大阪の懲りない面々、維新と公明はまだ〝裏取引〟を続けるのか、保守補完勢力の維新・公明の敗北が菅政権を直撃(下)、菅内閣と野党共闘の行方(9)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その234)

 

公明党大阪府本部は11月14日、「大阪都構想」の住民投票の否決を受けて、歴代最長の11年間にわたって代表を務めた佐藤衆院議員が退任し、石川参院議員に交代したと発表した。記者会見で土岐幹事長は、「(佐藤氏は)否決の結果を踏まえて辞意を固めた」と述べ、公明が賛成していた都構想が否決されたことを受けた事実上の引責であることを認めた(日経11月14日電子版)。

 

 大阪の知人の言によれば、佐藤氏は今回の都構想住民投票で創価学会員の激しい批判に曝され、「公明は市民から〝大阪市を売った〟と見られている」「次の選挙には協力しない」と言われたという。「常勝関西」の拠点である大阪府本部にとってこれは由々しき事態であり、佐藤氏の本心はどうあれ、このまま代表に留めて置くことができなくなったらしい。幹部の間では、表紙を付け替えれば中身は変わらなくても「この場は切り抜けられる」と踏んだのだろう。

 

 もっとも大阪に応援に駆け付けた公明党山口代表も、それに先立つ11月5日の党本部会合で大阪都構想否決について陳謝したという。だが、いったい何を陳謝したのかその意図がいっこうにはっきりしない。都構想住民投票の否決について「広く浸透を図り切れず申し訳ない」と陳謝し、同時に賛否が拮抗(きっこう)した結果に関して、「しこりとなってさまざまな活動に影響を及ぼすことがあってはならない」と述べただけだ(共同通信11月5日)。

 

山口代表の発言は、公明が〝鵺(ぬえ)政党〟と言われるだけあって、いつもその意味が曖昧模糊(あいまいもこ)としている。前半の「その意図を大阪市民に広く浸透させることができなかった」ことに重点があるのか、それとも後半の「しこりとなってさまざまな活動に影響を及ぼすことがあってはならない」ことに真意があるのか、この記事だけではわからないのである。おそらく今回の都構想住民投票では、公明が大阪自民と維新との間で股裂状態きになり、大阪はもとより国会でも与党内の「さまざまな活動」に支障が出てくることを懸念しているのだろう。

 

 住民投票で否決されたにもかかわらず、意外にも公明大阪府本部内では安堵(あんど)の空気が漂っているという。「公明党には支持者の説得に汗をかいてもらった。非常に信頼関係が深まった。感謝している――」、維新代表の松井大阪市長は11月1日深夜に始まった記者会見で表向きこう謝意を表した。また、衆院選での対抗馬擁立の可能性を記者団から問われても「ない」と否定した。公明は維新から取り組みを「評価」され、衆院選の選挙区での維新との「すみ分け」が維持される見通しとなったと受け止め、ひとまず安堵したらしい(時事ドットコム11月4日)。

 

 だが、維新代表の松井大阪市長の発言には裏があった。松井市長は11月5日の定例記者会見で〝都構想簡易版〟ともいえる新制度の検討を打ち出し、またもや並み居る会派の度肝を抜いた。新制度の内容は「広域行政の一元化条例案」、もう1つは「総合区設置案」である。松井市長は、住民投票で「二重行政をなくすことが民意で示された」と強調し、「大阪府大阪市の対立や二重行政をなくすルール作りをやっていきたい」と表明した。都構想が住民投票で否決されたにもかかわらず、府と連携して行政運営している現状を制度化する新しい「一元化条例案」をつくる方針を示したのである。

 

これに合わせて11月6日には、代表代行の吉村府知事が「現状を制度化するだけでなく、都構想で市から府へ移管するとしていた約430の事務が検討対象になる」「仕事と財源はワンセットだ」と述べ、一元化すれば大阪市の約2千億円の財源も府へ移ることになると表明した。総務省によると、事務の委託や代替執行は議会の議決を経て規約を定めればできることになっている。府と市は来年2月の定例議会への条例案提出を目指しているが、約430の事務すべてを(大阪市の財源2000億円付きで)移管すれば都構想と中身はほとんど変わらない規模での変更となる(朝日11月11日)。

 

 都構想を住民投票で否決された維新が、その舌の音も乾かないうちに今度は住民投票を必要としない「抜け道」を出してきたことには驚く。奇策・陰謀を得意とする維新の面目躍如というところだろうか。維新は府議会では過半数を制しているものの、大阪市議会では公明を引き込まないと過半数に達しない。松井代表が次期衆院選では公明現職がいる選挙区には「対抗馬を立てない」と言った背景には、こうした策謀が隠されていたのである。

 

しかも、公明を引き寄せるための「餌」(えさ)まで用意されている。都構想で掲げた4つの特別区を設置する代わりに、8つの総合区を設置する案だ。過去に公明が総合区の導入に前向きな姿勢を示したことがあるので、これを利用しようとする魂胆だろう。「総合区設置案」を餌にして「一元化条例案」を釣りあげようというわけだ。

 

大阪市を残したままで24行政区を再編して権限と財源を強化する総合区は、特別区と異なり選挙で選ばれた区長は存在せず、行政区と同様に市の組織の一部のままだ。総合区は、2016年施行の改正地方自治法で政令指定市に導入できるようになった仕組みで、市議会で議決すれば設置できる。総務省によると、総合区を設置している政令指定市はまだないという(朝日同上)。

 

松井市長は11月11日、総合区の導入に向けた条例案を2021年2月市議会に提案する意向を明らかにした。同時に、市の広域行政を府に一元化する条例案も2月市議会に提出する方針だという。松井市長は、現在の24行政区を8総合区に再編する案は「吉村市長時代に公明と密に協議してまとめあげたもので非常に良い案」と述べ、公明大阪府本部幹事長の土岐市議も11月7日、記者団に「総合区の方向を進めていきたいというのは市長の考えと同じ」と前向きに議論する意向を表明した(毎日11月12日)。

 

次期衆院選がいつ始まるかわからないこの時期、公明にとっては維新との「議席すみ分け」は死活問題だ。懲りない維新と公明はふたたび〝裏取引〟を始めてようとしているのではないか。市民の眼が届かない市議会での密室談合で、もし「一元化条例案」が可決されるようなことになれば、2度にわたる都構想住民投票で示された大阪市民の意志は無残にも踏みにじられることになる。市民自治の精神を根底から否定するようなこんな事態は決して許されないし、また許してはならないだろう。

 

しかしこのことは、大阪の「ローカルマター」で終わらないことも押さえておかなければならない。維新と公明の談合(野合)は、自民と公明の与党関係に深刻な影響を及ぼさずにはおかないからだ。菅政権は、自民内での権力基盤を公明(創価学会幹部)と維新の両方に二股をかけることで強化してきた。派閥をつくるだけの力がない菅氏にとって、維新と公明(創価学会幹部)はいわば菅政権を支える「2枚カード」であり、そのカードゲーム(調整力)でさしたる見識と能力のない人物が首相の座にまで上り詰めたのである。

 

だが、大阪の維新と公明の野合で自民との関係が悪化すれば、菅政権は自民党内での権力基盤を即座に失うことになる。派閥を持たない菅首相の権力基盤は微々たるもので、安倍政権の裏方として策動してきたにすぎない。菅政権は安倍政権の「影絵」だと言ってもよく、実物の姿は意外に小さい。菅政権の凋落は、維新への肩入れが度を外したことに発している。まいた種は自らが刈り取らなければならない...。これが政治の鉄則である。(つづく)