菅政権は「新ファシズム」(ファッショ的専制政治)のまえぶれか(その2)、民主党連立政権の行方、その15)

 ワールドカップ・日本チームの大活躍のおかげで、参院選関連のニュースはこのところ少し影が薄いが、今日6月26日になってようやく序盤戦の様子が伝えられるようになってきた。各紙の情勢分析によると、改選議席数に対する各党のおよその獲得議席数は、民主維持、自民漸増、公明減、共産維持、社民・国民新党減、みんな大幅増、その他減というもので、「大山鳴動してネズミ一匹(みんなの党)」というところらしい。

 小沢・鳩山の2枚看板のままなら、「名ばかり新党」の乱立と進出によって民主・自民の大幅議席減は避けられなかったというから、これで民主党自民党もさぞかし胸を撫で下ろしていることだろう。今回の参院選の最大の焦点は、「名ばかり新党」の進出によって、民主・自民の保守2大政党による今後の安定した国会運営が妨げられるかどうか、にあったからである。

 その意味で菅政権が「反小沢」を表向きの旗印にして民主党支持を回復し、「名ばかり新党」の進出を封じたことは、民主のみならず自民にとっても大歓迎すべき事態であったというべきだろう。なぜなら、これら「名ばかり新党」は、民主と自民が今後安定した大連立を組むうえで障害になる「ハネ上がり分子」が多いからだ。

 したがって、もしこの序盤戦の予想が最終結果に結び付くとなると、菅政権がいよいよ「ポスト小泉政権」を担う本格政権として姿を現す条件が整うことになる。民主は「カネと利権」にまみれた小沢勢力を表向き封じ込めて、「クリーンな改革政党」を演出する。一方、自民は「立ち上がれ日本」のような極右勢力や「みんなの党」・「新党改革」などに代表される極端な市場主義・新自由主義勢力を切り離して「穏健な保守党」を装う。これで民主・自民が大連立を組む条件が整うというわけだ。

 だから、マスメディアは選挙予想としてもっぱら民主が単独過半数に達するか達しないかといった「政局シナリオ」を書いているが、民主がどれだけ議席数を獲得するかといったことは枝葉末節以外の何物でもない。繰り返すが、今回の参院選の焦点は、極右とウルトラ新自由主義の「名ばかり新党」が政治的に淘汰され、「体質改善」された民主・自民の2大保守政党による安定した大連立政権が誕生する条件が整うかどうかということなのであり、そして「みんなの党」を閣外勢力として利用しながら、小泉構造改革を仕上げることなのである。

 選挙後の政局が政策連立になるのか、それとも政党結成に至るのかは別にして、すでに大連立政権を前提とした選挙後の国会運営に対する準備が始まっている。菅内閣は、6月22日に国と地方のあり方の抜本的見直しを盛り込んだ「地域主権戦略大綱」を閣議決定し、「道州制も射程に入れる」として都道府県制の廃止と道州制の導入など地方自治制度の大改造に着手した。道州制の導入は、日本経団連が「究極の構造改革」と名付けて実現を求め続けてきた長年の政治課題であり、菅政権はいよいよそれに取り組み始めたというわけだ。

 また枝野民主党幹事長は、6月23日の記者会見で、「衆院比例定数の削減を出来るだけ早期に国会の俎上にのせて、できるだけ早く結論を出すという強い姿勢で臨んでいきたい」と述べ、次回の総選挙で少数批判勢力を締め出すための姿勢をあらわにした。参院選後の大連立政権に対する国民の批判を封じ込めるためには、衆院選挙を事実上の小選挙区制にして、民主・自民の2大政党で議席を独占してしまうのが一番だというわけである。

 枝野幹事長は、また「極めつきの改憲主義者」であることもよく知られている。「9条の会」など国民的な護憲運動の高まりもあって、しばらくは表立った改憲策動は鳴りを潜めていたが、枝野氏の「改憲日程を具体化するための憲法調査会を発足させたい」という発言によって、事態は新たな段階に入ったといえるだろう。安倍元首相など極右靖国派の策動が国民に受け入れられないことを計算に入れて、大連立政権のもとで改憲への新たな道筋を探る動きが始まったのである。

 そして6月23日に開かれた沖縄全戦没者追悼式では、「変えてゆこう。平和で塗りつぶしていこう。その想いはきっと届いているはずだから」と訴えた普天間高校生の「平和の詩」に対して、菅首相は、「沖縄の負担がアジア太平洋地域の平和につながってきたことにお礼を申し上げます」と臆面もなく言ってのけた。日米同盟をあくまでも堅持し、これからも沖縄を半永久的に米軍基地として使い続けるという決意表明であり、沖縄県民への挑戦であり宣告だろう。

 今回の参院選の最大の争点が、表向きは「消費税10%」問題であることは間違いないにしても、それは「氷山の一角」であって、水面下では「大連立政権」の樹立に向かって怒涛のような深層海流が流れていることに留意しなければならない。そして選挙後は、その「氷山の基底」があらわになる日が意外に早くやってくるかもしれないのである。

 今日6月26日の朝日新聞の経済コラムで、「菅首相はなかなかトリッキー(曲者)だ。普天間飛行場の移設問題では日米合意を先行させて既成事実を作り、獅子身中の虫社民党の福島党首を追い出した。鳩山退陣と引き換えに眼の上の瘤だった小沢幹事長に詰め腹を切らせた。加盟郵政・金融担当相が辞任したが、これも郵政改革とは全く関係なく、菅首相が積極財政派の亀井氏を切り、閣内の消費税増税反対の声を封じたスキルフルな大技だ」(経済気象台)といった見解の紹介があった。

 菅首相の唱える「第3の道」は、表向きは土建型国家の道でもなければ、新自由主義構造改革の道でもないとされているが、その実は、自民党の「第1の道」と民主党の「第2の道」を合わせた、大連立政権という「第3の道」であることは間違いないのである。