「被災者・被災地のピンチ」は「財界・財務省のチャンス」、”増税ボーイズ集団”の登場、野田政権論(2)、(私たちは東日本大震災にいかに向き合うか、その34)

 2011年9月2日、民主党政権になってから僅か2年余りで早くも3番目の野田内閣に変わった。党内グループの閣僚配分をみると、政界では党内融和・挙党態勢づくりを重視した「内向き派閥均衡人事」と評されているように、小沢派はもとより各派のバランスを重視しているかに見える。野田氏が、民主党代表選挙後に語った「怨念(おんねん)の政治はやめる」、「ノーサイドにしましょう」と言った言葉を反映しているかのようだ。

組閣後の記者会見に関しても、冒頭に東日本大震災の復旧復興と原発事故収束を内閣の最優先課題として強調し、後段で「「国民生活が第一」の理念を堅持しながら、中間層の厚みがより増していくような日本社会を築いていきたい」と締めくくるなど、あたかも政権交代時の雰囲気を思い起こさせるようなソフトな「ふりかけ」でまぶされている。

その所為か9月3日の各紙トップ見出しは、「野田内閣発足、「復興・原発対応を最優先」、増税時期は明言せず」(朝日)、「野田内閣発足、復興・原発を「最優先」、早期解散を否定」(毎日)、「野田内閣発足、「震災復興を最優先」、増税時期は柔軟に」(読売)などと足並みをそろえ、野田政権の震災復興と原発事故に対する姿勢を強く国民に印象付けた。

また、マスメディアに対して意図的に使った「シティボーイではなくて農家の末っ子の長男」、「金魚ではなくてドジョウ」といった地味で泥臭いイメージの演出も、菅政権時代の民主党内のゴタゴタや野党との足の引っ張り合いに辟易していた国民世論にそれなりにアピールしたらしい。ご祝儀相場とはいえ、各紙の世論調査内閣支持率が軒並み60%台に乗るなど、野田内閣が実行力のある政権といった漠とした期待が広がっているようだ。(各紙、9月4日)

しかし、事柄はそう単純なものではない。内閣が発足するまでに至る野田氏自身の一連の行動と発言を見ていると、そこには問わず語りに野田政権の目指すものが見えてくる。以下、順を追ってその言動を解析しよう。

その第1は、8月14日のNHK番組「日曜討論」で、野田財務相が同席者の「これから復興需要が出てくる。デフレ脱却の千載一遇のチャンスが来る」との発言に呼応して、「震災の復興需要をどうやって満たしていくか、そういう観点からすると、まさに千載一遇のチャンスだ。そのことをわきまえた対応が必要だ」と述べた点だ。 都市計画畑では関東大震災後藤新平(内務相)を嚆矢として、大震災を都市改造の「千載一遇のチャンス」と見なす面々は少なくないが、野田氏が財務省を代表して「デフレは需給ギャップが原因」すなわち「需要が足りなかった」ことに求め、震災復興需要を経済成長につなげる政策が必要との認識を示した点が注目される。

この発言については2つの問題点を指摘できるだろう。第1の問題点は、すでに各方面からも指摘されているように、未曾有の犠牲と被害をもたらした東日本震災からの復興を「(デフレ脱却の)千載一遇のチャンス」と表現したことの政治的・倫理的問題だ。この発言には、被災者・被災地への哀悼の気持ちや原発事故に関する政府責任の表明よりも、景気回復(内容はともあれ)を最優先させる冷酷な支配者(財務官僚など)の思考様式がよくあらわれている。

第2の問題点は「デフレは需要が足りなかった」ことが原因だといいながら、国民経済における需要不足の最大原因である国民所得の低下には目をつぶり、財界や財閥系コンサルタントが描く「震災復興ビジネス」に需給ギャップの解決策を見出そうとしている点だ。そこには「国民生活が第一」だといいながら、被災者・被災地の生活再建を軸に地域経済を回復させる視点はなく、「被災者・被災地のピンチ」を「財界・財務省のチャンス」にしようとするあくどい魂胆が透けて見えるだけだ。

次に注目されるのは、組閣直前の9月1日、野田氏が経団連など経済3団体および連合に異例の表敬訪問を行い、「(政府内の)いろんな会議を作り直す。経済界、経団連にはぜひとも協力していただきたい」と要請した点だ。9月4日の日経はこの点を一面トップで大きく取り上げ、「政官民で「国家戦略会議」、首相方針、経済財政司令塔に、日銀・経団連首脳ら参加」と報じている。

「国家戦略会議」のモデルは、悪名高い竹中平蔵氏が仕切った小泉政権時代の「経済財政諮問会議」といわれ、同会議で検討するのは、予算編成や税制改正社会保障改革、環太平洋経済連携協定(TPP)などの重要政策の指針づくりだとされている。つまり財界が国会・国民の上に立って政府を戦略的に動かす司令塔をつくり、そこからの指令を首相や閣僚が忠実に実行するという「財界の僕(しもべ)内閣」が出来上がるわけだ。これは「小泉構造改革時代」の再来であり、自公連立の新自主主義政権と何ら変わらない。

こんなシナリオを描いたのはいったい誰か。9月3日の朝日は、「野田流、裏に財務省増税実現へ人事画策」との見出しを掲げ、「泥臭さを売りにする野田桂彦首相の「どじょう内閣」。全面的に支えているのは、増税の実現に執念を燃やす財務省だ。民主党小沢一郎元代表に配慮して「党内融和」をアピールする一方、水面下では財務省組織力に頼って政権を切り盛りしていく――。野田内閣の布陣からは、そんな戦略が透ける」と分析する。

 今回の閣僚人事で目立つのは、安住淳財務相古川元久経済財政担当相など「シティボーイ」の起用だ。2人とも初入閣だが後ろに岡田前幹事長と仙谷元官房長官が控えており、「野田−岡田−仙谷ライン」で消費税率を早晩10%に引き上げて、税と社会保障の一体改革を断行することを目論んでいるといわれる。今回の若手人事は、その実現に向けた「一体改革シフト人事」であり、財務省の宿願である増税路線を担う「増税ボーイ」の起用、いや野田首相も含めて財務省に育成されてきた「増税ボーイズ集団」が登場したということだろう。

 「野田ドジョウ内閣」の化けの皮が剥がされる日はそう遠くない。そして「増税ボーイズ集団」という素顔が国民の前に曝されるとき、民主党政権の「国民生活が第一」のスローガンは大連立状況の中でいったいどこへ行くのか。また震災からの復旧復興や原発事故の収束はどうなるのか。私には「財務省エージエント内閣」がその前に消えてしまうとしか思えない。(つづく)