JAL撤退は神戸空港の“最後のとどめ”、神戸市長選座談会その4、(堺市長選、神戸市長選はどうなる、その9)

(衝撃が走ったJALの撤退通告)
A:神戸市長選の最大のイッシュ―(政治課題)は、いうまでもなく神戸空港問題だった。正確に言えば「神戸空港破産問題」だ。それが選挙中は大した話題にならず、選挙後になってにわかに浮上してきたのはなぜか。その辺の事情からはじめよう。

B:市民に知られたくないことは全部隠して、とにかく現職を通すことだけに集中したのが今回の神戸市長選だった。だから空港の経営収支状況が実質的に破産していて、空港建設の借金を返すためには新たな借金をしなければならないことを神戸市が発表したのも選挙後だった。いわゆる「借金の綱渡り財政」というやつだ。 
C:日本航空神戸空港からの全路線の撤退を通告したのもやはり選挙後だった。そんなことは関係者の間では選挙前からとっくにわかっていたのだが、なんとか選挙後に発表を遅らせたというのがことの真相だろう。

A:選挙前に日航の撤退計画が明らかになっていたら、現職の当選は完全に吹っ飛んでいたからね。だから、わざわざ日航本社にまで出かけて行って、「交渉」するふりをしたわけだ。

B:民主党が現職候補を単独推薦したのは小沢幹事長の指示だとされているが、神戸市側が自民・公明を抑えて民主党単独推薦を「懇願」したという話もある。市当局が借金の借り換え債を発行するには政府の同意が必要なので、民主党政権の推薦を受けることは絶対条件だったからだ。自民・公明の市議団もこれには逆らえない。

C:しかし事態は、神戸市の思惑をはるかに超えて進んでいた。日本航空が今後撤退する45路線のなかから、先行して国内8路線、国際8路線の計16路線を来年6月1日までに撤退すると通告したが、その中に神戸空港の全路線(4路線)が入っていた。これは神戸市にとっては衝撃だった。さすがの神戸市も「そこまで」は考えていなかったらしい。また最初に羽田路線がなくなるのも象徴的だ。

A:JALは「腐っても鯛」だから、JALの全路線がなくなるのは神戸空港にとっては致命的だね。神戸市は全日空スカイマークに代わりの増便や新路線就航を交渉しているというが、その見通しはどうか。

B:地元紙の神戸新聞あたりは「増便の可能性あり」との楽観的予想を流している。だが、現実はかなり厳しいらしい。全日空は「日航の二の舞」にならないことを“社是”にしているから、破産目前の空港に増便するようなことは絶対にあり得ない。むしろ「撤退の準備」を始めているというニュースさえあるよ。

C:日航が撤退した場合、神戸市はその搭乗者数をそのまま全日空スカイマークにシフトできる(穴埋めできる)と計算しているらしいが、この考えは甘い。JALが撤退した空港では、搭乗者数全体が大幅に減少するのがこれまでの経験則だ。便数が減ることもその原因の一つだが、それ以上に「JALが撤退した空港」「JALに見捨てられた空港」という心理的なマイナスイメージのダメージの方が大きい。

A:神戸空港問題は、神戸の「市役所一家体制」すなわち「オール与党体制」が生み出してきた土木開発行政の必然的な結果であると同時に、その体制に歴史的な引導を渡す“最後のとどめ”になることは間違いない。なにしろ神戸空港は、文字通り頭の先から爪の先まで神戸市民の反対を押し切って強行されてきた「反市民的公共事業」だったからね。その最後の大事業が神戸市政の“命取り”になるわけだ。

C:神戸市は、神戸空港の年間搭乗者数を「開港当初319万人」、「2010年度から403万人」、「2015年度以降は434万人」と見込んできた。この需要予測自体が当初から「政治的(過剰)予測」だと厳しく批判されていたが、それが「現実」の前に完全に破綻したわけだ。開港以来、年間搭乗者数は300万人を上回ったことがないし、着陸料収入も16億円の見込みが7億円に届かない始末だ。ここから日航の着陸料を差し引くと4億円に激減する。

B:日航が撤退することになると、借金の借り換えも難しくなるのではないか。総務省の一存で起債を認めることができなくなる。国交省との話し合いもあるし、そうは簡単にいかない。

A:となると、民主党単独推薦で当選した現職の思惑もすんなり実現できない。万が一、起債が認められないようなことになったら、神戸市会はハチの巣をつついたようなことになる。市当局はもとよりオール与党の責任は白日の下にさらされる。

C:神戸市のつらいところは、ことは神戸空港だけの問題でないということだ。日航再建と神戸空港問題が連動しているところに問題の複雑さがある。民主党政権日航にリストラを激しく迫る以上、神戸空港の路線廃止は否定できない。この1年間、神戸市政は棘の道を歩かなければならない。(続く)