恥ずかしくないか、橋下市長に媚びる大手紙論説の不見識、(大阪ダブル選挙の分析、その14)

 前回の日記で、マスメディアが橋下市長・大阪維新の会を「改革者」に仕立てる理由を3点挙げた。(1)「橋下新党」を「改革者」に仕立てることで、民主・自民両党に裏切られた国民の怒りをガス抜きし、世論の支持が革新政党に向かうのを阻止すること、(2)「橋下新党」の脅威を煽ることで民主・自民両党に妥協を迫り、当面の政権運営を軌道に乗せること、(3)これらのいずれもが成功しないときは、第3の道として「橋下新党」を突破口に保守大連立政権樹立へと一挙に政局を転換させること。

 この私見に関しては珍しく賛否両論の多くの反応があり、それらの貴重な意見はコメント欄にすべて収録しておいた。でも個別に応答すると文章が長くなるので、今回もう少し詳しい解説をすることで、回答に代えることを許していただきたい。

 まず「橋下改革者論」が大手紙の論説として一斉に打ち出された時期に注目したい。橋下市長が全職員を対象に政治活動や組合活動に関する「アンケート調査」の実施を表明したのは2月9日、回答期限は16日だった。この「アンケート調査」をめぐって、大阪市労連が「思想・信条の自由を侵害し、組合運営に介入する不当労働行為だ」として大阪府労働委員会に救済を申し立てたのが13日、次に「アンケート調査は違憲そのものの思想調査に他ならず、即刻中止を求める」との会長声明が大阪・東京弁護士会および日弁連から連続して出されたのが14日から16日、そして高まる世論の批判の中で、特別顧問の野村弁護士が「調査は当面は凍結」と記者会見をしたのが17日だ。

 このように2月9日から17日までの間は、いわば「橋下アンケート調査」をめぐって世論が沸騰していたにもかかわらず、各紙はほとんどこの問題を取り上げようとせず、「ダンマリ」を決め込んでいた(このことは前回に指摘した)。そして「アンケート調査」が世論の反撃で「凍結」に追い込まれるに及んで、漸く18日の紙面から本格的な報道が始まったのである。

 しかしこの間これに輪をかけて、各紙の論説の方では「アンケート調査」問題などは全く無視して「橋下改革者論」「橋下賛美論」が連打されていた。これを掲載順に紹介すると、まず朝日新聞が12日に「オピニオン欄」の全面を使って、「インタビュー、覚悟を求める政治」という提灯持ち記事を掲載したのが始まりだった。このインタビューが行われたのは2月9日、橋下市長がちょうど「アンケート調査」の実施を表明した当の日だ。

 しかも念が入ったことに、朝日はその後2月15日、なんとタイトルを見ただけでも恥ずかしい『橋下徹さま、ぜひ第2Rを』という論説をインタビューした政治部次長の署名入りで堂々と書いている。その内容たるや、「言われっぱなしでは意味がないが、不毛な論争にはしたくない」との口実で朝日が一切の批判を避けたことを自ら正当化し、そんな朝日の腰砕けに乗じて「不毛の論争を避けた」相手の橋下市長を「あえて自分を小さく見えるのは本当の自信がなければできない。橋下氏は首相を狙うのか。(略)橋下さん、第2ラウンドはいかがですか?」と卑屈にも天まで持ち上げる始末だ。

 次は、2月19日の『橋下さんに感謝しよう』という、これも同様に恥ずかさ一杯の毎日新聞の論説だ。論説委員長自らの執筆とあってどんなことを書くか注目したが、何のことはない。他紙の「橋下改革者論」を紹介する形で16日付の「既成政党への挑戦状」という毎日の主張を自画自賛し、「この論が届いたか。16日早速自民党内から対立一辺倒でいいのか、という批判が出てきた。民主党内にも政権与党としてふがいなさを反省する声が聞こえてきた。橋下人気が既成政党の覺醒と正常化につながるのであれば、むしろ感謝しなければならない」とまで言い切っている。ノーテンキそのものだ。

 さらに2月20日の日経新聞の論説『シュンペータ―に学ぼう』は、毎日と同じく論説委員長の執筆でタイトルは経済紙向けだが、内容は「民自で「新結合」へ動くとき」との見出しにあるように、「橋下新党」の国政進出を梃子にして政界再編と保守大連立政党の結成を強く迫るものになっている。つまり「民主、自民両党を市場重視か、再配分重視か、という経済的な対立軸で、新結合をする政党再編ができればすっきりする」というものだ。

 日経は、このうえご丁寧にも政党再編の3段階シナリオまで言及している。(1)民自両党の話し合いで、消費税増税にもとづく「社会保障と税の一体改革』を合意する、(2)消費税増税を前提にした総選挙で与野党議席を争う、(3)選挙後に参院も含めた「市場重視か、再配分重視か」の対立軸で政党再編をする、という保守大連立政党へのシナリオだ。

 このように、いまやマスメディアは挙って橋下市長を「改革者」に仕立て上げ、その勢いを利用して民主、自民両党の政党再編を後押ししようとしている。そのことが「橋下新党」への追い風となり、国政進出への期待となっている。新聞・テレビの最近の世論調査の結果は、そのことを「鏡」のように如実に反映していることは間違いない。

 事実、朝日新聞世論調査(2月11、12両日)では「大阪維新の会が国会で影響力を持つような議席を取ってほしい」54%、産経新聞・FNN合同世論調査(同上)では「大阪維新の会の国政進出を期待する」65%、「石原新党には期待しない」47%、共同通信世論調査(2月18、19両日)では「大阪維新の会の国政進出について期待する」61%、「石原新党には期待しない」69%、大阪府民対象の朝日新聞朝日放送合同調査(同上)では「橋下市政を評価する」70%、「橋下市長の政治手法を評価する」67%、「首相公選制に賛成」72%、「民主、自民以外の政党中心の政権に交代賛成」44%などとなっている。

 このままでいけば空恐ろしい気もするが、その一方で、マスメディアのなかにも最近になって少し変化の兆しが表れていることに注意したい。過日、大阪市内で「反ハシズム」を標榜する大阪府大阪市の関係者、ジャーナリスト、各分野の研究者などが一堂に集まって「橋下市政をどうみるか」という懇談会が持たれた。その席上で異口同音に出た意見は、「橋下報道をこのまま垂れ流しにしてはいけない」というものであり、そのためには「われわれももっと批判的な情報を発信する必要がある」というものだった。

 その後の変化をまだ十分にフォローするまでに至っていないが、たとえば朝日新聞は、2月19日の『唯我独走、橋下流考』以来、明らかに論調の変化がみられるという。また2月21日に発覚した「大阪市職員メール無断調査」の波紋も予想以上に大きく広がりつつある。NHKも珍しくニュースとして大きく扱い、橋下市長の居直り発言や傲慢な表情を的確に報道している。「政治の世界は一寸先が闇」だというが、この先が「闇」のままで推移させないためにも私なりに微力を尽くしたい。(つづく)