小池東京都知事は「小池新党」を立ち上げるか、橋下大阪府知事は自民党を分裂させて「おおさか維新」をつくった、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その3)

ここ10日間ほど拙ブログは開店休業状態だった。都知事選について書きたいと毎日思いながら、どうしても筆が進まないのである。差し迫った別の原稿があるわけでもないのに、いったいどうしてなのか。最大の原因は、堺市長選や大阪ダブル選のときのように選挙現場に出かけ、自分の目で情勢を分析できなかったからだ。

新聞各紙の世論調査では軒並み小池氏の優勢が伝えられ、それを否定することのできる材料が見つからない。東京の友人からいろんな情報をもらっていたが、まさかそれだけで書くわけにもいかない。自分で現場を見なければ、納得のできる選挙情勢の分析は難しいのだ。そんなことで逡巡している間に日はどんどんと流れていき、遂には投票結果を見てから書く破目になってしまった。

今回の選挙結果はきわめて明快だ。なにしろ、小池氏が増田・鳥越両氏に百万票以上の大差をつけて圧勝したのである。これだけの大差がつくと、選挙結果の分析は誰でも同じ結論に落ち着く。要するに、小池氏が都民の反都議会・反自公与党の感情をすくい取ることに見事成功したのに対して、増田・鳥越両氏それに失敗したのである。

もちろん、増田氏と鳥越氏の失敗の原因や内容は異なる。増田氏の場合は都民に不評の自公推薦で出たのだから、それは負けるべくして負けたのである。いくら自公与党が都議会の過半数を占めていても、首長選挙は別物だ。石原・猪瀬・舛添と3代続いた自民党知事に愛想をつかした都民が、今度ばかりは自民候補に「お灸をすえる」という気持ちになってもおかしくない。小池氏の最大の勝因は自民の推薦を得られなかったことであり、それを承知で(逆利用して)知事選に立候補した小池氏の政治センスは抜群だと言わなければならないだろう。

鳥越氏の敗因は、一言で言って「マスメディア著名人神話」の崩壊によるものだろう。鳥越氏はリベラルなジャーナリストである。ニュースキャスターとしても優れた能力を発揮した人だ。だから、彼が立候補を表明したときには大いに期待した。ただ心配だったのは76歳のいう高齢であり、かつ大病を経験した点だった。

しかし、都民はもとより私も含めて多くの国民は、そのことよりも彼の出馬第一声にいたく失望したのではないか。そこに見られたのは、東京都政をどうする、都議会をどう変える、国と東京の関係をどう構築するといった都知事候補に求められる政策と決意の表明ではなく、病歴を克服した彼個人の想いであり、思い付きの政策の羅列でしかなかった。この瞬間、鳥越氏に対する有権者の期待は激しい失望感に変わったのである。

リベラルなジャーナリストならもっと都民の期待に応える政策を打ち出せるはずだ、都民の心に響く公約を届けられるはずだ...こんな鳥越氏に対する期待が見事に外れ、それ以降の選挙戦でも遂に最後まで修正出来なかった。野党統一候補なのだから、選挙陣営には多くの優れた政策スタッフがいるにちがいない。彼らが徹夜で討議をすればもっと具体的で的を射た政策を打ち出せたはずなのに、なぜそれができなかったのか。

私はそこに「マスメディア著名人神話」ともいうべき幻想を見る。同じ著名人でもテレビタレントのような類の人物は、さすがに最近は化けの皮がはがれてきている。善意の人であるかもしれないが、石田純一氏が立候補を取り止めたのは賢明な判断だった。出馬していれば、おそらく二度と立ち上がれないほどの惨敗を喫していたことだろう。テレビで名が売れていることと、都知事としての資質と識見を有していることは全くの別物なのだ。それがわかっていない本人と取り巻き連中が相も変わらず世間を騒がせるのである。

この点、鳥越氏はジャーナリストであるだけに都知事候補にふさわしい見識と能力を備えているものと(ばかり)思っていた。東京都政についても一定に知識と政策を有していると思っていたのである。ところが蓋を開けてみると、それは「準備不足」といったレベルの問題ではなく、「知識不足」と言ってもおかしくないような水準の問題であることがわかったのだ。これは候補者としては致命的な欠陥であり、政策論争でも街頭演説でも小池候補に勝てるわけがない。彼の演説は恐ろしく抽象的で国政のことばかりだ(私に友人からのメール)――という印象を克服できなかったのである。

 選挙結果についてはもうこれぐらいにして、今後のことについて述べたい。今日の各紙で私が一番注目したのは、産経新聞の「お維新 高まる存在感」「都議選 小池氏と共闘」「憲法審査会で議論主導」という見出しの特大記事だ。記事の概要はこうだ。
――「小池氏が都の大改革を行う姿勢が本物なら、都議選は改革勢力を大きくする方向で協力したい」。馬場氏は31日、小池氏の勝利を受け、産経新聞の取材にこう強調。小池氏が次期都議選で独自候補を擁立するなどした場合、小池氏の支援に回る考えだ。小池氏は今回の都知事選で、自民党都連と激しく対立。次の都議選では自民党都議への「刺客」候補を立てる可能性が高い。これをおおさか維新が支えれば、昨年4月の大阪府議選のように、「自民党対第三極」の対決構図が生まれる。」

産経記事にはもう一つの件(くだり)がある。「首相は7月30日夜、都内のホテルで菅氏を交え、おおさか維新の橋下徹前代表や松井一郎代表(大阪府知事)、馬場氏と会談。参院選で維新を含む「改憲勢力」が発議に必要な3分の2を占めたことを踏まえ、改憲議論を進めることに協力を求めた。松井氏らは、憲法審でおおさか維新側から具体的な改憲条文の候補を提示し、議論を主導する考えを示した」という記事で、この会談は3時間に及ぶ異例の長時間のものであった。松井氏への取材は30日の首相との会談の翌日なので、国会での改憲議論と併せて都議会選挙のことも話し合われたと考えても不思議ではない。

この2つの記事は、小池氏が都議会で「小池新党」をつくり、おおさか維新と呼応して改憲勢力の先鋒隊になる可能性をも示唆している。東京都議会を足掛かりにした「第三極」ならぬ極右勢力が東京で台頭するとなると、彼らは改憲国民投票で巨大な集票力を発揮しないとも限らない。これからの政局に与える小池氏の影響力は大きく、その動向から目を離せない。(つづく)