手放しで喜べない衆参3選挙の野党全勝、〝チグハグ野党共闘〟で果たして次期衆院選に勝てるのか、菅内閣と野党共闘の行方(31)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その256)

 

 菅首相就任後初めての国政選挙であり、次期衆院選の前哨戦と位置づけられた4月25日投開票の衆院北海道2区と参院長野選挙区の両補欠選挙、参院広島選挙区再選挙は「野党全勝」で終わった。選挙前の自民党の算段では、北海道は汚職で立候補断念の「不戦敗」、長野は野党前職の「弔い合戦」だから仕方ないにしても、広島では「政治とカネ」の問題はあっても、強固な保守地盤を総動員して「1勝2敗」に持ち込むつもりだったらしい。それが全敗したのだから、菅政権への打撃は少なくないはずだ。

 

 菅首相は翌4月26日、自民党役員会で「国民の審判を謙虚に受け止め、正すべき点はしっかり正したい」と一応型通りの挨拶はしたが、彼自身が深く関与した河合安里氏への肩入れ問題や党資金1億5千万円問題については何ら言及することなく、ダンマリを決め込んだままだった。また、有権者の不信を買った新型コロナ対策の遅れについても何も語らなかった。要するに、選挙の敗因について何ひとつ語らず、ただ「分析する」と言って責任逃れに終始しただけだ。これでは、自民党支持者といえども到底納得しないだろう。

 

 一方「立憲ニュース」(4月26日)によれば、枝野代表は平野代表代行や福山幹事長とともに翌26日午前、いち早く連合会館に出向いて神津会長に選挙結果を報告している。終了後、枝野代表は記者団に対して次のように語った(要約)。

 

「昨日、投開票のあった3つの選挙で、われわれの公認あるいは推薦する候補が3勝することができた。党派、立場を越えて幅広い皆さま方に大変力強い応援をいただいたおかげだと感謝している。何と言っても3つの選挙とも、連合の皆さんには目に見えないところでのことをはじめとして、大変力強いご支援をいただいたことが大きな流れをつくっていく原動力であったと思っている。早速、神津会長にご報告と御礼を申し上げたところだ。間違いなく半年以内にある総選挙に向けて、さらに連携を強化し、力強いご支援をいただける構造をつくって、政治を転換していきたいという話を神津会長とさせていただいた」

 

長野の選挙で一連の政策協定を巡る混乱もあったが、今日は神津会長をはじめ皆さんとお話をする中でその点について言及はあったか  「お互いいろいろな経緯を分かっている同士なので、具体的なことを申し上げたというよりも、この間大変ご迷惑をおかけしたりご苦労をおかけしたりしたが、結果を出すことができ有難うございました、という話をさせていただいた」

 

神津会長は415日の記者会見で、次期衆院選について政権選択選挙だから、立憲民主党と国民民主党が実際に内閣を形成して政権を担うことが一番現実的だと発言された。今日は政権構想について話があったか。また、次期衆院選までに政権構想を発信する考えはあるか

今日、具体的に政権構想というような言葉はやり取りの中ではなかった。ただ、政権選択の衆院選挙が半年以内ですね、ということを踏まえたやり取りをさせていただいた。政権構想という言葉はよく踊るが、その政権で実現しようとする政策のことを指すのか、それともその枠組のことを指すのか、それからそこに向けた選挙戦略、選挙戦術のことを指すのか、多義的なので、そういった意味では、既に枝野政権で何を目指していくのかという概略は、かなり具体的なことは、この間の国会審議等を通じて示してきている。それを実現する政権をつくっていく」

 

枠組という点で、次期衆院選までにつくるのか

それは相手もあることだ。私どもが目指している政策、あるいは中長期的な展望を踏まえながら、それぞれの党や議員にはそれぞれのお考えがあるわけだから、どこまでどういう連携ができるのかは相手の立場も踏まえながら、今後、柔軟に、その都度都度示していくことになる」

 

この記者会見の内容はメディアでも大きく取り上げられ、立憲民主党の思惑についてはいろんな観測記事が出ている。その中で枝野代表の「本音」を伝えたのが産経新聞(4月26日電子版)だろう。その部分を紹介しよう。

 

「立憲民主党は、野党統一候補の衆参3選挙全勝は立民が主導した共闘の成果だとし、次期衆院選の各選挙区で野党候補を一本化する調整を加速させたい考えだ。(ただし)共産党と一体とみられるのを避けるため、基盤が弱い新人候補の競合は事実上容認し、立民の現職や元職らが出る選挙区では共産に擁立を見送ってもらってその票を得るという限定的な協力にとどめる案が有力となっている」

