計画策定過程で“柔軟に変化発展する計画”はいい復興計画だ、岩手県山田町の復興計画を解剖する(4)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その11)

 山田町の復興計画は、当初の予定通り2011年12月末に策定された。災害発生以来、わずか10か月足らずの“スピード策定”だ。ただし「計画」といっても、「構想計画」(問題解決への基本理念と政策の大まかな方向性を示したもの)、「基本計画」(政策・施策の骨格を示したもの)、「実施計画」(施策の内容を具体的に示したもの)などいろんなレベルがある。山田町の場合で言えば、「山田町復興ビジョン」(2011年7月)が構想計画に相応し、「山田町復興計画行政素案」(2011年9月)と「山田町復興計画」(2011年12月)が基本計画にあたると考えられる。したがって、実施計画はこれからということになるだろう。
 この間の策定過程をたどってみると、「復興ビジョン」から「復興計画行政素案」に至る段階での変化が非常に大きい。通常「ビジョン」といえば、計画骨子(レジュメ)を並べる程度のラフなものが多いが、山田町の場合はすでにこの段階で実質的に文章化された内容になっており(A4版19頁)、構想計画の段階から相当書き込まれていたことが分かる。したがって「復興ビジョン」に対する住民の意見や地区の要望も出しやすくなり、「行政素案」に至る大きな変化が生まれたものと思われる。また「行政素案」では全体構成が整理されて論旨が明確になり、それに沿って内容の豊富化が図られている。

しかし「行政素案」から「復興計画」に至る過程での全体構成の変化は、それほど大きくない。「行政素案」で提起された既存市街地・集落における各地区の複数の「復興パターン」を地区住民の意見や要求をもとに1つに集約することが主な修正点である。これらの「復興ビジョン」および「行政素案」の内容は公表された段階でいずれもよく練られており、計画策定委員会や事務局のなかに優れた「書き手」がいることをうかがわせる。

そして「行政素案」に対する「第2回住民懇談会」(8会場、1183人参加)と「山田町復興計画行政素案に関するアンケート調査」(7007世帯配布、3395世帯回収、回収率48.5%)が実施され、それらの意見・要求を参考にして復興計画が策定された。「山田町復興計画」は本文60頁、資料11頁からなる小ぶりのもので、本文は、(1)復興の基本理念、復興まちづくりの方向性、実現への課題などを示した総論部分(14頁)、(2)津波対策や産業再生など各種施策ごとの「分野別復興計画」(32頁)、(3)集落・漁港などを基礎とする「地区別計画」(14頁)の3部構成となっている。

注目されるのは、総論部分の「復興の基本理念」「復興まちづくりの方向性」「まちの空間イメージ」において、財界や政府などが主導する構造改革的復興(選択と集中)ではなくて、住民や自治体が主体となった“持続可能(サステイナブル)な復興”の方向性が確認されたことだ。地元主体の復興理念は、以下の文章によくあらわれている。

「復興を進めていくにあたり、町の姿が現在と大きく変わることが考えられます。しかし、美しい海辺の風景が失われたり、「住みにくい町」、「働きにくい町」となったりしては、復興そのものの意味がなくなります。将来町が再生し、持続的に発展していくためには、町の特性に合った産業振興への取り組みや、地域コミュニティの再構築といったことも重要課題となります。魅力と活力に満ちた山田町を築き上げるためには、町民一人ひとりが主体的に、そして積極的に復興の取り組みに参加することが必要です。」

復興後の将来像として、「みんなで取り戻す、ひとの笑顔、元気な産業、碧い海とともに暮らす町」(これは少々長い!)が掲げられたことも注目に値する。このことは巨大津波に襲われた沿岸自治体でありながら、「二度と津波による犠牲者を出さない」ことと「碧い海とともに暮らす」ことを山田町が今後両立させようと決意したことを意味する。海とともに暮らしながら、津波による犠牲者を出さない(少なくする)復興のあり方が問われている現在、山田町の復興理念は大いに参考になる。

そしてこの将来像を実現するために提起された「都市の骨格形成(まちの空間イメージ)の考え方」に関しては、「既存市街地・集落が基本」、「自然との調和・共生」、「多様な産業の展開」という以下のような3つの原則が示され、住民も専門家もともに納得できる内容となっている。

(1)「既存市街地・集落を基本にしたコンパクトなまちづくり」
各市街地・集落の再生を基本とし、丘陵部の新たな開発等は必要最小限にとどめ、山田湾・船越湾を中心にしたコンパクトな暮らしやすいまちを目指します。
(2)「豊かな自然と調和・共生する美しいまちづくり」
山田湾・船越湾及び周辺の山々の豊かな自然を活かし、海や山が近く感じられ、市街地・集落と海や山が一体となった美しいまちを目指します。
(3)「多様な産業が展開する活力のあるまちづくり」
 三陸縦貫自動車道の全線供用に伴い広域的な結びつきが強まることを念頭におき、水産業、農林業、商工業、観光業等の多様な産業が活発に展開するまちを目指します。
 次回は、これらの復興計画策定過程における住民懇談会やアンケート結果について分析する。(つづく)