「安倍チルドレン」とは、教育勅語を暗唱させられ、「安倍首相ガンバレ!」と絶叫させられいたいけな幼稚園園児のことだった、「家庭内野党」を演じて女性の支持率を集めてきた昭恵夫人の仮面が剝がれた、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(13)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その44)

 遅ればせながら、今話題の豊中の幼稚園が撮影し、保護者達に配布したという運動会のビデオを見て絶句した。2年前の秋に行われた運動会冒頭の選手宣誓で、園児たちが精一杯声を張り上げてこう言っているのである。
――大人の人たちは、日本が他の国に負けぬよう、尖閣列島竹島北方領土を守り、日本を悪者として扱っている中国、韓国が、心改め、歴史で嘘を教えないよう、お願い致します。安倍首相ガンバレ! 安倍首相ガンバレ! 安保法制国会通過よかったです!――

 常識から考えて、こんないたいけな子供たちが領土問題や安保法制について知っているはずがない。まして、運動会のような場で宣誓することなど思いつくはずもない。どこかの「大人の人たち」が叩き込まないかぎり、絶対にあり得ないことだと断言できる。関連記事を読めば、当該幼稚園の職員たちが園長命令で繰り返し園児に練習させて覚えさせたのだという。まるで、戦前の軍国教育の現場を目の当たりに見るようでゾッとする。

 恥ずかしいことだが、かくいう私も戦前教育を受けた最後の世代の一人である。国民学校ナチスの教育制度にならって、当時は小学校のことをこう呼んでいた)1年生の時に終戦を迎えたが、それまでは毎朝、旭日旗を掲げて予科練の歌を歌い、集団登校していた。「赤い血潮の予科練の七つ釦に桜に錨...」という勇ましい軍歌だ。いまも歌詞を忘れることはない(歌わないが)。

 学校に着くと校門のすぐ傍に奉安殿がある。奉安殿と言っても今の人たちは名前も存在も知らないだろうが、「御真影」(天皇と皇后の写真)と教育勅語が納められている建物のことで、私たち生徒はその前を通る時は必ず最敬礼をしなければならなかった。登校の際は集団登校なので滅多に敬礼を忘れないが、下校の時は三々五々帰るので時々忘れることがある。そんな時に先生に見つかると、通信簿の「修身」(今でいう道徳)の科目では絶対に「甲」「乙」は付けてもらえない。最低ランクの「丙」が待っているのである。

 それから朝礼が始まる。先ずは皇居に向かって全員で最敬礼、次は国旗日の丸掲揚と君が代斉唱、そして教育勅語斉唱と続き、校長先生の訓示が終わる頃にはもうみんなげんなりしている。それでもそんな様子を微塵にも見せることは許されない。子供心にもよくわかっていて黙っているが、教室に帰ると一気に緊張が解けて大騒ぎになる。先生が来るまではとにかく喚きたい衝動を抑えることができなかったのだろう。

 こんな時代錯誤の幼稚園を安倍首相夫人が2年前に訪問した際、「私の夫もここの教育方針は素晴らしいと思っています」と称賛し、また安倍首相も2月17日の衆院予算委員会で、森友学園と籠池理事長のことを「妻から森友学園の先生の教育に対する熱意は素晴らしいという話を聞いている」と確認している。安倍夫人が今回開設予定の「瑞穂の國記念小学校・名誉校長」に就任したのは、断り切れなかったからでもなければ強要されたわけでもなく、その教育方針に共感、共鳴したからにほかならない。

 しかも、それを裏打ちする証拠がある。第1次安倍内閣が発足した時代に創設された「文部科学大臣優秀教員表彰制度」によって、当該幼稚園関係者3名が優秀教員に表彰されていたというのである。稲田防衛相も同様に当該幼稚園理事長に感謝状を贈り、その文面には「貴殿はかねてからわが国の防衛と自衛隊の任務の重要性について深く認識され、永年にわたり防衛基盤の育成と自衛隊の士気高揚に貢献されること大なるものがありました。よってここに深く感謝の意を表します」と記されている。つまり安倍夫妻による当該幼稚園への肩入れは、文科省防衛省の表彰制度によって国家的に担保されているのであって、そのことが当該幼稚園の「瑞穂の國記念小学校」開設の後ろ楯になっているのである。

 安倍夫人はこれまで原発再稼働問題をめぐっては慎重な姿勢を示し、自分は「家庭内野党」だとしばしば表明して、脱原発グループの人気を博してきた。原発再稼働反対は、とりわけ子どもの健康問題に敏感な女性たちの琴線に触れるテーマであり、安倍夫人がそのことへの共感を示すことが安倍内閣支持への世論操作に加担してきたとも言える。しかし、今回の「瑞穂の國記念小学校」への加担は、その仮面の裏にある安倍夫人の素顔を余すところなく暴き出したのではないか。

 政治問題が井戸端会議の話題になってとき、国民的レベルではじめて事態の本質が浸透し始めたといえる。「難しいことはわからない」といいながら、国民の直感はそれほど鈍くない。「安倍チルドレン」とは、教育勅語を暗唱させられ、「安倍首相ガンバレ!」と絶叫させられいたいけな幼稚園園児のことだったこと、それが生々しいビデオの映像となって全国に流されたこと、「家庭内野党」を演じていた安倍夫人が実は「与党そのもの」だったこと――今回の一連の騒動は、安倍政権の本質をわかりやすく見せた点で秀逸な事例となった。(つづく)