稲田防衛相が靖国参拝を「パス」する理由、海外視察で靖国参拝を誤魔化すのはなぜか、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その5)

 8月12日の各紙電子版は、「稲田氏、終戦記念日靖国参拝を見送り」と伝えた。防衛省が12日、稲田防衛相が13〜16日の日程でアフリカ北東部のジブチを訪問し、自衛隊の派遣部隊を視察すると発表したからだ。これで、稲田氏が靖国参拝を強行する(に違いない)との私の観測はあっさり外れた。

海外視察とはうまい口実を考えたものだ。国内にいて靖国参拝をしないとなれば、稲田氏の御仲間である極右団体は黙っていないだろう。防衛相になった今こそ「日本国軍」を率いる覚悟を示さなければ、彼女がその地位にいる値打ちがないと思われるほど「期待」されているからである。しかし、海外に派遣されている部隊の視察に行くとなれば、安全保障法制で可能になった「集団自衛権行使=海外派兵」の準備をするためとの言い訳が成り立つ。これなら、右翼陣営の納得も得られると踏んだのだろう。

稲田氏は、憲法9条改正が持論の自民党きっての極右タカ派だ。最新版の『赤旗日曜版』(8月14日号)によると、稲田語録の凄まじさには驚く。
――靖国神社というのは不戦の誓いをするところではなくて、「祖国に何かあれば後に続きます」と誓うところでないといけないんです。(雑誌『WiLL』2006年9月号)
――自分の国は自分で守る。そして自分の国を守るためには、血を流す覚悟なくしてこの国は守れません。(2010年12月1日、「民主党内閣倒閣宣言! 国民大集会」でのスピーチ)
――長期的には日本独自の核保有を、単なる議論や精神論ではなく国家戦略として検討すべき。(雑誌『正論』2011年3月号)
――憲法は今すぐ破棄して、自主憲法を制定しなければならない。(2012年5月10日、創成「日本」東京研修会あいさつ)

ここに一貫して流れているのは、「祖国のために血を流す国民」をつくらなければならないという「滅私奉公」の精神であり、戦前軍国主義そのもの思想だ。靖国神社はその象徴であるからこそ参拝しなければならないのであり、それゆえに価値ある存在として奉られているのである。こんな「ウルトラ右翼」が防衛相に就任したのだから、安倍政権は自衛隊の「国軍化」に一歩も二歩も踏み出したと考えて間違いない。そこには世上言われるような、主要閣僚を留任させた「安定内閣」の印象など一片もみられない。

これも『赤旗』(8月5日)の報道だが、8月3日に発足した第3次安倍再改造内閣の閣僚20人(安倍首相を含む)のうち、公明党の石井国交相を除く全員が「日本会議国会議員懇談会」「神道政治連盟国会議員懇談会」「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のいずれかの議員連盟に所属歴がある「靖国」派の政治家だという。このうち3議連の全てに所属する「三拍子」そろった極右タカ派は、安倍首相、高市総務相、稲田防衛相など10人、改憲右翼団体日本会議」の運動に加担する「日本会議国会議員懇談会」の所属議員15人というのだから、戦後の自民党内閣の中でこれほど右傾化した内閣はないと言っても過言ではないだろう。ちなみに、世間では「ハト派」などと称されている岸田外相もれっきとした日本会議国会議員懇談会のメンバーなのだから、いまや日本の「ハト」は全て「タカ」に変身したと考えても間違いないのである。

このように頭の上から爪の先まで全身を「靖国」仕様で固めた第3次安倍(武装)内閣は、これから何をいったい目指すのか。一言で言えば、それは稲田防衛相を突破口にして自衛隊を「日本軍」に変える作戦に着手するということだ。安倍首相の狙いは、稲田氏を突出させてまず世論を騒がせ、その一方で自分は「まだそのつもりはない」と否定しながら、次第にその方向へ世論を誘導するという「マッチ・ポンプ作戦」の展開にある。

たとえば8月6日の広島原爆式典の記者会見において、安倍首相は「将来的に核兵器保有の可能性を検討すべきだ」とした稲田防衛相の過去の発言に関する見解を聞かれ、「わが国が核兵器保有することはあり得ず、保有を検討することはあり得ない」と述べたのがその一例だ。稲田氏はその意味で単なる防衛相ではなく、安全保障「広報」担当相としての役目を負わされていると考えなければならない。

この点に関して、8月12日配信の「ダイアモンド・オンライン」の記事が面白い。政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏の見解によれば、今回の内閣改造の注目点は、政調会長だった稲田朋美氏の防衛大臣への抜擢だという。このなかで鈴木氏は、「この思い切った人事には、稲田さんを自民党の総理候補、そして自らの後継者として育てていこうとする安倍総理の強い意志を感じさせるものがあります。 そして稲田さん自身も、安倍総理の期待に応えようと、後継者としての政治家像をイメージして脱皮を試みています。その証拠に、防衛大臣就任直後の記者会見でも、自らの歴史観についての発言を避けるなど、将来を見据えて、政治家としての幅を広げようとしているのが伺えます。あまりにもタカ派な姿勢は、自分が総理大臣を目指す際に、自らの言動を縛る要因になってしまいますから、今後もその場に応じて発言など使い分けていくことでしょう。8月15日の終戦記念日靖国神社への参拝も見送る可能性が高いと思います」と述べている。

稲田氏が防衛相を通り越して、将来の首相候補になるなどというのは考えてみただけでもぞっとするが、第1次内閣であれほど無様な退陣に追い込まれた安倍政権が、いま異様なまでの隆盛を誇っている有様をみると、極右タカ派の稲田氏が今後想像もできなかった変身を試みないとも限らない。その意味で稲田氏は、安倍政権の「アンテナショップ」ともいえ、その動向から目を離せない。(つづく)