからない。つまり、安倍首相は消費税10%増税先送りを釣り球にして「安保法案隠し」を策し、国民をあざとく欺いたのだ。そして自公両党で衆院議席の3分の2を超える絶対多数を確保するや否や、安倍内閣は一気に安保法案の国会上程の準備に取りかかり、今年5月14日に集団的自衛権の行使を可能にする安保法案を閣議決定したのである。

 安保法案審議の最終段階にかかった今、再び消費税を使った謀略が持ち出されてきている。公明党内の「安保法案逸らし」のために「日本型軽減税率制度」と言う名の財務省案が突如持ち出され、公明党内の安保法案反対の動きが分断されようとしている。自民党財務省公明党幹部合作の「日本型軽減税率制度」の謀略はいま一路進行中だ。(つづく)