「減税日本」は果たして名古屋市民の地域政党なのか、(名古屋トリプル選挙の衝撃、その3)

 「名古屋トリプル選挙」からはや2週間近くが経過した。だが、この間の河村市長の動きはとどまるところを知らない。有効投票数の7割にも達する過去最高得票数を獲得した勢いを駆って、今度は3月4日告示、13日投開票の「出直し市議選」で議席過半数を占める制圧作戦を展開中だ。名古屋市議会の定数は75人で過半数は38人、河村市長(「減税日本」代表)は市内全区で候補者40人を擁立するとしている。

各紙が伝えるところによれば、河村市長は記者会見で「(今回の出直し市議選で)前職を選んだら、元の政治に戻るだけ。市民の期待に応えて(これまでの)職業議員による議会を変える」と強調した。また「専業の政治家(による政治)から、本物の市民の政治が始まるとの期待が持てる」とも話した。政党別の立候補予定者数は、民主党28人(前25、新3)、自民党23人(前19、新4)、公明党12人(前9、新3)、共産党16人(前6、元1、新9)、みんなの党6人(新6)、減税日本40人(前1、新39)だ。

注目の名古屋地域政党減税日本」の候補予定者は、そのほとんどが市議会解散の直接請求(リコール)の署名集めに携わった大学生、僧侶、自営業者などで、現(前)職1人を除きすべて新人だ。また選挙経験は、2人以外は選挙への立候補自体も初めてだという。いわばこれまで政治や選挙に全く関係のなかった市民を候補者に仕立てることで、「プロ・職業議員=既得権グループ」、「アマ・新人議員=市会刷新グループ」という構図を演出し、「減税日本」の進出を図るのが河村市長の狙いだろう。

河村市長は、記者会見で「市議選で(定数の)過半数を確保できるか」との質問に答えて、「今の議員ではいけない。変わりなさい」と(市民が)言った。確か(前回市議選の)市議の票は全部足して60万票。手ごたえは十分感じる」と話した。また「減税日本の立候補予定者は選挙経験がない人ばかりだ」との質問に対しては、「公約三つだけは少なくとも実現したい。党議拘束せずにやりたい。市長が言っていることを全部通そうという気持ちはさらさらない」とも言っている。ちなみに「三つの公約」とは、市民税減税、地域委員会の全市設置、議員報酬半減(800万円)というものだ。

新しい候補者を擁立して市議会に新風を吹き込むことは、市議会の活性化にとって大いに歓迎すべきことにちがいない。おそらく「減税日本」の予定候補者たちは、「自分たちこそが名古屋市議会を変えることができる」と意気込んでいることだろうし、市長選で河村氏に投票し、市議会解散請求に賛成票を投じた名古屋市民たちもそう期待していることだろう。

だが河村氏の発言をそのまま信じる人は、御当地以外ではそれほど多くないのではないか。なぜなら、彼の政治経歴やこれまでの言動を簡単にトレーするだけでも、今回の出直し市議選で河村氏が地域政党を立ち上げた政治的意図が透けて見えてくるからである。私がそう思う根拠を、以下に幾つか挙げてみよう。

第1に、河村氏は「プロ中のプロ」の職業政治家であり、しかも飽くなき権力慾で国政の中央舞台を目指してきた「非地域」的政治家だということだ。河村氏は、民主党代表選挙がある度に立候補宣言してきたにもかかわらず、それに必要とされる推薦議員20人を確保できず、その都度代表選出馬を断念せざるを得ない苦汁を飲まされてきた。民主党主流派に容れられることのなかった河村氏は、そこで一旦地方首長に「下野」して再出馬するという作戦を立てた。その第一幕が今回の「名古屋トリプル選挙」だったというわけだ。

 国政の中央舞台をめざす政治家にとって、地方首長のポストは決して不足のある地位ではない。とりわけ大都市や都道府県の首長は、橋下大阪府知事の例を持ち出すまでもなく、陣笠代議士などは足元にも及ばないほどの権限を有しているし、情報発信力も大きい。河村氏が狙ったのは、名古屋市政を宣伝舞台として全国発信する最も効果的な「時局テーマ」を打ち出し、全国のマスメディアの目を引く「政治イベント」を組織することで、自らが再び国政の中央舞台に返り咲くことだ。

それでは、河村氏の構想する「時局テーマ」とはいったいなにか。それは、財界指導の下で小泉自公政権が道筋をつけ、菅民主党政権が継承している「小さな政府」をめざす構造改革を地方で実現することだ。すでに第1弾として、「平成大合併」による首長・議員・地方公務員の大幅削減が強行された。第2弾が、今回の河村公約に代表される議員定数・議員報酬の大幅削減や橋下大阪都構想に代表される「大都市解体劇」だ。そして、第3弾が日本経団連が「究極の構造改革」と位置付ける「道州制の導入」であり、そのための「中京都構想」の具体化だ。

地域政党は全国的に組織される中央政党に対する対概念であり、「ローカルパーティ」といわれる。「地域政党は地域のためにある」というのが立党の精神であり、名古屋市民もきっとそう思っているにちがいない。では、河村氏が立ち上げた地域政党の名前がなぜ「減税名古屋」ではなく「減税日本」なのか。それは、河村氏の狙いが「名古屋」ではなく「日本」に据えられているからでないのか。また当選早々、河村市長はなぜ名古屋とは直接関係のない小沢氏を訪問したのか。(つづく)