通常国会召集日解散の翌1月24日、各紙は多党化分散時代の政治構図をどう読み解くかについて多様な主張を掲げた。毎日新聞社説は、高市首相が解散表明時の記者会見で「私が首相でいいかを国民に決めてもらう」ためだと説明したことに対して、次のように反論している(要旨)。
――議院内閣制における衆院選は、首相個人の信任を問うものではない。政権として審判を受けるのは、政策の全体像と実績、および各候補者の資質である。首相は国の根幹に関わる政策を転換すると訴えたが、内容は判然としない。首相は今年の大方針を示す施政方針演説さえ行わなかった。有権者に十分な判断材料を示さず、内閣支持率が高いうちに事実上の「人気投票」へ持ち込もうとの思惑が露骨だ。重要課題があるのであれば、まず国会で正面から議論を尽くすべきだった。勝利した場合、政権運営への白紙委任を得たと主張するつもりはないのか。ポピュリズム的な手法であり、あまりに身勝手だ。解散権の乱用と言わざるを得ない。
――解散が浮上した当初は、このまま多党化状況が続くのか、高支持率の首相の下で「自民1強」へ回帰するのかが焦点になるとみられた。ところが、野党第1党の立憲民主党と、連立を離脱した公明党が「中道改革連合」を結成し、構図が一変した。右派色を強める自維に対抗し、中道は保守にも革新にも偏らない穏健な政治を掲げ、対立軸の明確化を図る。解散前議席では、立公両党を合わせて比較第1党の自民に迫る規模だ。政治の枠組みがどう変わるかに関心が集まる。
社説に関連して田中編集局次長は、「白紙委任とせぬために」と高市首相を批判する一方、「中道改革連合」にも疑問を呈している。
――立憲民主党と公明党による新党「中道改革連合」は原発再稼働を容認し、安全保障関連法を合憲とする基本政策を掲げた。立憲の大きな方針転換だ。原発ゼロ、安保法制反対を期待した有権者に「現実路線」は納得しがたいだろう。野党も説明を求められる。
毎日新聞の今回衆院選に関するこれら一連の論説は、高市自維連立政権を「白紙委任」で承認するのか、立憲民主党の原発・安保法制の政策転換によって成立した新党「中道改革連合」を選択するのか、その二者択一を有権者に問うものとなっている。言い換えれば、政局は多党化分散状況にありながらも、政治構図は「保守・中道対決」に収斂しつつあるとの理解だろう。
朝日新聞も同様の認識に立っている。
――今回の衆院選は、自維の連立与党と新党「中道改革連合」という、政治理念の違いが目立つ2大勢力がぶつかる構図となる。「保守」や「中道」といった政治理念そのものも選挙戦の大きな争点の一つになりそうだ。衆院解散の23日時点で、党所属の衆院議員は自民が197人、中道改革連合が173人、野党陣営は近年、多党化が進んできたが、立憲民主党と公明党の合流により、議席数では自民と伯仲する勢力が誕生した(1面)。
――「保守」を意識する高市早苗首相率いる自民党。対抗軸に「中道」を突き付ける中道改革連合。衆院が23日に解散され、事実上始まった選挙戦は、与野党の2大勢力が異なる政治的立ち位置を鮮明化させ、理念対決の色合いを濃くしている(2面)。
一方、政治学者の見方は必ずしも一致していない。自民中心の政治構図が「保守・中道」の対立構図になると言う意見と、政界再編モードが続くと言う意見に分かれている(要旨)。
――今回の衆院選は、政権発足から3カ月で解散に踏み切ったことで、成果を問うには機関が短く、大義が見えにくい。争点も浸透していないことから、「保守」「中道」など政治的立ち位置による対立構図の選挙戦となる。有権者にとって、自分の価値観に近いのはどこか。政党との心理的な距離感がカギになる(大川千寿・神奈川大学教授、朝日新聞1月24日)。
――最近までは、右は自民中心に一本化され、日本維新の会や国民を間にはさんで、左は立憲、共産党、れいわ新選組などがばらばらで、しかも左の方が弱かった。しかし、今回の選挙では、左は中道改革連合を中心にある程度まとまりますが、右はばらばらです。維新は国政政党であっても全国政党ではなく、自民との選挙協力は期待できません。さらに参政党や日本保守党もあり、従来とは逆転した構図になる可能性があります(待鳥聡史・京都大学教授、同上)。
――公明党は「中道改革」の理念のもと、自民・国民民主・立民にわたる政界再編を狙ってきた。仮に中道が衆院第1党になっても、参院は過半数に遠く及ばない。そこで、想定されるのは大連立だ。それをテコに政界再編に進むのが基本シナリオだろう。中道の結成で二大ブロック化が進んだようにもみえるが、本質的には政界再編モードが続いている。中道が惨敗すれば解党し、元の立民と公明党に戻る可能性が高まり、勝利すれば政界再編の第2幕が始まるとみる(中北浩爾・中央大学教授、日経新聞1月25日)。
これに対して共産党の機関紙「しんぶん赤旗」は、この間の立憲民主党の動きは政治的にも組織的にも自民党政治に呑み込まれたものだとして、声を大にして批判している(要旨)。
――高市自民・維新政権が内政・外交ともに極めて危険な道を進めている。野党第1党の立憲民主党が衆院選で党を解体し、公明党が呼び掛けた「中道改革連合」に吸収された。立憲民主党の動きは政治的にも組織的にも自民党政治に吞み込まれたものであり、2015年の安保法制反対の国民的たたかいから生まれた市民と野党の共闘に対する重大な背信行為だ(第7回中央委員会総会、田村委員長報告、赤旗1月23日)。
