復興計画は、結局のところ防潮堤・地盤嵩上げ・高台宅地造成の“土木事業3点セット”に終るのではないか、岩手県復興計画からの教訓と課題(1)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その14)

 以上、見てきたように、県や市町村の復興計画の策定現場では、岩手県のように復興理念として「暮らしの再建」と「なりわいの再生」が強調されているところでも、また山田町のように丁寧に計画策定プロセスが踏まれているところでも、結局のところ復興計画は、防潮堤・地盤嵩上げ・高台宅地造成の“土木事業3点セット”に終るのではないかということだ。「そうではない」ことを期待したいが、現実の復興計画の策定過程を追っていくとどうしてもその懸念を拭いきれないのである。

 しかもこのことはひとり私だけの懸念ではなく、被災地の復興まちづくりのために現地で努力している数多くの研究者や専門家が共有している認識でもある。たとえば、この4月下旬に東京で開かれたあるNPО法人主催の『復興の現場から〜被災後1年の今』と題するシンポジウムでは、基調報告に立った弘前大学教授が次のような懸念と問題点を率直に語っている(要旨)。

 「私は幾つかの自治体の復興計画を手伝っているが、問題が多い。企画部門と事業部門が縦割りで総合化されないまま計画書だけが出来ていく。土木的な基幹事業にのみ関心が向けられ、その選択に議論が集中する。そうこうするうちに高台移転なのか現地復興なのか、自力再建なのか復興公営住宅なのか、といった両極のいずれかの選択を住民に迫るような動きが加速される。土木的事業に押されて雇用や教育、福祉の検討が進まないまま復興の総合性が失われていく。国交省と他の省庁の施策に距離があって、水産や農業、中心市街地再生の検討が遅れる。国交省内でさえ都市局と住宅局の距離が埋まらない。言い出せば切りがない。」

 またフロアーでこれら一連の報告と議論を聞いていた国交省のある官僚も、「今問題と考えているのは、生産活動が危機的状況で企業倒産が続出しかねないことだ。基盤整備問題と産業復興問題が一緒に検討されておらず、国交省経産省農水省との事業の摺り合わせが出来ていない。そういった作業をする専門家への支援もうまく組み立てられていない」と当局者自身が同様の指摘をしている。

 ここで語られているような現場での問題点は、各自治体の復興計画書を分析するだけではよくわからない。実際に計画策定作業に参加するか、あるいは担当者に詳しくヒアリング調査しななければ、これ以上掘り下げることが出来ない。だからこれぐらいで止めておくが、要するに私の言いたいことは、県や市町村が被災地の実情に応じてもっと柔軟に、そしてもっと主体的に考えることが出来れば、復興計画が必ずしも“土木事業3点セット”に矮小化されることはないということだ。

それではどうすればよいのか。それを解くカギは、他ならぬ政府文書のなかにある。政府復興構想会議『復興への提言』(2011年6月)、復興対策本部『津波被災地における民間復興活動の円滑な誘導・促進のための土地利用調整のガイドライン』(同7月)、国土交通省社会資本整備審議会・緊急提言『津波防災まちづくりの考え方』(同7月)など一連の国の復興方針を示した文書を精査してみると、そこには復興方針自体に内在する論理矛盾やそれを避けるための慎重な言い回しに気付く。

たとえば、今回の津波災害に対しては、上記の『復興への提言』のなかに“減災”という考え方が強調されており、その解説が本論冒頭で以下のように展開されている。
 「今後の復興にあたっては、大自然災害を完全に封ずることができるとの思想ではなく、災害時の被害を最小化する「減災」の考え方が重要である。この考え方に立って、たとえ被災したとしても人命が失われないことを最重視し、また経済的被害ができるだけ少なくなるような観点から、災害に備えなければならない。この「減災」の考え方に基づけば、これまでのように専ら水際での構造物に頼る防御から、「逃げる」ことを基本とする防災教育の徹底やハザードマップの整備など、ソフト面の対策を重視しなければならない。」

 同じく『津波防災まちづくりの考え方』のなかには、「地域住民の生活基盤となっている産業や都市機能、コミュニティ・商店街、さらには歴史・文化・伝統などを生かしつつ、津波のリスクと共存することで地域の再生・活性化を目指す」との注目すべき一節がある。この“津波のリスクと共存”という防災まちづくりの考え方は、上記の“減災”という防災対策の考え方に相応しており、「日頃は津波のリスクと共存しながらも、いざという時には逃げられるようにする」ことに他ならない。

 また、「上記考え方に照らして今後解決すべき課題」として掲げられた以下の方針も注目される。
津波被害が想定される沿岸地域は、一般的に市街化が進んだ都市的機能が集中するエリアであることから、今後検討する土地利用については、一律的な規制ではなく、立地場所の津波に対する安全度等を踏まえて、市街化や土地利用の現状、地域の再生・活性化の方向性を含めたまちづくりの方針など多様な地域の実態・ニーズに適合し、また津波防災のための施設整備等の進捗状況に応じた見直し(解除や制限緩和等)も可能にするような制度とすることが求められる。」

「過去の津波災害でも高台への移転が行われ、一定の効果を挙げた例があるが、被害が広範囲に渡る場合の移転先には限りがあり、また暮らしを元に戻すために平地を利用したまちづくりを求める意見も多い。そこで津波防災まちづくりにおいては、防災・減災対策を充実させることはもちろん、地域コミュニティ・商店街や歴史・文化・伝統などを大切にしつつ、生活基盤となる住居や地域の産業、都市機能等が確保され、地域の再生と活性化が展望できるまちづくりとすることが重要である。」

要するにここで言われていることは、防潮堤・地盤嵩上げ・高台宅地造成の土木事業3点セットが決して復興まちづくりの「金科玉条」ではないということだ。“減災”という防災対策の考え方と“津波のリスクと共存”という防災まちづくりの考え方に立てば、沿岸部の貴重な土地をもっと有効に利用できる方策が必ず見つかるはずだからである。(つづく)