「抱き合い」、「道連れ」、「刺し違え」の小沢・鳩山辞任劇の真相、(民主党連立政権の行方、その12)

 鳩山首相が電撃的な辞任表明をした6月2日、各紙の夕刊トップには「抱き合い」、「道連れ」、「刺し違え」といった「心中」時代劇ばりの大見出しが躍った。鳩山首相だけの辞任なら、これだけの大騒ぎになることもなかったであろうが、小沢幹事長を道連れにしての突然の退陣表明だっただけに、マスメディアも不意を突かれて慌てふためいたというわけだ。

 表面的な理由としては、任命権者である民主党代表の鳩山首相が辞任すれば、党幹事長の小沢氏が辞任するのは当然だということになる。だが、ことの真相はそう簡単なものではないのではないか。鳩山主犯説、小沢主犯説といった世上の政局的レベルの話ではなく、根はもっと深いところにあるのだろう。

 私の推測は、これまでの「黒色ツートップ」による参議院選挙の強行突破路線のシナリオが「どこか」で書きかえられ、それにしたがって今回の「役者交代劇」が演じられたというものだ。小沢・鳩山という2人の「悪役」の首を挿げ替えて舞台の雰囲気を変え、「民主党政権交代劇」をこれからも続演しようというのである。

東京地検特捜部が小沢幹事長を再度不起訴処分にした段階では、支配層の判断は、まだ「政治とカネ」の問題を頬被りしたままで民主党に選挙戦を戦わせようというものだった。だがしかし、彼らは小沢氏に対する国民の嫌悪感・忌避感情が想像以上に大きいことを見誤っていた。小沢氏は民主党の幹事長でありながら、国民の眼には「自民党以上の利権政治家のシンボル」として映っているのであり、野党になった自民党には「愛想を尽かした」ままでもよいが、小沢氏が政権交代の中枢権力に居座り続けることに我慢できなくなっていたのである。

 加えて、鳩山首相普天間基地移設問題の落とし所が、自公政権と変わらない辺野古地区移転という「日米共同声明」だっただけに、もはや沖縄県民や国民の怒りを抑えられなくなったことが鳩山氏の命運を決めた。トヨタパナソニックなどグローバル企業を中核とする支配層の戦略基盤が日米同盟にある以上、もともと鳩山首相の選択肢は「日米共同声明」以外にはなかったはずである。そのあり得ない選択肢のなかから「最低でも県外移設」と口走った未熟な首相がようやく「日米共同声明」を発表し、拙劣ながらもその役割を果たした段階で容赦なく使い捨てられたのである。

支配層は、そのときどきの戦略的政策決定をするに際して、たとえ首相といえども「一時しのぎのカード」や「捨て玉」として使い捨てにする。日本ではじめて消費税を導入したのは竹下内閣だったが、竹下首相は消費税導入と引き換えに辞任し、立派に「捨て玉」としての役割を果たした。だがもう少し狡猾だった中曽根首相は、消費税導入を戦略課題として課せられながらも、自らの政治生命を維持するために「使い捨てカード」になる道を選ばなかった。

そういう観点からすれば、今回の「小沢・鳩山ダブル辞任劇」は、支配層からすれば小沢と鳩山という「薄汚れた2枚カード」を処分して、ゲームをリシャッフルする絶好の機会だったといえる。小沢幹事長という「ノドに刺さった骨」を取り除いて民主党政権のイメージを「クリーン」に塗り替え、日米安保条約の再検討と米軍基地の撤去に向けて流れ始めた国民世論をしばし沈静化させることができるからである。菅新首相が「鳩山首相が辞任によって政治とカネの問題と普天間基地の問題にケリをつけた」と語ったのは、まさにこのことを指している。

菅内閣の陣容はまだ決定していない。来週にも党役員人事と閣僚人事が正式に決まるというが、6月6日現在では、内閣の要の官房長官に仙石氏、党の要の幹事長に枝野氏が起用され、事業仕分けで「成果」を上げた蓮舫氏が入閣すると伝えられている。この主要メンバーを見る限り、菅政権は小泉政権新自由主義構造改革を継承する本格政権になる使命を与えられており、それを担う有力メンバーが起用されていると見ることができる。

昨年の政権交代劇によって誕生した小沢・鳩山体制は、いわば小泉構造改革のショックを糊塗する暫定政権であり、過渡的政権であった。「権力のためには手段を選ばない現実主義者」である小沢氏と菅氏の「民由合体」によってつくられた民主党は、土建利権にまみれた小沢氏をはじめ多くの「不純物」を抱えていた。それが今回の「小沢・鳩山ダブル辞任」によって「純粋」の新自由主義政党として生まれ変わるチャンスを与えられたのである。

菅政権に課せられた課題は、財界が要求している消費税増税法人税減税、そして容赦ない「事業仕分け」を推進することである。菅首相がその歴史的役割を果たせるかいなかによって、「本格政権」になれるかどうかが決まる。菅首相が竹下内閣と中曽根内閣のどちらの道をたどるのか、これからが国民にとっても勝負時であろう。(つづく)