「政策協定」はするが「連立政権」は組まない、立憲民主党枝野代表の思惑はいったどこにあるのか(その1)、菅内閣と野党共闘の行方(43)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(268)

立憲民主党枝野代表の共産党との連立政権否定論は筋金入りだ。枝野氏は、事あるごとに共産党との「連立政権は組まない」と言明してきた。にもかかわらず、共産党の方は志位委員長が「よく話し合っていきたい」「門戸が閉ざされたと考えていない」などと曖昧な反応を繰り返し、いっこうに態度をはっきりさせない。この背景にはいったいどんな思惑が渦巻いているのか。まずは、枝野発言の流れと共産党の反応をみよう。

 

〇2021年6月17日(朝日デジタル)

 立憲民主党の枝野幸男代表は今年6月17日、最大の支持団体「連合」の幹部会合に出席した席上で、次期衆院選で政権交代を実現した場合でも、共産党とは「(日米安保廃棄や自衛隊解消など)理念に違う部分があり、連立政権は考えていない」と明言した。ただし選挙協力などは進めると言い、「共有する政策でのパーシャル(部分的)な連携や(衆院選の)候補者一本化に努力したい」とした。連合は「共産党の政権入り」に絶対反対の立場で、国民民主党の玉木雄一郎代表も「共産党が入る政権であれば(連立政権に)入れない」と、関係を明確にするよう枝野氏に要求していた。

連合神津会長は記者会見で「連合の立場としては、もともと立憲民主党と共産党との連立政権はないと思っていたが、疑義が生じないように枝野代表があえて踏み込んで明確に発言したことは、積極的に受け止めたい。立憲民主党と国民民主党が連立政権の構想を打ち出すことになれば、多くの有権者の期待に応えうると思う」と述べた。会合では、立憲民主党と国民民主党それに連合の3者で、衆議院選挙に向けた政策協議や候補者調整などを加速させることで一致した。

一方、共産党の志位和夫委員長は、これまで立憲民主党との選挙協力(野党共闘)について、自身が提唱する「野党連合政権」樹立に合意するのが条件という趣旨の発信をしてきたが、17日の記者会見では「よく話し合っていきたい」「門戸が閉ざされたと考えていない」と述べ、野党共闘に含みを残した。

 

〇2021年8月28日(日経電子版)

立憲民主党の枝野幸男代表は8月28日放送のラジオ日本番組で、次期衆院選を巡り「十分に政権が代わる可能性がある」と述べた。同党による情勢調査の結果に触れ「ちゃんと地域で活動している仲間には追い風が間違いなく吹いている」と強調した。立憲民主党を中心とする野党候補の一本化について、全ての小選挙区ではできないと説明し、選挙区のすみ分けなど共産党との事実上の協力体制に関し「地域ごとの事情がある。47都道府県の3分の2くらいはほぼできつつある」と話した。

 

〇2021年9月2日(共同通信)

 立憲民主党の枝野幸男代表は9月1日、共同通信のインタビューに応じ、次期衆院選について「単独過半数の獲得を目指す」と述べ、政権交代の実現に意欲を示した。目指す政権の在り方として「共産党とは日米安全保障条約や天皇制といった長期的に目指す社会像に違いがあり、連立政権は考えられない」と明言。「どういう連携ができるか公示までに具体的に示したい」とした。289ある選挙区での野党共闘について「共産との競合区は約70しかない。200を超える選挙区で野党候補は一本化されており、与野党一騎打ちの構図が事実上できている。既に大きな到達点を越えている」と語った。

 

〇2021年9月9日(朝日、毎日)

 立憲民主、共産、社民、れいわ新選組の野党4党と共闘を支援する市民連合は9月8日、国会内で衆院選に向けた政策に合意した。立憲枝野代表は市民連合に対し、「網羅的かつ重要な政策テーマについて、市民連合のみなさんの尽力によって各党とも共有できたことを大変うれしく思っている」と感謝の言葉を述べた。枝野代表は記者団に「事実上一本化が進んでいるところは加速し、それ以外も努力を重ねていきたい」と述べて候補者調整の加速に意欲を示した。共産が求めている政権構想を含めた政党間合意についても「選挙が始まるまでには必ず皆さんに安心してもらえる形をお示しできる」と自信を見せた。

