大阪で「橋下大阪都構想」への反撃がはじまった、だが問題はどう反撃するかだ(名古屋トリプル選挙の衝撃、その2)

 名古屋トリプル選挙の衝撃がまだ冷めない2月11日、大阪で「大阪都構想を越えて―問われる日本の民主主義と地方自治―」と題するシンポジウムが開かれた。(社)大阪自治体問題研究所主催のこのシンポジウムは、東西の地方自治碩学6人が「橋下大阪都構想」の本質を縦横に語り合うもので、久し振りに熱気にあふれた集会となった。

 東西の碩学とは、東京の柴田徳衛(東京経済大名誉教授、美濃部時代の東京都企画調整局長)、大森彌(東大名誉教授、小泉時代地方分権推進委員会専門委員)、大阪の宮本憲一(大阪市大名誉教授)、加茂利男(大阪市大都市研究プラザ所長)、木村収(元大阪市財政局長、経済局長)などの各氏で、いずれも地方自治研究の重鎮であり、とりわけ大都市行政の理論と実際を究めた錚々たる顔ぶれだ。

 各氏の発言の詳しい内容は別の機会に譲るとして、結論から言うと、橋下大阪都構想は「大阪市を解体して大阪府に行財政権限を集中させる集権的地方自治再編構想」に他ならないというものだ。それはまた、戦時中に大東亜共栄圏の「首都」たるべく、時の軍事政権が東京府東京市を強制合併してつくった「東京都のコピー」でしかない。

 また、橋下大阪都構想は文字通り“構想”の域を出ないものであって、その詳しい内容は橋下氏本人からも明らかにされない(できない)ような代物であることも数々の側面から暴露された。大阪都構想の実現のためには、関係自治体の同意はもとより地方自治法の改正が必要であり、また税収不足で国の地方交付税に依存している大阪府と府下自治体の間では、大阪都への移行にともなって地方交付税大阪府に一元的に吸い上げられる危険性も指摘された。

 いずれの発言も「その通り」で、知れば知るほど橋下構想の“胡散臭さ”と“いい加減さ”は度を増すばかりだ。橋下構想は世にいう[妄想]の類であり、よく言っても「幻想」の域を出るものではない。だが、問題はそこで終わらないことが実は大問題なのである。学者だけの研究会や学会であれば、このシンポジウムで「勝負あった」ということになる。しかし橋下地域政党の「大阪維新の会」が大阪都構想統一地方選挙マニフェストに掲げている以上、勝負は選挙でしか決着はつけられない。

 大阪府民の間では、目下のところ橋下人気は圧倒的だ。府民大阪都構想については「説明不足」だと感じているものの、このままでは大阪都構想の何たるかもわからないうちに、橋下政党が圧勝する可能性すらある。いわばデマゴギーにもとづくプロパガンダ(特定の思想や世論を組織し、その方向へ意識や行動を誘導しようとする情報作戦)で選挙戦を制圧しようというのが、橋下陣営の選挙戦略だからだ。

 しかし、選挙は「1票でも勝ちは勝ち]の世界である。これまでの世論調査では橋下人気が圧倒的に高い以上、政策やマニフェストの内容如何にかかわらず橋下政党が大阪府議会、大阪市議会、堺市議会などで多数派を占める可能性は十分ある。場合によっては、橋下氏自身が大阪市長選に打って出るという作戦もあながち嘘だとは言い切れない。そうなれば、いま街頭で展開されているプロパガンダが議会のなかに持ち込まれ、大阪都構想への道筋がブルドーザーのように敷かれるおそれも出てくる。

 今回の学術的なシンポジウムは成功裏に終わった。会場ではこれを契機にして、「反橋下」への動きを急速に強めなければならないことが強調された。だが問題は、それをどのようにして具体化するかである。私は「真面目なシンポジウム」も必要だが、それ以上に「橋下式プロパガンダにどう対抗するか」という専門的な取り組みが決定的に重要だと思う。

橋下政党との宣伝戦・情報戦に打ち勝つためには、広くメディア関係者やコミュニケーションの専門家、宣伝業界のプロなどの知恵を借りなくてはならない。革新政党労働組合幹部・学者などの固い頭やセンスだけでは、思いつくことはたかが知れている。これでは、芸能プロや興行事務所のタレントで固めた橋下陣営のプロパガンダに対抗することは不可能だ。

 名古屋のトリプル選挙では、民主党自民党も「河村劇場に負けた」と認めた。だが革新陣営には、依然として「劇場型選挙」に対する軽視と偏見がある。それは「デマゴギーに対しては真実を」、「プロパガンダに対しては政策を」というオーソドックスな考え方だ。このことは基本的に間違っていない。しかし、「それだけでは勝てない」ことも事実だ。そしてこの厳しい事実を直視しない限り、河村・橋下氏のようなトリックスターに対抗することは難しい。(つづく)