 「立民は289選挙区中207選挙区で候補者を決めているが、このうち67選挙区は共産と競合する。非・与党票が複数の野党に分散すれば与党候補に有利に働く。 とはいえ、立民には一本化のために候補者を取り下げる考えはない。一方の共産も安易に譲歩できない。前回衆院選では取り下げた選挙区で党員の活動が鈍り、比例票を減らした苦い記憶があるからだ」

 「こうした中、立民は野党共闘の『大きな試み』(福山哲郎幹事長)と位置付けた衆参3選挙の勝利を、立民主導の共闘の促進剤にしたい考えだ。特に衆院北海道2区と参院広島選挙区では共産が過去の選挙戦で公認候補を立てたが、今回は共産が降り、立民系候補に一本化した。国民民主、社民両党の推薦を得た一方で共産には推薦を求めず、広島は支援、北海道は地方組織推薦にとどめた」

 「一定の距離を取りながら票はもらうという立民の都合を優先した対応に共産では不満も出た。小池晃書記局長は26日の記者会見で『絶大な効果が出た』と今回の共闘を前向きにとらえたが、今後の一本化に向け『政策的な一致、相互支援、対等平等の関係』も求めた。連合や立民内の保守系議員は、これらの共産の要求は絶対に受け入れられないとの立場をとる」

 「立民は現在、共産と競合している67選挙区の6割で新人が立候補を予定する。一方、立民現職が出馬予定の選挙区では9割近い80余りの選挙区で共産が候補者を決めていない。立民幹部は『ここを中心に今後も共産に擁立しないでもらうことなら両党が納得できるのではないか。無理に候補者取り下げをお願いすれば要求を断り切れなくなる』とみている」

 

 まったく自分本位の勝手きわまる言い分だが、今までの経過を見ると大体その線で落ち着いてきているので、立民は今回も「そうなる」と楽観視しているのだろう。だが、不協和音も聞こえてくる。すでに選挙中から「共産『共闘』へ募る不満」「衆参3選挙 立民の対応『屈辱的』」といった記事が出ていた(読売新聞4月19日、要約)。

 

 「25日投開票の衆参3選挙での野党共闘をめぐり、共産党が不満を募らせている。立憲民主党が支持母体の連合に配慮して、『共産色』を薄めようとしているためだ。両党の間にしこりが残れば、次期衆院選での連携に影響が出る可能性もある」

 「『3選挙では筋の通った形で野党統一候補ができた。勝利のために全力を挙げる』。共産党の志位委員長は15日の記者会見で、選挙への意気込みを強調した。しかし、ある幹部は『選挙戦の現場では〈共産隠し〉とも言える屈辱的な扱いを受けている』などと憤りを隠さない。北海道では、共産党が立候補予定者を取り下げて立民に譲ったにもかかわらず、共産党関係者は立民候補の第一声に来賓として招かれなかった。立民候補には国民民主、社民の両党が推薦を出しているが、共産党は道委員会の推薦にとどまる。それでも立民からは『推薦自体いらなかったのに』との声も聞かれる。実際、広島では共産党は推薦の枠組みから外れた。諸派の候補を立民、国民、社民が推薦するが、共産は自主支援だ」

 「さらに、立民の枝野代表は街頭演説会などのマイクを握る際、共産党議員と並ぶことを避けている。不和の発端は長野の立民候補が2月に共産党県委員会などと結んだ政策協定だ。『原発ゼロ実現』など共産色の濃い内容に連合が反発し、枝野氏は謝罪を強いられ、立民候補は連合とも政策協定を結ぶことになった。それでも共産党は表立って立民を批判することは控えている」

 「一方、立民には共産党が前面に出れば、連合だけでなく、保守票が逃げかねないとの計算がある。各小選挙区で共産党が候補者を降ろし、『こちらに票をまわしてくれるだけでいい」(党関係者)のが本音だ。次期衆院選を見据え、共産党との間合いを測っている側面もあり、今後も両党の駆け引きが続きそうだ』

 

 立憲民主党の枝野代表と共産党の志位委員長は4月27日、国会内で会談し、次期衆院選での候補者一本化を念頭に幹部間の協議に入ることで一致したという。ただ次期衆院選での野党共闘については、志位委員長は「共通政策、政権の在り方、選挙協力の三つの分野で協議を行いたい」と提案したが、枝野氏は「政策の一致しているところをしっかり確認しなければならない」と述べるにとどめた(時事通信4月27日)。 

 

 共産党が野党共闘の筋を通すのか、それとも〝チグハグ共闘〟のままでいくのか、はたまた立民の「下駄の雪」になるのか、今後その行方が注目される。次回は、それぞれのケースについて分析しよう。(つづく)