大阪維新の会に群がるシロアリが“軍隊アリ”に変身する日(1)、(大阪ダブル選挙の分析、その10)

 1月27日の石原知事の定例記者会見以来、国政レベルでも民主・自民2大政党の機能不全状態を“右から”打開しようとする第3極・「石原(極右)新党」をめぐる策動が一段と加速してきた。石原氏はこの日、国民新党の亀井代表が昨年末から仕掛けていた新党構想に「協力と合意」したことをはじめて明言し、「東京よりも国家が大事。政治家は必然性があれば1人でもやる」と国政進出の決意のほどを披歴した。(1月28日各紙)

 目下のところ、石原氏は国政進出の大義として「地方から国を変える」といった地方分権的なニュアンスを強調しており、その手法としては「東京と大阪・愛知がアライアンス(連携)を組んで中央集権をぶっ壊していく」と大阪維新の会や愛知県大村知事との連係プレーを匂わせている。この1月末から2月上旬にかけて石原・橋下・大村の「首長連合会談」が名古屋で予定されているというが、具体的な内容はその時に話し合われるのだろう。

 しかし、筋金入りの「極右ファッシスト」(憲法改正論者・核武装論者)である石原氏のことだから、新党結成の目的が単なる「中央集権の打破」や「地方分権の実現」にあるといった言辞をそのまま信用することはできない。「地方から中央集権をぶっ壊す」との発言は、明らかに「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉郵政選挙のキャッチコピーを意識したものであろうが、ぶっ壊そうとするのは中央集権ではなくて議会制民主主義や政党政治そのものであるかもしれないからだ。

 本来であれば、アメリカと財界直轄の民主党自民党の2大保守政党に代わって、国民主権の立場に立つ革新政党と地方利益を代表する良質の保守政党が「第3極」として台頭してこなければならない情勢のはずだ。にもかかわらずそれが現実のものとならず、「石原(極右)新党」のような「第3極」が登場してくるところに、日本の戦後民主主義の脆弱さと革新政党の非力さを感じるのは私一人だけではあるまい。

 とはいえ、このような政局の急展開に驚いたのは、かねてから大阪維新の会に秋波を送り、「第3極」の受け皿になろうとしていた「みんなの党」の渡辺代表だった。渡辺代表は、大阪ダブル選挙では頼まれもしない橋下候補の「押しかけ応援演説」に出かけて親密ぶりをアピールし、今国会の代表質問ではたびたび大阪維新の会大阪都構想に言及して、国会議員を持たない大阪維新の会に代わって首相に地方自治法改正を迫るなど、橋下氏に摺り寄るパフォーマンスに躍起になってきたからだ。

 こんな見え見えのみんなの党の動きが、野田首相から「大阪維新の会にたかるシロアリ」などと暗に揶揄されたのは記憶に新しいが、「シロアリ=みんなの党」が石原新党に対抗するために打ち出したのが“軍隊アリ“への変身だとすれば、これは無視できない危険信号だといわなければならない(「軍隊アリ」については後述する)。

 私がその兆候として注目したのは、1月28日に開かれたみんなの党第2回党大会の異様な光景だった。みんなの党の党大会参加者全員が開会冒頭に直立不動で「君が代」を斉唱し、そこから報告や議論が始まったのだ。自民党や「たちあがれ日本」など札付きの保守右翼政党といえども、最近の党大会で参加者全員が直立不動で君が代を斉唱することなどあまり聞いたことがない。にもかかわらず、みんなの党がこの期に及んでこのような挙に打って出たということは、何かしら不気味な感じがして思わず背筋が寒くなるというものだ

 大阪維新の会は、すでに大阪府議会で日の丸掲揚と君が代の起立・斉唱を義務付ける条例を強行採決し、目下それをはるかに上回る強権的な教育基本条例案職員基本条例案の強行採決を狙っている。「競争主義」という旗印の下に“権力”(首長)の命令に教員や職員を従わせるためだ。これは戦前の軍国主義教育と同じく「物言わぬ民」をつくるファッショ的策動に他ならない。こんな折もおり、みんなの党大阪維新の会に摺り寄るために「君が代斉唱」をしたのであれば、「第3極」政党が雪崩を打ってハシズムに合流していくことになりかねない。
 
 事実、第2回党大会において渡辺代表は、石原新党の動きに「遅れじ」とばかり、大阪維新の会との政策的一致を強調するとともに、国政や総選挙でも連携を図っていくことを力説し、「大阪維新の会の動きを全国に広げ、みんなの維新を成し遂げよう」との大会宣言を採択した。国政政党が一地域政党の「提灯持ち」を駆ってでることなど前代未聞の出来事といいたいところだが、それをなりふり構わずやるところに彼らなりの政局観と危機感があるからだろう。

 「軍隊アリ」とは、「アリとキリギリス」の童話に出てくるような働き者のかわいい存在ではない。昆虫図鑑などによると、一般のアリと異なって巣を作らず、軍隊のように10メートル以上(ときには20メートル近く)もの隊列を組んで足早に行進し、行路で目に付いた獲物は昆虫であれ鳥類であれ大型動物であれ、片っ端から集団で襲いかかる獰猛(どうもう)な習性を持つ大型のアリらしい。とくに幼虫の育成期には激しい攻撃性が特徴で、周辺一帯が「アリの河」のように埋め尽くされるという。

 もともと大阪維新の会は、橋下代表の言動にみられるように「軍隊アリ」のような攻撃体質を持つ集団だ。その大阪維新の会が「第3極」の台風の目になり、みんなの党石原新党が合流するようになると、もうこれは立派なファッシスト政党が誕生しても不思議ではない。問題はそのとき、これまで橋下氏に摺り寄ってきた(持て囃してきた)既成政党やマスメディアがどういう態度をとるかということだ。

 私は前回の日記で、大阪維新の会が国政進出しようとするのであれば、ファッショ的性格を隠すような戦術をとる旨の事を書いたが、石原新党の動きやみんなの党の豹変ぶりを思うと、この観測は当分お蔵入りさせた方がよいと考えるようになった。(つづく)