民進党代表選は極めて低調だった、党員・サポーターの投票率は41%でしかなかった、蓮舫新代表は果たして「選挙の顔」になれるのだろうか、民進党代表選について(6)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その13)

野田氏を執行部の要に起用した民進党人事は、その後も迷走を続けている。この間書かなければならないことは山ほどあったが、京大吉田寮セミナーの準備に手を取られて間があいてしまった。本題に入る前に少しだけ紹介したい。

「21世紀の京都大学吉田寮を考える」と題する公開セミナーは、大学当局から通告されている吉田寮の廃止と建物の解体を憂慮する寮生とОB有志が開催したもので、9月20日午後から楽友会館で行われた。台風16号が接近していることもあって開催そのものが危ぶまれたが、それでも40人近い関係者や市民が参加して熱のこもった討論となった。

話題提供者は、冨岡勝近大教授(日本教育史、元寮生)と建築家の山根芳洋氏(七灯社建築研究所主宰)の2人、コーディネーターは私(元寮生)と現役寮生が共同で務めた。詳しいことはいずれ拙ブログでも報告したいが、なにしろ吉田寮は現存する我国の大学寄宿舎の最古の建築物であり、創設は今から100年余前の1913(大正2)年に遡る。しかもその中の一部(食堂と便所)は、1889(明治22)年建設の第三高等学校寄宿舎が移築されたもので、京大構内に残る最古の建築物だとされているから、重要文化財に指定されてもおかしくない建物なのだ。

しかし吉田寮の現状は、これまで大学当局と寮生たちのコミュニケーションが上手くいかなかったこともあって一路荒廃が進んでおり、「風前の灯火」とも言える状態に置かれている。この現状を打開して何とか存続の道を探りたい、そのためには吉田寮の歴史文化的価値や教育史的価値を明らかにすることが必要だ...ということになって今回のセミナー開催の運びになった。今後、いろんな分野の専門家や寮ОBを招いて議論を重ねていく予定なので、その都度案内を差し上げたい。

本題に戻って、民進党代表選後の人事の行方を追ってみよう。まず前回の拙ブログでは野田幹事長起用は本当なのか...との疑問を拭いきれなかったが、事実は否定しようがなく、旧民主党政権崩壊の引き金を引いた〝超A級戦犯〟の野田氏がいよいよ党運営の要として采配を振るうことになった。今日21日には執行部全員の陣容が決まって蓮舫・野田体制が発足することになるが、前途は多難だというほかはない。なぜなら、蓮舫氏を「選挙の顔」として選んだ代表選そのものが極めて低調だったからだ。

こんな大事なことをなぜ書かないのかと思うが、各紙揃って選挙結果には触れているものの、不思議なことにその前提となる有権者投票率に関してはまったくノータッチなのだ。通常どんな選挙でも投票率の高低は大きな関心の的であり、低投票率であれば選挙そのものの意義が問われる。にもかかわらず、なぜ民進党代表選に関しては投票率がまったく報道されないのか全く理解できない。仕方がないのであちこち探した挙句、民進党のホームページでやっと投開票結果のリストを見つけた。

 民進党代表選は、849ポイントの過半数425ポイントを獲得した候補者が代表に選出される仕組みになっている。ポイントの配分は、国会議員294ポイント(147人、1人2ポイント)、公認候補予定者118ポイント(118人、1人1ポイント)、地方議員206ポイント(1586人)、党員・サポーター231ポイント(23万5211人)というもので、国会議員と公認候補予定者を合わせるとそれだけで総ポイントの半分近くになる。その意味で決定権を握っているのはこの両者だと言えるが、それでも郵送による地方議員と党員・サポーター票は国会議員などの直接投票の前に集約されて公開されるので、その動向は決して無視できない。

そこで23万5000人といわれる基礎票に焦点を当てると、党員・サポーターの投票率は40.9%で地方議員87.3%の半分以下となり、国政選挙などと比べても非常に低いことがわかった。投票率都道府県別分布を調べると、20%台3府県、30%台22都県、40%台17道県、50%以上5府県となり、党員・サポーターの過半数が投票したのは全都道府県の僅か1割という有様だ。これではお世辞にも代表選が党員・サポーター支持されたとは言えず、「いっこうに盛り上がらない」といわれた状況も頷ける。

