日本経団連は大企業 利益剰余金2百数十兆円の1割をただちに震災復興資金に提供すべきだ、(私たちは東日本大震災にいかに向き合うか、その1)

 東日本巨大地震が勃発してから、今日3月17日でちょうど1週間が経過したことになる。その惨状は、もはや単なる震災を通り越した“カタストロフィー”(破滅的な大災害)ともいうべきもので、現在判明しているだけでも、死者・行方不明者が1万数千人を超え、避難者が数十万人に膨れ上がるなど、想像を超えた規模とレベルに達している。

しかも恐るべきは、東京電力の福島第1原子力発電所の原子炉4機が制御不能に陥り、残る2機も不穏な動きを見せているというのだから、集中立地した原子炉6機が同時並行的に危機的状況に陥るという、国際的にみても例を見ない緊急事態が進行しているわけだ。

 多くの原子炉を抱える欧米諸国でも、日本の「カタストロフィー」状況に関する関心が沸騰している。ドイツでは老朽原発の停止措置が即刻はじめられ、フランスやアメリカでは稼働中の原発の緊急点検が行われている。フランスの原子力安全局は、今回の福島原発事故の危機レベルを「チェルノブイリ」と「スリーマイル島」の中間の「レベル6」とみなしており、各国の駐日大使館は、日本に滞在する自国民の帰国を勧告し、外交官家族を日本から一時退避させはじめた。また日本に救援部隊を派遣したアメリカ軍は、福島原発から半径90キロ以内の地域への米兵立ち入りを禁止した。事態はそれほど危機的だということだ。

 東日本大震災による被害総額は現時点では想像もつかないが、今日の各紙記事によると、民間調査機関の試算として建物やインフラだけでも「最大で20兆円」(日経)に達すると報道されている。この額は、阪神淡路大震災の被害総額10兆円のほぼ2倍に相当し、今後、被災住民の生活破壊や被災地の経済活動への影響などを考えると、数十兆円の規模に拡大してもおかしくない。

 ところがこの間、政府や被災自治体が必死になって対策を講じているにもかかわらず、日本の財界総本山である日本経団連は、昨日16日の「緊急アピール」に至るまで何の声明も発表しなかった。巨大地震の発生直後ならまだしも、1週間近く経ってからの声明にわざわざ「緊急アピール」と名付ける図太い神経には驚く他ないが、それ以上に内容が通り一遍のものにすぎないことには絶句せざるを得なかった。

 アピールは「政府への要請」と「経済界の対応」の2つからなっている。前者は、どこにでもある「出来合いの震災復興項目」を並べたものにすぎないので論評するに値しないが、驚いたのは、僅か3行という後者の「経済界の対応」の内容の貧弱さだった。その内容たるや以下の3項目ですべてなのである。

(1)義援金・寄附金、各種救援物資の拠出、被災地支援に携わるNPO
ボランティア等への協力(施設、物資、ノウハウ、情報の提供等)
(2)事業の継続・早期再開、安全行動の徹底
(3)節電への全面的協力(生産のシフト並びに、産業用、家庭用それぞれ
における適切な供給体制とそれへの対応)

 これが経団連の「未曾有の震災からの早期復旧に向けた緊急アピール」の全てだとしたら、要するに日本財界は「未曾有の震災に対して何もしないよ!」ということを被災者や国民に宣言しているに等しい。世界の経済大国である日本の総資本が、未曾有の災害に遭遇している自国民に対してこれほど無責任かつ厚顔無恥な存在だとは、多くの国民も世界の人たちも知らなかったのではないか。

 日本経団連はこれまでことあるごとに、法人税の値下げをはじめ企業投資への数々の優遇措置を要求するなど「取れるものは取れ」との態度に徹してきた。そして今回のような「国難」に際してさえも、政府に要請するばかりで企業としての「社会的責任」を毛ほども顧みようとしない。これでは、菅首相ならずとも「(東電と同じく)100%潰れますよ!」言いたくなるではないか。

 財務省の法人企業統計調査によると、2009年度末現在の企業利益剰余金(いわゆる企業埋蔵金)はすでに269兆円の巨額に達しており、1996年度末の145兆円と比べると実に124兆円・86%も増加している。この間の国民1世帯当たりの平均所得(厚生労働省国民生活基礎調査)が、1994年の664万円から2008年の548万円へ116万円・17%も減少しているのだから、大企業は国民生活を踏みつけにして「一人勝ち」してきたわけだ。それがなおこの期に及んで、あくまでも自己利益だけを追求しようというのだから空いた口が塞がらない。

 だが昨日の株価大暴落と急速な円高進行にもみられるように、「原発ショック」で外国からの投資マネーが一斉に逃げはじめている。これは財界にとっても「ゆゆしき事態」なのではないか。このような危機的状況にありながら、経団連傘下の最大企業だった東京電力の事故責任に何ら言及することなく、また被災者の生活再建や被災地の地域復興に対しても何一つ貢献できないような財界では、国民からも国際社会からも「棄てられても仕方がない」といわなければならないだろう。

 良識ある経営者や財界人がもし存在するとすれば訴えたい。この未曽有の大災害に対しては、大企業の利益剰余金(内部保留積立金)の1割をとりあえず取り崩して復興基金に提供し、財界としてのせめてもの社会的責任を果たしてほしい。日銀の資金循環統計によれば、民間非金融法人企業(銀行など金融関係以外の民間企業)の預金残高は2009年度末で204兆円近くに達しており、20兆円程度の資金ならいつでも調達できる。

また当面は法人税減税を返上し、アメリカへの「思いやり予算」を全額復興資金に回すなど、それこそ「緊急アピール」してもいいのではないか。ある財界人から直接聞いた話だが、「日本ではエジプトのようなことは起きない」と自信たっぷりだった。だが私は「財界は国民を畏れ(恐れ)なければならない」と思う。「おごる者は久しからず」である。(つづく)