 共産の志位委員長は、「この政策を高く掲げ、結束して選挙を戦い、選挙に勝ち、新しい政権をつくるために頑張りぬくことを約束したい」と調印式で力を込めた。この後、次期衆院選の方針を決める党中央委員会総会で、志位氏は「政党間の協議を速やかに行い、政権協力、選挙協力について前向きの合意を作り上げ、本気の共闘の体制をつくる」「政権を争う総選挙で選挙協力を行う以上、政権協力についての合意は不可欠だ」と演説した。

 

〇2021年9月10日(日経電子版)

立憲民主党の枝野幸男代表は9月9日、日本経済新聞のインタビューにおいて、次期衆院選で勝利した場合、共産党と連立政権を組む可能性について「考えられない」と再び否定した。以下は、具体的な発言内容である。

「(問)15日に新しい立憲民主党が誕生して1年になります。(枝野)次期衆院選の候補者の数が小選挙区で210強とほぼ過半数になった。比例代表まで合わせれば間違いなく総定数(465議席)の半分の候補者を立てられる状況になった。合流と時間の効果だ」

「(問)衆院選に勝利した場合、共産党との関係はどうなりますか。(枝野)連立政権は考えられない。この点は共産党も理解いただいていると思う。最終的には選挙までに説明する」

「(問)立民が衆院選で勝っても衆参で多数派の異なる『ねじれ国会』になります。(枝野)ねじれ国会は私自身が官房長官として経験した。ねじれの現実を踏まえ、想定しながら政権政策も作っている」

 

枝野発言の一連の流れをたどると、9月1日の共同通信インタビューまでは、枝野氏は衆院選で立憲が「単独過半数」を取れると本気で考えていたことがわかる。8月28日のラジオ番組で党独自の情勢調査分析を示し、情勢が極めて有利に展開していることを誇示していたからだ。菅政権の失政続きで内閣支持率が20%台に落ち込み、このまま衆院選に突入すれば野党第一党の立憲に票が自動的に集まると確信していたのである。

 

しかし、菅首相が9月3日、突如退陣を表明したことで情勢はガラリと変わった。菅政権の「敵失」で議席を伸ばそうとする枝野氏の戦略が根元から崩れた瞬間だった。朝日新聞(9月8日)は、その背景を次のように分析している。

――4日前に菅首相が自民党総裁選への不出馬を表明し、自民党総裁選一色の報道になり、党内では動揺が広がっている。立憲幹部の一人は「自民党が河野太郎首相、石破茂幹事長になったら、発信力のない枝野氏では全く太刀打ちできない。立憲は壊滅だ」と危機感を募らせる。若手からも「『次の内閣』(ネキストキャビネット)をつくり、党執行部に新しい人を入れないとまずい」と「刷新」を求める声が上がる。

――立憲は昨年9月、国民民主党の一部と合流して衆参約150人規模の政党になったが、直近の朝日新聞の世論調査でも政党支持率は6%と低迷している。枝野氏はこれまで、「日本のバイデンをめざす」と周囲に語ってきた。昨年の米大統領選挙で民主党のバイデン氏が共和党のトランプ大統領(当時)を破ったのは、「バイデン人気」ではなく、「トランプ不人気」という見立てからだ。コロナ対策で国民から批判を受ける菅政権の「敵失」を待ち続け、「批判の受け皿」となって立憲の議席数を伸ばすという戦略を描いてきた。枝野氏は、国民に向けて政権を取ったら何をするのか、というビジョンや政策を丁寧に説明してきたとは言いがたい。

――選挙を控えた衆院議員の秘書はこうこぼす。「枝野氏はこれまで『待ち』の戦略で曲りなりにうまくやってきたが、菅氏の退陣ですべてが逆回転している。自民党総裁選で政策的にも埋没していくだろう。一気に右往左往している感じだ。

 

この分析は的を射ている。立憲民主党が衆参約150人の議員を擁する野党第一党になったことで胡坐(あぐら)をかき、枝野氏らが菅政権の「敵失」でやがて政権が転がり込むとの甘い夢に浸っていた情景が活写されている。枝野氏の傲慢ともいえる言動はその象徴であり、野党共闘に対する不誠実極まりない対応もそのあらわれであろう。だが、事態は変わり、枝野氏も野党間の政策協定に応じざるを得なくなった。それでも枝野氏の連立政権否定論は変わらない。なぜかくも枝野氏は頑なに連立政権を拒むのか、次回はその意図について考えてみたい。(つづく)