――重大なのは、立憲民主党が公明党に吸収され、自民党政治に吞み込まれたことです。立民は「安保法制の違憲部分の廃止」「原子力発電所の新増設を認めない」などの方針を転換。公明に合流し、新党「中道改革連合」を立ち上げました。同党の基本政策では、集団的自衛権を容認し、原発の再稼働も明記しています。「中道」といいつつ、政界の軸を自民党寄りにずらしています(主張、1月24日)。
――報告の中で「中道改革連合」について、立憲民主党が公明党に引きずられ、自民党政治に吞み込まれたものだと規定づけを行い、市民と野党の共闘への背信行為であり、裏切りだと厳しい批判を行いました。これは、情勢の新たな変化が起きた時に科学的に分析することがとても大切だからです。同時に、幹部会報告のなかでは次のように強調しました。「国民への訴えにあたっては、自民党政治との対決を正面にすえ、自民党政治を変えることを太く打ち出すことを中心にすえることが何よりも重要です。その流れの中で『中道改革連合』への批判を必要に応じて適切な形で行うようにします」(7中総田村委員長結語、赤旗1月24日)。
共産党は、公明主導による「中道改革連合」の結成は自民党政治に吞み込まれたものであり、「保守・中道対決」の構図にはならないとみている。政界は「極右=参政・日本保守」「保守=自民・維新」「中道=立民・公明・国民」の〝反動ブロック〟で構成され、これに対抗するのは「革新=共産・社民・れいわ」しかないとの見立てである。この見立ては、「中道改革連合」はいずれ自民との「大連立政権」に帰着すると言う中北教授の見解に近い。問題は、その時まで共産党が国政政党として存在し続けるかということだろう。選挙の動向が注目される(つづく)。
【1月26日追加分】
衆院選公示直前の1月26日、毎日、読売、日経各紙が2026年1月世論調査の結果を発表した。特に目を引いたのは、毎日調査で内閣支持率が前回(2025年12月)よりも10ポイント下落して57%になったことだ。読売調査は前回から4ポイント下落して69%、日経調査は8ポイント下落して67%となった。毎日調査と読売・日経調査の間には10%程度の開きがあるが、これは質問形式の違いによるもので不思議でも何でもない。毎日調査は「内閣を支持するか」「支持しないか」の質問に対する回答率をそのまま掲載するのに対して、読売・日経調査は最初の質問で「わからない」「無回答」だった人に対して更に「どちらかと言えば」と重ね聞きし、「どちらかと言えば支持する」とした回答を最初の「支持する」とした回答と合算して支持率を算出しているためである(例えば「支持する」50%+「どちらかと言えば支持する」10%=支持率60%となる)。
重要なことは、各紙調査の内閣支持率が挙って下落していることであり、その程度がかなりの幅を示していることだろう。高市政権にとっては由々しき事態だといえるが、もし選挙戦が進むにつれてこのまま下落幅が大きくなっていくようなことがあれば、高市首相の「白紙委任選挙」の思惑は大きく崩れることになる。しかしその一方、対抗馬の「中道改革連合」に対する期待は、毎日調査17%、読売調査22%、日経調査24%と極めて低い。毎日調査では「期待が持てる」17%、「期待が持てない」52%、「わからない」30%となっている。「わからない」が3割も占めているのは、結成されたばかりの中道新党の姿が有権者には見えていないためであり、「中道改革連合」が今後どれだけ有権者の理解を獲得できるかが、勝敗のカギになると思われる。
最後に、私自身の判断を示して諸氏の批判を乞いたい。それは、立憲民主党の政策転換には失望を禁じ得ないが、「革新=左派結集の旗」を掲げる勢力が余りにもひ弱な現状をみるとき、次善の策として「中道改革連合」の奮闘に期待するしかない、というものである。この判断に立ち至った神戸のジャーナリストからの1通のメールを紹介して、拙ブログを閉じたい(つづく)。
「結論から言うと、この国の政治と経済、社会を立て直し、混迷状態の世界に日本の役割を果たすには、右傾化路線をしゃにむに突っ走る高市政権の暴走にストップをかけることができる絶好の機会が今回の選挙であると考えたい。そのためには「高市は信任できない」ことを選挙結果で示し、「高市退場」を決める選挙が最大の意義ではないか。急ごしらえの新党が安保や原発政策で従来の方針を変えていることに対する批判もあるが、高市政権に退場を求める唯一の対抗軸になることは間違いない。新党の是非論をのんびりと交わしているうちに、高市を信任する選挙結果を招いてしまっては元も子もない。
多党化時代における本当のリベラルは、現実の政治課題を精査して当面の課題と目標、戦略を実現するために広い視野から当面の課題に迫っていくアプローチが欲しい。今この国の現実を見据えたときに、減税やばらまき、長期的な政策課題を競うのではなく、国民の暮らしや平和を危機に陥れかねない現政権に「ノー」を突きつけることに、すべてを集中する時ではないか」