京都ジャーナリスト9条の会で話題になったこと、「橋下新党と政界再編の行方(1)」について、(大阪ダブル選挙の分析、その16)

 日頃、「ハシズム」のことで日記を書いているから所為か、ある日「京都ジャーナリスト9条の会」の幹事の方から、表記のようなタイトルで「一度話題提供してみないか」とのお誘いを受けた。政治ジャーナリストでも政治学者でもない私が「そんな大それた話など出来るはずがない」といったん断ったが、「それでもいいから」(素人談義でもよいとの意味)といわれてついに引き受ける破目になった。一般市民(新聞読者、テレビ視聴者など)がどのように「橋下騒動」を受け止めているかを、「プロ」のジャーナリストたちが知りたがっているからだろう。 

 しかし、それからが大変だった。新聞スクラップを連日ひっくり返してレジュメをつくり、3月2日夜、京都放送(KBS)会議室において新聞・テレビの現役やОB、出版社幹部などの前でようやくオッカナビックリの話題提供に及んだ。レジュメは「想定される政界再編シナリオ」と「移行過程(ステージ)」を中心としたもので、およそ以下のような内容だった。それぞれのケースごとにシナリオが成立する理由と背景について簡単に記したい。

第1シナリオは、民主・自民両党が2大政党としてそのまま継続し第3極政党が不発に終わるケース。第2シナリオは、民主・自民両党が後退して第3極政党(橋下新党他)が出現し政局が不安定化するケース。第3シナリオは、第3極政党の台頭を機に政局安定化のため民主・自民両党が横断的に解体再編されて新自由主義保守大連立政党が結成されるケース。第4シナリオは、大連立政党から落ちこぼれた残余グループ(旧保守勢力、第3極政党残党など)の中から保守ローカル政党と極右政党が分化するケースである。 

これらの政界再編シナリオは、全てが現在の民主・自民2大政党の機能不全状態にあることに端を発している以上、シナリオ・ライティングの前提としてはまず「日本型2大政党制」の問題点を解明しておかなければならない。

そもそも2大政党制がそれなりに機能するには、資本主義の大本を支える(保守)新自由主義政党と、労働者や中間層の利益を一定程度反映できる社会民主主義政党の共存が必要条件になる。なぜなら資本主義体制を維持するためには、社会の多数派である中間層や労働者の支持を得ることが不可欠であり、そのためには資本側に一定の譲歩を迫ることのできる社会民主主義勢力の存在が不可欠だからだ。だが強欲資本主義の支配する日本では、社民政党が独自の政治集団として存在できる余地がほとんどない。

もともと財界がグローバル経済に対応する国内体制(低賃金・低福祉に甘んじる社会)を確立するために意図していた2大政党制は、社民政権が成立するようなヨーロッパ型の2大政党制ではなく、「瓶の形は違うが中身は同じ」といわれる共和・民主両党のアメリカ型「保守2大政党制」だった。

だから、財界が自民党の「利益誘導政治」(財界利益の他、土建業界や農協など地元保守基盤への利益供与を軸とする保守政治体制)に見切りをつけたとき、次の2大政党の主たる担い手と目されたのは、自民党内の官僚ОB集団と民主党内の「連合」を軸とする労働組合幹部(労働貴族)だった。またそれ以外の社会諸階層・諸集団を統合するための「控えのグループ」として、松下政経塾生に代表される親米右翼の民間活動家も起用された。

つまり一方では、国家官僚群を機軸に据えた財界直轄の“テクノクラート政党”に自民党を特化し、他方ではグローバル企業労組の「連合」を中心にして民主党を労働者支配のための“労務政党”として育成するというのが、財界の「日本型2大政党制」の目標だったのである。

ところが何をどう間違えたのか、自由党と合同して2大政党の一角を占めた民主党が「社民ばりの政策」を掲げたことから政治の混乱が始まった。政権交代を実現するには自民党と同じ政策では不可能だったからであろうが、それが財源の裏付けがない「空マニフェスト」(空約束)だったために、政権交代直後から次々とボロが出て収拾がつかなくなった。朝日・毎日新聞からも政権公約を破棄して「豹変政治」や「脱マニフェスト政治」に転換することを勧められ、遂にはマニフェスト全てを投げ捨てる破目に陥ったのだ。

こうなると民主・自民両党は「瓶の形も中身もまったく同じ」になり、もはやアメリカ型「2大政党」とさえ言えなくなった。民主党政権交代に期待をかけた国民の間には大きな失望感が広がり、自民党への不信感と相まって一挙に「2大政党制」への幻想が崩壊することになった。第1シナリオの「2大政党による現状維持ケース」はもはや破綻する他はなく、第2シナリオの「第3極政党の台頭ケース」が必至となった。だが問題は、それが「橋下新党」なのか「石原新党」なのか、はたまた「みんなの党」なのかということだ。

目下のところ「橋下新党」が最有力で、これに迎合する「みんなの党」があわよくば一緒に「抱きつき浮上」しようと画策しているらしい。最終的にどうなるかはまだよく分からないが、いずれにしても「橋下新党」が第3極政党に進出することはまず間違いないと見てよいし、その事態が民主・自民両党間の膠着状態を打開する政治的契機になることも確実だろう。

すでにこの事態を予測した水面下の動きすなわち第3シナリオの「保守大連立政党」結成への胎動が、野田首相と谷垣総裁の「極秘会談」という形であらわれている。内側からの小沢元代表の分裂策動を封じ、外側からの「橋下新党」の影響を最小限に抑えるために、消費税増税法案の成立を民主・自民主流派間の「話し合い解散」を取引条件にして成就させようとの画策だ。このとき「橋下新党」や小沢元代表はどのような行動をとるのだろうか。(つづく)