原発周辺地域の復興計画は、世代・世紀を超えた“超長期”の取り組みを必要とする、震災2周年を目前に控えて(その2)、震災1周年の東北地方を訪ねて(110)

 私がこのシンポの開催を知ったのは関係学会からのメーリングリストによるものだが、参加しようと思ったのは、実行委員長の糸長日大教授と建築学会で同じ農村建築・農村計画の研究会に属していたこともあり、その人柄や行動力をよく知っていたからだ。またプログラムも1日目が津波被災地域、2日目が原発被災地域にわけて集中討議することになっており、2年目を間近に控えた東日本大震災の全容を理解するうえで有益だと思われた。

 なかでも原発周辺地域の被災状況と復興問題に関する報告は充実しており、報告者も福島県飯舘村の酪農家、飯舘村放射線調査に当たった原子力研究者、チエルノブイリ原発事故後も低線量被曝の実態を一貫して追跡し続けているスウェーデンの医学者など、専門学会では揃えることが難しい多彩な報告者が並んでいた。これは糸長教授が20年余りも前から飯舘村のまちづくりに取り組み、原発事故直後から「飯舘村後方支援チーム」(NPО)を立ち上げて継続的な取組を進めてきた活動の人脈を反映したものだ(単なる居並び大名では議論が噛み合わない)。

 東北地方以外ではあまり知られていないようだが、原発事故後の飯舘村の避難行動とその後の除染計画については、飯舘村村民の間でも研究者の間でも意見や評価が(大きく)分かれている。私自身もこの3カ月ほどの間に関係者から直接話を聴く機会が幾度となくあったが、いまだ的確な判断を下せる状況に至っていない。除染作業が果たして計画通りに進んで除染効果を上げることができるのか、それとも計画目標を達成できずにゼネコンに大盤振る舞いするだけの結果に終わるのか(たとえば飯舘村の除染費用は3200億円)、その見極めがなかなかつかないのである。

昨年12月には京都で飯舘村菅野村長を招いての講演会があり、除染と帰還を進める菅野村長の言い分を聞いた。休憩時間には名刺を交換して個人的な質問もした。また年末には同志社大学で地域社会学会が開かれ、飯舘村に入って詳細なフィールドワークを続けている若手社会学者の報告があった。飯舘村の避難行動や除染計画をめぐる対立関係やその背後にある地域社会の構造に関する報告が中心だったが、菅野村長の施政方針や行政実績、行動原理などを理解するうえで非常に参考になった。

だが、これらの講演会や報告会では最も知りたい肝心のことが分からなかった。それは、飯舘村の被曝状況と除染作業の効果についての科学的な知見と今後の見通しについてである。今回のシンポでは、原発事故直後から飯舘村放射能汚染状態を調査してきた今中哲二氏(京大原子炉実験所助教)の報告、「福島原発災害の実態と克服の展望」を聴くことができ、少しは状況を理解できるようになった。

しかし、今中氏さえ原発事故直後3日間の放射線量はいまだにわからず(政府や福島県からデータが公表されていない)、飯舘村の住民がどの程度被曝したかは現在においても不明なのだという。氏自身は、アメリカ軍のヘリコプターから観測された放射線量の解析を通して近く被曝量を算出する予定だというが、これでは原発周辺地域の人たちの不安を解消できず、健康管理に重大な支障が出ることは避けられない。

今中報告の「放射能汚染の長期的展望」に関する結論は、目下進行中の除染計画の効果は限定的であり、住民が安心して帰還できるまでには160年かかるというものだった(以下、要旨)。
 「事故から2年経った現在、汚染地域を復興させるということで膨大な国費が投入されて“除染・帰宅”の計画が進められているが、その現実可能性、有効性に疑問を持っている人が多く、私もその一人である。放射能は放っておいても減るが、セシウム137の半減期30年を考えると、世代を超えた展望が必要となる。2013年3月現在、毎時10マイクロシーベルトという値がこれから200年間でどのような変化を示すか、放射能汚染による外部被ばくを“日常生活で気にしなくてよい毎時0.1マイクロシーベルトとする”なら、160年後ということになる」

 今中氏が日常生活の目安とする毎時0.1マイクロシーベルトは、国の平時の被ばく許容線量の目安である毎時0.23マイクロシーベルトよりもかなり厳しい基準となっている。しかし、仮に国の毎時0.23マイクロシーベルトを採用したところで、2013年3月現在の毎時10マイクロシーベルトが0.23マイクロシーベルトに下がるまで100年以上かかることには変わりない。

 まして、政府が帰還基準としている年20ミリシ−ベルトは毎時換算すると3.8マイクロシーベルトとなり、労働基準法で18歳未満の作業を禁止している「放射線管理区域」(0.6マイクロシーベルト/時以上)の約6倍に相当するのだから、住民が躊躇するのも無理はない。政府が政治的に帰還基準を決め、自治体が行政的に従ったところで、肝心の住民が納得しなければ帰還は実現しないからだ。(つづく)