民主党マニフェストに偽りあり―「コンクリートから人へ」、「政治主導」、「地域主権国家」の虚構、(民主党政権の内実、その1)

 年が明けて以来の“憂鬱感”が依然として続いている。いや、ますます増幅してきていると言ったほうがいいかもしれない。しかし、それが私だけの個人的感情でないことは、ここ2、3日の世論動向を見てもよくわかる。各紙の内閣・政党支持率世論調査結果によれば、鳩山内閣民主党も支持率が連動して一路低下してきているのである。

 民主党ブームの頃は、小沢代表の「西松スキャンダル事件」が暴露されても、民主党の支持率はなかなか下がらなかった。代表が小沢氏から鳩山氏にバトンタッチされると党支持率はただちに回復し、それが総選挙での大勝利に結びついた。そして、いつの間にか小沢氏が民主党大勝利の「立役者」となり、ふたたび幹事長の要職に返り咲いたのである。

 この「成功体験」が今回のスキャンダル事件における小沢幹事長の強気の背景にあるのだろう。胆沢ダム建設に絡む「ゼネコン裏献金疑惑」で秘書が3人も逮捕されているというのに、本人は幹事長も国会議員もいっこうに辞任する気配がない。次の参議院選挙に大勝利すれば、またもや「国民に理解された」、「国民に支持された」といって居直るつもりの魂胆が透けて見えるのである。

 だが、今度ばかしは少し情勢が違うのではないか。民主党の「ツートップ」である鳩山首相小沢幹事長が揃いもそろって疑惑の渦の中にいるのである。鳩山首相は、母親からの贈与金の脱税分を支払ったので「ことは済んだ」と思っているかもしれないが、国民には12億円もの巨額資金が「何のために」、「誰に対して」使われたのかということがまったく説明されていない。

 小沢氏に至っては、日が経つにつれて「自民党そのもの」、「自民党顔負け」の裏金疑惑や政治献金スキャンダルが次第に明るみに出てきている。本人は、自分は潔白なのに国民が「誤解」しているとか、いずれ「理解」してもらえるとか言っているが、国民は誤解もしていなければ、事実を曖昧にしたままでの幕引きを理解するつもりもないだろう。事実、世論調査では10人のうち9人までが小沢氏の言い分に納得していないのである。

 しかし私がより重要だと思うのは、今回の鳩山・小沢両首脳の言動を通して、国民が民主党そのものの体質に次第に疑いの眼を向け始めたのではないかということだ。そしてその疑惑は、民主党が掲げた「マニフェスト」の中身にまで及ぼうとしている。言うならば、民主党の「看板に偽りあり」ということに国民が気付き始めたということだ。

 民主党マニフェストのなかでも、「コンクリートから人へ」、「政治主導」、「地域主権国家」は3大看板だ(だった)。だが第1看板の「コンクリートから人へ」は、「事業仕分け」のなかでその正体がはやくもばれた。「鉄とコンクリートの塊」である軍事基地や、小沢幹事長の権力の源泉である大型公共事業などの予算に関しては指一本触れさせなかったかわりに、「人」そのものである教育・研究、医療・福祉、芸術・文化、健康・スポーツなどの予算が容赦なく削られたのだ。

 2番目の「政治主導」はどうか。この表看板は今回の「鳩山・小沢疑惑」の解明において目下完膚なきまでに剥がれ落ちようとしている。言うまでもなく、検察は「司法官僚」である。官僚政治を打破して政治主導を取り戻すのであれば、検察の捜査を待つまでもなく、民主党はこれら「ツートップ」の政治資金疑惑を「政治主導」、「政党主導」で解明しなければならないはずだ。ところが、「検察の捜査を見守りたい」、「捜査の行方がわからないのでコメントできない」とかいって、本人はもとより民主党の党組織全体が「政治主導」で全く動こうとしない。幹部が全員そろって「幹事長をサポートする」、「幹事長を信じる」、「検察は横暴だ」などとかいって、かえって事態の解明を妨げる態度に出ているのである。

 3番目の「地域主権国家」についても、もうすぐ普天間基地移設問題の決着をめぐって化けの皮がはがれるだろう。「地域主権国家」とは、素直に読めば、「地方自治・住民自治を尊重する国家」のことである。アメリカ軍基地問題についていえば、各種世論調査や地方議会の決議が示すように、沖縄県民の意思は圧倒的に「県外・国外移設」であって、「県内たらい回し」ではない。また本土への「県外移設」を容認する動きは、目下のところ橋下大阪府知事を除いて誰もいない。

 ところが岡田外相や北沢防衛相は、「国家の意思」として普天間基地移転を辺野古に押しつけようとの策動を繰り返している。沖縄県や地元自治体の意向など「全くお構いなし」である。このように地方自治・住民自治を無視して「地域主権国家」の看板を掲げることは許されないし、またその論理矛盾を持ちこたえることも難しい。遠からず、民主党のいう「地域主権国家」は「中央主権国家」の代名詞に他ならないことが明らかになるだろう。

 民主党ブームは、「マニフェスト選挙」によって「政権交代」を導いたといわれる。だが、民主党マニフェストをめぐる問題は、巷間言われるように、公約実現の財源が足りないといった「財源問題」だけにあるのではない。マニフェストの根幹に位置する「コンクリートから人へ」、「政治主導」、「地域主権国家」という3大看板に「偽り」があるのではないかという、政党の政策理念そのものが問われているのである。