朝日の読売・日経化、普天間基地移設問題をめぐって、(閑話休題、その3)

 「日米関係の基礎は安保条約であり、日本が基地を提供するのは不可欠の条件である。(普天間基地の)移設問題はその重要な一環だ。この基本認識では日米に大きな違いはあるまい。米側が既存の合意の実施を求めるのは、米国の立場としては当然だろう。」

 「普天間問題、日米関係の危機にするな」と題するこの一節は、「読売」か「サンケイ」、そうでなければ「日経」の社説だと誰しもが思うだろう。だがこの社説は、昨日12月10日付けの正真正銘の「朝日」の社説なのである。

安保条約反対の論陣を張っていた頃の朝日を知る者にとっては、最近のオピニオン欄への五百旗頭防衛大学校長の度重なる登壇といい、また21世紀臨調メンバー揃いの論説陣といい、いまや隔世の感を禁じ得ないものがある。もはや「朝日よ、おまえもか!」なんて言う段階をはるかに通り越して、外交面でも内政面でも「朝日の読売・日経化」が一段と進んでいるのである。

 朝日をはじめとして、このところ民主党政権とりわけ鳩山首相の言動に対しては、全国紙各紙の「包囲網」が敷かれているように思われる。各紙揃って「事業仕分け」に協力してわざわざブームを盛り上げてやったのに、なぜ内閣支持率の高いうちに普天間基地移設を決断しないのかというわけだ。来年1月の名護市長選で移設反対派の市長が当選するようなことになると、事態はますます難しくなる。だから一刻も早く決めなければと脅かしているのである。 

 不思議なのは小沢幹事長の行動だ。鳩山内閣にとっては危急存亡のときなのに、「大名行列」といわれるような中国・韓国へ大訪問団を組織して「草の根交流」を促進するなどと称している。だがこの期の中国・韓国への外交活動が単なる交流などとはだれ一人思わないだろう。彼の真意はいったいどこにあるのだろうか。

 その背景には、最近の状況変化に対する小沢氏一流の読みがあると思われる。第1は、「事業仕分け」を彼自身はそれほど重要視していなかったことだ。民主党議員の参加を最小限にとどめて、「お雇い民間仕分け人」に作業の大半を任せたことは、その後の世論の反発を利用して、小沢氏が「自民党流的調整」に乗り出すことを予定していたことを物語っている。

 事実、「事業仕分け」に反発する業界団体や地方首長は、その後、幹事長室になだれ込んでいるというし、小沢征弥氏のような著名人が芸術予算の復活を小沢幹事長に陳情する見せ場をつくるなど、結構演出もうまい。表向きは「内閣と党の役割分担」を謳いながら、その実は行政刷新会議に露払いをさせた後に、結局は自分が実質的な主役として予算を仕切る状況を着々と整えているわけだ。これなどまさに自民党の予算編成のやり方そのものだし、それがまた彼の権力基盤をますます広げることに通じているのである。

 普天間基地問題にしても、なぜ小沢氏が動かないのは不思議に思う人は多い。しかし社民党がたとえ連立政権から離脱したところで、「痛くも痒くもない」のが小沢氏の真意だろう。社民党議員の数ぐらいはどこからでも埋め合わせる人脈を持っているにもかかわらず、彼がいっこうに動こうとしないのは、日本の米軍基地はもはや不可欠のものではなく、「第7艦隊」程度でいいという彼自身の考え方を反映しているからではないのか。

 そうなると岡田外相や北沢防衛相がこま鼠のように走り回っても、この問題がそう簡単に決着がつくとは思われない。それを見越して小沢軍団は中国・韓国に悠々と出かけたのであって、アメリカに対してアジア重視外交をデモストレーションすることで、普天間基地施設問題にこだわらないとのメッセージを送ったのである。

 加えて、鳩山兄弟の政治資金疑惑問題がいよいよ佳境に入って、小沢献金問題が次第に後景に退いていくというラッキーな状況も生まれてきている。政治資金の実態は母親からの贈与金であり、脱税額が2人合わせて9億円近くになるとなれば、世間の耳目は自ずと鳩山兄弟に集中する。おまけに同じ西松献金疑惑の二階自民党選対局長の秘書が、略式起訴という微罪で一件落着したことも小沢氏の荷を軽くした。

 こうなると、小沢氏は目前の事態の推移を静かに見ていて、そのうちに熟した柿が彼の手元に落ち来るのを待っているだけでよいことになる。そして政治資金疑惑と普天間基地移設問題の不手際で鳩山内閣の人気が低落し、予算編成の不満が鳩山首相に向けられるようになると、民主党内での政権交代もあながち非現実的な話ではなくなる。鳩山内閣を叱咤激励する朝日など全国紙は、期せずして次の小沢政権登場の露払いをかってでているのかもしれない。(次回以降は、神戸市長選座談会に戻ります)