菅政権のダッチロール(その13)、民主党の政策変更で自治労・日教組は組織解体に直面するだろう

 この「ダッチロール・シリーズ」もそろそろ終わりにして、「強行突破シリーズ」に切り替えなければならないときが来たようだ。菅政権の内閣改造後、国会情勢は明らかに“潮の目”が変わったといえる。菅首相がこれまで民主党を徹底批判してきた政敵の与謝野氏を主要閣僚に迎え入れ、消費税をはじめ「増税シフト」の強行路線に踏み切ったからだ。

またアメリカと日本財界の圧力屈して、農産物の貿易自由化を含む環太平洋連携協定(TPP)への参加を積極推進しようとしていることも、かってなかったことだといわなければならない。「究極の開国論者」である海江田氏を担当大臣に起用し、コメを含む日本の食糧市場を穀物メジャーなどアメリカのグローバル資本に無条件で明け渡そうとしているのである。

 菅改造内閣は、日本の政治経済権力の東京一極集中を象徴する中央集権内閣だ。菅内閣を代表するキーパーソンは、全て首都圏それも東京選挙区に集中している。菅首相自身の選挙区は東京の「アパーミドル地域」の東京18区(武蔵野市小金井市府中市)、与謝野大臣と海江田大臣は「国家中枢」である東京1区(千代田区、港区、新宿区)、枝野官房長官は首都圏政令市の埼玉5区(さいたま市)、蓮舫大臣は参院東京選挙区といった具合である。

地方出身の首相が多かった過去にくらべて、菅政権の主要閣僚の東京・首都圏集中度はずば抜けて高い。これなら東京で生活しながら地方には目もくれず、ホワイトハウス経団連だけを見ていれば政治ができる陣容だといっても不思議ではない。東京や首都圏さえ繁栄すれば、「後は野となれ山となれ」といってもおかしくない顔ぶれなのだ。

だが菅改造内閣による政策変更は、東京・首都圏集中を加速させる一方で、地方の疲弊や地域の衰退を一層加速させるだろう。すでにその兆候はあらわになっている。1月16日に行われた鹿児島県の阿久根市長選挙では、「対立より対話」を掲げた新市長が当選したものの、開票結果は僅差で地域の有権者世論は完全に分裂していた。

阿久根市長選の背後にあるものは、小泉構造改革によって徹底的に痛めつけられた地方の疲弊と地域住民の深い閉塞感・絶望感だ。それが民主党の政策変更によって今後さらに激化することは火を見るよりも明らかだろう。聞くところによれば、地域の基幹産業の農林漁業が不振で生計を立てられず、といって兼業で生きようにも工場の地方進出は望めない。それどころか、いままで辛うじて操業を続けてきた事業所までが海外移転や景気不振で閉鎖されるという八方塞がりのなかで、「いったい俺たちは何で飯を食えばいいのか」という悲痛な声が地域に充満しているのだという。

 そんな住民たちの前に眩しく光るのが市役所という存在だ。選挙前に民放テレビで地元住民と市職員との討論番組をみたが、「市職員の給料は俺たちの収入にくらべてなぜそんなに高いのか」という住民の追求に対して、市職員は「回答を控える」といって一切発言しなかった(できなかった)。市職員たちは「地域のために自分たち職員はこれほど頑張っている」、「公務員がいなければ住民生活を一日も維持することができない」、「住民と職員は本来対立する関係ではなく協力する関係だ」、「阿久根市のまちづくりのために互いに頑張ろう」となぜ堂々と主張しなかったのか。

 阿久根市職員組合は、民主党の支持基盤である自治労傘下の労働組合だ。自治労は連合のなかでも最大組合員数を誇る全国労組であり、民主党に対しても多大な影響力を行使できるはずである。ところがその自治労出身の民主党国会議員たちは、小沢元代表の「パシリ役」をするだけで何ひとつ政策的な発言ができない。また行政現場の最前線では、市職員たちが住民の質問に何ひとつ胸を張って答えられない。これではおよそ公務員労組としての存在意義もなければ、公務労働者としての資格にも欠けるというものだろう。

 そんな民主党職員組合の足元を見透かすかのように、竹原前市長は議員定数の削減や議員報酬の切り下げ案を議会で否決されるや否や、攻撃の的を職員給与の削減にしぼって専決処分を強行した。それがたとえ地方自治法上は違反であったとしても、日々の生活困難に喘ぐ住民からすれば、自分たちの税金を少しでも取り戻せたと目に映るのは無理からぬところがある。前市長の異常きわまる強権体質に辟易してはいても、彼が市職員給与を切り下げたことに有権者の共感が集まったのは、それほど理解に難しいことではなかったのである。

 今回新しく選ばれた市長は、専決処分を連発した前市長の独断専行手法を批判したが、政策は必ずしも全否定していない。今後、議会や市民と「対話」を重ねながら、議員定数の削減や職員給与の切り下げ公約の実現を図っていくことになるのだろうが、そのときに議会や職員組合はいったいどんな方針で臨むのだろうか。

民主党の政策変更の及ぼす全国的影響は計り知れない。それは地方の疲弊や住民の生活困難を通して、そこで働く公務員や教員たちに多大の苦痛を与えるものとなるだろう。自治労日教組が支持している民主党の政策が地域住民を苦しめるとき、住民の批判の矛先が市役所や学校に向けられることは十分にあり得ることだ。自治労日教組がいつまでその批判に頬かぶりするのか、それともその前に組織崩壊するのか、そのいずれもがのっぴきならない緊迫感をもっていま連合傘下の組合員たちに迫っている。(つづく)