都議選と小泉郵政選挙に共通するもの、無党派層の実体、(麻生辞任解散劇、その19)

 12日の東京都議会議員選挙の結果には、ただただ驚くばかりだ。いや「呆れた」といった方がよいかもしれない。小泉郵政選挙のときの「サプライズ現象」とそっくりだ。政治の変わり目の節々にあらわれる「無党派現象」あるいは「浮動票現象」のもたらす「突然変異」とでも言えようか。

 あの時も大量の「小泉チルドレン」が誕生した。無名の「ヒラリーマン」や「女性刺客」があっという間に大量の不動票をさらっっていった。私の隣の選挙区でも、民主党から自民党へ突然鞍替えした松下政経塾出身の女性候補が何一つ政策を語らず、「コイズミ!」、「コイズミ!」と連呼しただけで、上位当選を果たすという有様だ。

 今度の都議選でも、葛飾区では投票日のわずか3日前に立候補した民主党女性候補が、それも選挙区とは異なる地域からの「落下傘候補」であるにかかわらず当選したのだという。また千代田区では、9日前に立候補した青年が、自民党の1議席を奪い取った。要するに民主党であれば、「誰でもよかった」のではないか。

 それにしても民主党の得票数は、前回と比べて122.8万票も増えたというのだから、東京というところの浮動票のボリュームの大きさには凄まじいものがある。投票率が10%上がった分がそっくりそのまま民主党に流れたのだろう。自民党は「大敗・惨敗」したというが、得票数では実は11.9万票も増えているのである。それに比べて、議席数を維持した公明党は4.3万票も減らしている。一方、議席数が半分近くになった共産党は、逆に2.7万票増やしている。

 定員1名の小選挙区、定員2名の選挙区では、各党派の固定票に上積みされる浮動票によって勝敗が大きく左右される。今回の1人区で民主党が圧勝したのもそれが原因だ。自民党公明党の固定票を当てにしてこれまで小選挙区を独占してきた方程式が、今回は裏目に出たというわけだ。次の総選挙ではそれが国政レベルで現実のものになるというので、自民党が右往左往しているのである。

 それにしても、なぜかくも「民主党風」が吹いたのか。私はマスメディアが持ち上げる「無党派層」の政治水準の低さ、政治意識の未成熟さにその原因を求めたい。おそらく、今回の都議選で民主党に投票した無党派層は、小泉郵政選挙では自民党に投票した人たちだろう。ふだんは政治には関心を持たない、持っていても投票には行かない、そんないい加減な「政治的無関心層」が無党派層の中核部分を構成しているのである。

 ところが、今回の政局のようにマスメディアが騒ぐようになると、ふだんは「政治は変わらない」、「選挙に行っても無駄だ」と言っていた人たちが、一転して政治に関心を持つようになる。それはそれで結構だが、問題はその関心の持ち方であり、関心を持つようになった政治情報の質である。電車の中の週刊誌の吊革広告の見出しに「釣られる」とか、テレビのお笑い芸人の「政治トーク」に影響されるようでは話にならないからだ。

 でも悲しいことに、それが日本の「無党派層」の現実なのだろう。そしてこのような「政治的無関心層」をテコにして世論操作をすることが、支配層(スポンサー)からマスメディアの政治的役割として与えられているのだろう。だから「地方分権」を旗印にしたお笑い芸人やテレビタレントなどが、性懲りもなくテレビの画面や新聞の紙面を独占するようになるのである。

 しかし今回の都議選報道では、新たな手法が登場したことに注目したい。小泉郵政選挙では「刺客騒動」をクローズアップすることで、全ての政治争点を塗りつぶすという「劇場型報道」が横行したが、さすがに幕間が終わると、演出の粗雑さが誰の目にもわかるようになり、その後はこの手の「目くらまし」戦術は通用しなくなった。だが今回の新手は、ニュース報道である。

 今回の各社のニュース報道は、(1)都議選を国政選挙の代理戦争に仕立てる、(2)そのことによって東京都政の内実や都議会の実態を不問に付す、(3)結果として民主党を「野党」に祭り上げる、という3段階論法で構成されていたように思える。麻生自民党政権への国民の愛想尽かしを読んだ、巧みな、しかしあくどい世論操作である。

 麻生内閣支持率が一貫して低下しているように、国民はほとほと麻生首相にはさじを投げている。なにしろ都議選の応援演説に行ったときの第一声が、「みなさん、生(ナマ)の麻生を見たことがある?」というのだから、まるで街頭芸人並みの言動ではないか。これでは一国の宰相が務まるわけがないし、尊敬されるはずもない。どこかのお笑い芸人とまったく同じレベルなのだ。

 そんなことで、国民は一刻も早く総選挙でケリを付けたいと思っているのだが、そこに都議選がやってきたので、マスメディアは東京都政はそっちのけにして「国政選挙の代理戦争」に仕立てたというわけだ。都議会での民主党は、全国各地の地方議会の民主党と同じく「与党」そのものだ。卒業式での君が代斉唱問題などでは、自民党を飛び越えて教員や生徒に強制を迫る札付きの右翼なのである。破綻に瀕している新東京銀行の設立も、諸手を上げて賛成した。社会福祉や医療予算を容赦なく削ってきたのも民主党だ。いわば頭の先から爪の先まで、一貫して「石原与党」として行動してきたのが民主党なのである。

 ところがこともあろうに、NHKをはじめ民放各社は自民党公明党を「与党」、民主党を「野党」として扱った。石原知事に対する反感と麻生首相への愛想尽かしが重なって、民主党が圧勝するような仕掛けがニュース報道番組を通して着々と出来上がっていた。ふだんはまともに政治に関心を持たない浮動層が、この仕掛けにイチコロで引っかけられたことはいうまでもない。(続く)