川内村の人口目標は達成可能な「計画目標」なのか、それとも単なる「政治スローガン」なのか、“帰村宣言”は現実のものとなり得るか(8)、福島原発周辺地域・自治体の行方をめぐって(その24)、震災1周年の東北地方を訪ねて(94)

 川内村が10年、20年先に3千人から5千人の人口目標を設定するには、それなりの根拠があるのだろう。また避難している村民に一刻も早い帰村を呼びかけるためには、「将来への希望に満ちた復興計画」でなければならないといった事情もあるに違いない。でも、それが計画期限内に本当に達成可能な「計画目標」なのか、それとも希望的観測にもとづく「政治スローガン」なのかによって復興計画の性格が大きく変わってくる。端的に言えば、前者の場合は実効性のある自治体計画になり得るが、後者の場合は単なる政治宣言に終る事例も少なくないからである。

 自治体計画すなわち自治体の総合計画や復興計画の策定にとって、将来人口の推計は“計画の土台”ともいうべき決定的な意味合いを持っている。高度成長期には将来人口が現在人口よりも(はるかに)増加することを前提にして計画がつくられた。現在と将来の人口差から道路・宅地・学校・上下水道などのインフラ不足量を割り出し、それに基づいて「ハコモノ計画」がつくられたのである。

 このやり方は過疎地域においてもそれほど変わらなかった。公共投資を地域に呼び込んで建設需要を刺激しなければ景気浮揚が図れない以上、人口増が見込めない自治体でも将来人口を過大に設定して、希望的数字を「計画人口」に仕立て上げることが罷り通っていた。「人口増に見合う計画」をつくるのではなくて、「人口増を建前にした計画」が横行していたのである。

 建前人口と実人口の乖離は高度成長期にはそれほど目立たなかったが、日本全体が人口減少時代に移行するに伴い、その破綻はもはや繕うことができないまでに拡大した。国では全国総合開発計画がお蔵入りとなり、自治体では「仮需」にもとづくハコモノ開発計画が劇的に破綻した。全国各地で雑草地と化した宅地造成地や空き家同然の公共施設が残骸を曝すようになり、「公共事業バラマキ」の弊害がマスメディアで連日喧伝されるようになった。小泉構造改革によって公共事業が大幅削減されたのは、それから間もなくのことである。

 自治体計画は、過疎地域は言うに及ばずいまや全国的にも大きな歴史的転換点を迎えている。それは「人口増を建前にした計画」から「人口に見合う計画」への量的移行であり、さらに言えば“人口減に対応する計画”への質的転換である。これまでのような人口増減を基準とする「ハコモノ計画」だけの“量的思考”では、もはや人口減少時代の総合計画や復興計画はつくれなくなった。人口増減を自治体行政の基準とする限り、小規模になった自治体は合併する他はなく、公共施設はスクラップされる他はないからである。

 それでは人口減少時代の自治体計画に求められるものはいったい何か。一言で言えば、それは“開発成長型計画”から“持続可能型計画”への質的転換である。これまでの自治体計画は、人口を基準にしてハコモノが「足りるか、足りないか」で判断される量的計画だった。これに対してこれからの計画は、人口の大小・増減にかかわらず、地域社会を「維持できるか、できないか」で評価される質的計画でなければならないということだ。

 公共施設ひとつにしても人口比で基準面積や施設数が物理的にカウントされるのではなく、その施設がどれほど地域社会のニーズにマッチしているか、施設の利用や運営に地域の人びとがどれだけ主体的に参加しているか、それが結果としてどれほど地域・自治体への住民の帰属性を高め、参加意識を涵養しているかなどを考慮して決めなければならないということだ。

 川内村の第四次総合計画・復興計画がこの先どのような構成と内容になるかは、目下のところわからない。しかし「10年先、20年先の人口を3000人から5000人を目標といたします」という宣言が、果たしてどれだけリアリティを持っているかは気になるところだ。先にあげた人口問題研究所の市区町村別将来推計人口(2000〜2030年)によれば、2000年を基準とする川内村人口はその後概ね推計通りに推移しており、2010年実人口の2810人は推計人口の2801人とほとんど違わない。したがって原発事故を蒙った20年先の将来人口は、推計人口の1976人よりも遥かに減少すると考えるのが普通だろう。

 この点に関する役場でのヒアリングによれば、従来から密接な交流関係にあった富岡町が2017年3月まで帰還しない方針を固めたことと関連して、同町の「町外コミュニティ」を川内村で受け入れようとする意向がどうもその背景にあるらしい。しかしそれが富岡町と調整済みの上で打ち出された目標なのか、また富岡町住民はそれを望んでいるのかといった核心的な話は聞けなかった。(つづく)