民進党代表選における前原氏の役割が明らかになった、民進党内の改憲勢力を糾合し、野党共闘路線を分断するためだ、民進党代表選について(2)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その9)

 2016年9月2日、民進党代表選に立候補したのは、蓮舫氏、前原氏、そして新顔の玉木氏の3人となった。玉木氏は、告示日直前まで推薦人20人を集めることができず、代表選は蓮舫、前原両氏の一騎打ちになると見られていた。しかし辛うじて立候補できたところをみると、旧維新の党の一部だけでなく、所属している前原グループの中からも支持が得られたのだろう。

 玉木氏は表向き「世代交代」を掲げての立候補だが、立ち位置は「前原氏よりも右」といわれるほどはっきりした改憲勢力の一員である。彼は前原グループの一員であるだけに、票が割れると前原氏にとっては痛手になるが、両者合わせて相当数の支持を集めると、民進党内の改憲勢力の存在は確固とした動かぬものになる。玉木氏の出馬は、前原・玉木両氏の「改憲共同戦線」の結成だと私はみている。

 それにしても、この代表選はいったい何のために行われるのか、いまだもって釈然としない。形式的には岡田代表の任期満了に伴うものとされるが、岡田氏の唐突な辞任表明といい、その後の党内の右往左往ぶりといい、この政党の組織運営の原則はいったいどうなっているのかと思う。よく言えば、多様性のあるグループの集まりともいえるが、実態は選挙目当ての「烏合の衆」という評価もある。これで野党第1党の地位を占めているのだから、日本という国はなんとおおらかな政治風土に満ちているのだろうと思わずにはいられない。

 だが、私の見るところ、この代表選の狙いは次期総選挙の「事前運動」ではないかというものだ。周知のごとく、民進党の支持率は地を這うような低さから依然として脱していない。100人を越える国会議員を擁しながら支持率が一ケタなど想像もできないが、それが民進党の現実なのである。だから、年末にも予想される衆院解散に備えてマスメディアにどう露出するか、それには代表選を華々しく演出するのが一番だ――ざっと言って、まあこんなところではないか。

 民進党低迷の原因は、民主党政権時代の致命傷がまだ消えていないからだといわれるが、おそらくそれだけではないだろう。なにしろ、党内グループによって政策が「水と油」ほど違うのだから、民進党という政党の「統一したイメージ」を出しようがないのである。これでは、まともな国民が支持することにためらうのも無理がない。たとえば、今回の代表選では旧社会党グループが蓮舫氏を推すとしているが、蓮舫氏は野田元首相の子飼いの子分であり、れっきとした日米安保推進論者であることを百も承知の上のことなのだろう。現に9月2日の日本記者クラブ公開討論会では、米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)移設問題に関して、蓮舫氏は「私たちの政権で決めたことで、方向性は変えることはない」と言い切り、同県名護市辺野古へ移す現行計画を維持する立場を鮮明にしているのである(時事通信、2016年9月2日)。

 この発言が今後どのような波紋を描くのか私にはわからないが、旧社会党グループが「米軍基地辺野古移転」を公然と掲げる蓮舫氏を支持するとなると、「オール沖縄」の政策や運動方針とは真っ向から衝突することになる。沖縄では民進党は壊滅状態だからそれでも構わないとの声もあるそうだが、しかしこれは民進党の単なる1地方支部の問題ではない。民進党の存立基盤に関わる基本問題である以上、そのことを棚に上げて蓮舫氏を支持することなど、良識ある国民にはまったく理解できない。

 ことごとさように民進党の政策地図は「多色刷り」で染められ、国民にはいったい「何色」なのかが識別できないようなモザイク状になっている。しかし政策を詰めることは党内分裂につながり、選挙戦には不利な情勢を招く。とすれば、政策の不一致は棚上げにして、選挙用の「顔」をつくることが求められる。新代表の任期は2019年9月までというから、任期中に2018年12月の衆院議員の任期満了を迎えることが確実だ。そこで外見上の「人気」がある蓮舫氏が浮上したのだろう。

 蓮舫氏は、日本国憲法地方自治法も踏みにじっている沖縄米軍基地の存在を公然と維持強化する主張の人間である。野田元首相の子飼いだけあって筋金入りだと言ってもいい。それが代表選になると一転して「憲法を守る」というのだから、自己矛盾も甚だしい。それでも選挙に勝てればいいという連中は、情けないことに「勝馬に乗る」ことは辞さないのだろう。蓮舫氏が有力とされるのはそのためだ。

 この矛盾に付け込んだのが前原氏だ。民進党のなかで改憲を事実上容認する勢力が多数を占めている状況をみて、蓮舫氏の「タテマエ」に対して「ホンネ」をぶつける作戦に出たのである。昨日の公開討論会でも、蓮舫氏が党内で論議を進める姿勢を示しつつ、「9条を守ってほしいという国民の声はとても大事だ」とタテマエを主張したのに対して、前原氏は「憲法自衛隊の位置付けがないことについては、党内で議論すべきだ」と述べ、9条改正の持論(ホンネ)を展開した。玉木氏は、改憲の論点として憲法裁判所設置や統治機構改革などを例示し、「憲法提言を1年ぐらいのめどでまとめるべきだ」と訴えた(時事通信、同上)。

 また野党共闘に関しては、岡田代表が進めてきた共産党との共闘路線について、3候補とも次期衆院選での選挙協力に慎重な姿勢を示した。蓮舫氏は、参院選1人区で行った候補者一本化の成果を指摘した上で、「もう一度、党員・サポーターの声に真摯(しんし)に耳を傾ける」と語り、見直しを示唆した。前原氏は「衆院選は政権選択の選挙だ。一度、岡田路線はリセットすべきだ」と踏み込み、玉木氏も「基本的考え方の違う政党とは一線を画す。これが大原則だ」と主張した(時事通信、同上)。

 このほか、前原氏はテレビ番組にもしばしば登場してホンネをぶちまけている。9月1日夜のTBS番組では、岡田代表が進めた共産党との共闘について「岡田路線はいったんリセットしたほうがいい」、「自衛隊日米安保天皇制は譲れない。内政は消費税も含めた財源論。こういった基本的な政策をしっかり共有できるところとしか、我々は連立を組まない」と述べ、岡田路線を見直すべきとの考えを強調した。また、出馬を見送った長島氏も前原支援を正式に表明し、「共産党に依存するような方向性は払拭できると確信した。積極的に前原氏を応援したい」と語ったという(朝日新聞、9月2日)。

 私は前原氏の出馬動機は政治家としての「延命措置」だと考えてきたが、事態の推移をみると必ずしもそうではなさそうだ。それが民進党内の改憲勢力の糾合につながり、民進党が右寄りの「大化け」路線につながる可能性も出てきた。玉木氏の出馬がその何よりのサインのように思える。(つづく)