原因はいろいろあるだろうが、私は3人の候補者がいずれも「センターライト」(中道右派)から「ライト」(右派)までの右寄りの人物だったことがかなり影響したと見ている。自民党に対抗できるだけの明確な政策を掲げた「レフト」(左派)の候補者がいないことが大量の棄権を生み、消去的選択の果てが投票率4割という結果になったのである。ちなみに、投票率の第1位、第2位は候補者を出した香川県70.7%と京都府62.0%、最下位は沖縄県20.3%、ブービー大阪府29.3%だった。

 私が在住する京都では、前原氏が出馬しただけあって全国第2位の投票率を記録した。前原氏は京都府内の党員・サポーター3896票のうち3374票(86.6%)を獲得して、圧倒的な強さを見せつけた。その勢いを駆って党所属の地元国会議員4人(泉、北神、山内、福山)と地方議員が全国を回って支持を求めたというが(京都新聞9月16日)、全国的に見れば、党員・サポーター95392票のうち蓮舫59539票(62.4%)、前原26045票(27.3%)、玉木9808票(10.3%)に終わって、さほど効果は見られなかった。また党員・サポーター票の絶対得票率(得票数÷有権者数×100)からみると、3候補の絶対得票率は蓮舫25.3%、前原11.1%、玉木4.2%となって、蓮舫氏でさえが1/4、前原氏に至っては1割でしかなかったことがわかる。

前原氏は国会議員147人のうち42人(28.6%)、公認候補予定者118人のうち44人(37.3%)、地方議員1389人のうち335人(24.1%)の支持を受けたものの、所詮は「京都ローカル候補」の域を出なかった。要するに、前原氏は京都ではともかく全国ではもはや「ただの人」になったのである。地元の京都新聞(9月16日)でも次のような論評が掲載されている。
――旧民主時代を含め3度目になる挑戦に「賞味期限切れ」との厳しい指摘もあった。選対事務長として前原氏を支えた泉健太氏(衆院京都3区)は「存在感は示せた。ただ党の新しい顔として清新さを求める声が強かったのであろう」と振り返った。

問題は「選挙の顔」としての蓮舫氏の存在感だ。共同通信社が9月17、18両日実施した全国電世論調査によると、15日の民進党の臨時党大会で選出された蓮舫新代表に関して「期待する」との回答は56.9%で「期待しない」の38.4%を大きく上回った。「期待しない」が相対的に多かったのは自民・公明支持層だけで、その他は無党派層を含めてすべてが「期待する」の方が多かった。性別では特に女性が65.8%と高く、男性の47.3%を20%近くも上回った。しかしその一方、民進党政党支持率は9.9%と微減し、蓮舫人気が必ずしも党勢回復につながっていないことも明らかになった(京都新聞9月19日)。

民進党幹事長に指名された野田氏は、9月16日に開かれた党の両院議員総会で「自分の政治人生の落とし前をつけるつもりで、火中の栗を拾う決断をした。ハスの花を下で支えるレンコンになったつもりで、徹底して下支えする決意だ」と述べた(各紙9月17日)。かって自らを「泥鰌(ドジョウ)」だと称した野田氏が民進党を「泥田」に例えて精一杯の洒落を言ったつもりであろうが、この比喩は案外的を射ていると思う。

野田氏はおそらく蓮舫氏を「下支え」することの比喩として、「ハスの花」と「レンコン」の話を持ち出したのであろう。美しく水面に浮かぶ蓮の花(蓮舫)を泥田の下で支えるのが蓮根(野田)の役割だという麗しい例えだ。だが、「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき 」という林芙美子の言葉もある。また植物学の基礎知識によれば、レンコンは地下茎の一種で「肥大」することで初めて食材となるといわれる。レンコンは肥大しなければただの地下茎にすぎないので、存在を示すために必ず肥大化するのである。水分と養分をたっぷりと吸い込んで肥大化したレンコンは、いつまでハスの花を支え続けるのか(蓮の花の寿命は短い)。

9月26日から臨時国会が始まる。民進党の最初の代表質問をするのは、衆院議員の野田幹事長であって参院議員の蓮舫代表ではない。蓮舫・野田体制が「野田・蓮舫体制」に移行するのは、それほど遠い日のことでないかもしれない。(つづく)