国民の権利の「破壊者」を国政の「改革者」に仕立てるマスメディアの意図と役割、(大阪ダブル選挙の分析、その13)

 前回の日記に対して、「ますますひどくなってますね」氏(以下、コメント氏と呼ぶ)から3回にわたって長文のコメントをいただいた。氏の指摘には首肯できる部分が多く、とくに「橋下市長を支持している人たちは、政治家として支持しているのではなくて、テレビタレントとして支持している」との指摘は、まさにその通りだと思う。

また、テレビドラマの勧善懲悪ヒーローを応援するのと同じ感覚で橋下市長を応援し、しかも“選挙”という「視聴者参加型のイベント」までオマケについているのだから、この人たちに政治用語で語りかけるのは「無駄で的外れ」との分析もユニークな視角だと思う。

だが私は、問題は実はその先にあるのではないかと考えている。コメント氏は「橋下人気」の秘密を、応援する人たちの「気質」あるいはそのような気質を持つ人たちの「属性」に求めているが、私はそれらの「気質」も「属性」も実はマスメディアを通して政治的につくられたものではないかと考えているからだ。

このことが一番ハッキリしたのは、ここ数日間の「大阪市職員アンケート調査」をめぐる一連のマスメディア報道を通してのことだった。「橋下アンケート調査」の内容についてはすでに多くの方々が言及しておられるので繰り返さないが、私が言いたいのは、橋下市長に対するマスメディアの評価スタンスは政権交代で行き詰まった「国政の改革者」というもので、アンケート調査にみられるような「国民の権利の破壊者」としての“本質”は全く無視されているということだ。

「橋下アンケート調査」に対しては、その首謀者である橋下市長や野村特別顧問がともに弁護士である所為か、大阪弁護士会(2月14日)、東京弁護士会(15日)、日本弁護士会連合会(16日)が立て続けに会長声明を発表し、その違憲性・反社会性を鋭く批判するとともに直ちに中止を求めた。日本を代表する東京・大阪弁護士会日弁連が相次いで会長声明を出すのは異例のことであり、それだけことの重大性が大きいということだろう。

本来ならば、今回の東京・大阪弁護士会および日弁連の会長声明の内容は、各紙とも1面トップに掲げてもおかしくないほどの重要な意味を持っている。ところが驚くことなかれ、各紙の取り扱いは片隅のベタ記事に近いもので、これらの声明はほとんど無視されたといってよい。その一方、「橋下紙面」の方は大盤振る舞いの連続で、毎日写真入りの大型記事が連載されている。この間の朝日新聞だけ取り上げてみても、以下のような威勢のいい見出しがズラリと並ぶのである。

●国政擁立、「統治機構変える」、橋下市長、道州制・新年金も提案(2月10日)
●インタビュー・覚悟を求める政治、競争に勝たないと生活維持できない、とことん努力を、選んだ人間に決定権を与える、それが選挙、ある種の白紙委任(2月12日)
参院廃止へ改憲も柱、維新の会「船中八策」骨格(2月13日)
●維新に行列、政党恐々、塾募集に3326人、殺到想定外(2月14日)
●維新、国会で影響力をもつ議席「取ってほしい」54%、本社世論調査(同)
大阪維新の会、なぜいま「国盗り」か(2月15日)
●記者有論、橋下徹さま、ぜひ第2ラウンドを(同)
●維新と連携したいけど、参院廃止・掛け捨て年金・・・のめぬ公約続々、既存政党、広がる警戒感(同)
●維新「教育目標、首長が設定」、賛成6知事3市長、「教委制度に不満」3割、知事・指定市長調査(2月17日)
●都構想、中央に迫る、地方制度調査委会で議論、橋下市長「まず法改正」(同)

 これらの見出しを読めば、橋下市長がまるで「竜馬気取り」になるのもよくわかる。そこにはテレビドラマか漫画か知らないが、「国政擁立」「統治機構変える」「覚悟を求める政治」「国盗り」「船中八策」「中央に迫る」といった威勢のよい言葉が飛び交い、「維新行列」「塾殺到」「国会議席取ってほしい」「政党恐々」などの刺激的なフレーズが並んでいる。これでは若者もオジサン・オバサンも「橋下サン頑張って!」と叫ぶのは無理がない。

 それからもうひとつ気になるのは、つい最近まで“地域政党”だったはずの「大阪維新の会」が、第2話になると、マスメディアの世界ではいつの間にか「大阪」が外されて「維新の会」になり、もう「船中八策」という国策にまで手を広げているのが当然視されていることだ。こんな「即席の変身」(変節というべきだ)をキチンと批判するのではなく、それをあまつさえ「改革者」と誉めそやし、天まで持ち上げて次の行動を煽る。これが現在のマスメディアの正体だとしたら、彼らはいったに何を意図してこのような紙面をつくっているのだろう。

 私が考える理由は3つある。ひとつは「橋下新党」を「改革者」に仕立てることで、民主・自民両党に裏切られた国民の怒りをガス抜きし、世論の支持が革新政党に向かうのを阻止すること、もうひとつは「橋下新党」の脅威を煽ることで民主・自民両党に妥協を迫り、当面の政権運営を軌道に乗せることだ。そして、これらのいずれも成功しないときは、第3の道として「橋下新党」を突破口に保守大連立政権樹立へと一挙に政局を転換させるためである。次回はこの点をもう少し詳しく考えてみたい。(つづく)