改憲のターゲットが9条から“改憲のマスターキー”96条に変わった、「憲法改正」に関するNHK世論調査結果(2013年4月8日)は衝撃的だった(その3)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(3)

 安倍内閣の支持率が高水準を維持している第3の要因は、国民の抵抗が大きい憲法9条をいったん引っ込めて憲法96条を改憲の突破口に設定したことだ。阿部首相が夏の参院選までは「低姿勢」に徹して当面は景気対策に集中し、参院選後に一挙に「改憲タカ派」の正体をあらわすであろうことはマスメディアでも広く喧伝されている。そして目下の低姿勢を象徴するのが、9条改憲を前面に出さずに96条改定からまず手を付けるという「96条先行作戦」のシナリオなのである。

 今回のNHK世論調査の調査設計で不思議に思うことは、これまで憲法改正世論調査では必ず中心に座っていた憲法9条に関する質問が外され、憲法96条の改定に焦点を当てられていることだ。憲法96条が参院選の争点として急浮上してきていることを念頭に置いた調査設計だともいえるが、阿部内閣の改憲戦術(の変更)を忖度した世論調査とも言えないことはない。

 なぜ阿部内閣が9条を避けて96条改定に的を絞っているのか。それは9条改憲には反対だが、96条は単なる「手続き条文」だから改訂してもたいしたことにはならないと多くの国民が思っている(と改憲勢力が思っている)からだろう。だが96条は単なる手続き条文ではない。96条の「3分の2条項」を「2分の1条項」に変えることは、改憲勢力に“改憲のマスターキー”を渡すことに等しい。96条が改訂されると、憲法各条文が相次いで「芋づる式」に改憲されていくことにもなりかねない。最終的には、自民党改憲草案を土台とする全面改憲に一気に突き進む危険性すら否定できない。

 私は、憲法9条は平和国家(戦争をしない国)の骨格だが、憲法96条は近代国家(立憲主義にもとづく民主的統治構造)の土台だと考えている。だから憲法9条を変えることが改憲勢力の「本丸」(目的)であり、96条改定はそのための単なる「入口」(手段)にすぎないといった巷間流布されている見方には与(くみ)しない。憲法96条は近代国家の民主的統治構造の全体を守る(簡単には変えさせない)ための条文であり、現行憲法の「守り神」のような存在だと思うからだ。

 先進国の憲法においても、憲法改正条文は二重三重に厳重に守られている。たとえばアメリカ合衆国憲法は、第5条に「連邦議会は、両議院の三分の二が必要と認めるときは、この憲法に対する修正を発議し、又は各州中三分の二の議会の請求があるときは、修正発議のための憲法議会を招集しなければならない。いずれの場合でも、その修正は、連邦議会が選定すべき承認の二方法のうちの一に従い、四分の三の州の議会によって承認されるか、又は四分の三の州における憲法会議によって承認されるときは、あらゆる意味において完全にこの憲法の一部として効力を有する(以下、略)」(『岩波コンパクト六法』)と定められている。

 つまりアメリカ合衆国憲法の改正は、連邦議会(上院・下院)の「3分の2」あるいは州議会の「3分の2」(50州議会のうち34州)の発議が必要であり、かつ「4分の3」の州議会(憲法会議)の承認が必要だとされているのである。このように憲法改正には二重三重の厳重な防護柵(高いハードル)が張り巡らされているのであって、これを簡単に変えようとなどすることは、明らかに近代国家の土台を破壊する「ファッシズム国家」への第1歩だといわなければならない。

 ところが、NHKの世論調査にはこのような認識(危機意識)があるのだろうか。私にはこともなげに(あるいは意図的に)改憲項目が並べられ、それに順次答えていくと、「なんとなく」96条改憲に行きつくような世論誘導の臭いさえ感じる。つまり「今の憲法を改正する必要があると思うか」→「安倍内閣憲法改正要件を緩和することを目指すとしていることについてどう思うか」→「夏に行われる参議院選挙の結果、憲法改正を目指す勢力が改正に必要な3分の2以上を占めることが望ましいと思うか」とたたみかけ、最終的には参院選改憲勢力が3分の2以上を占めることが「望ましい」20%、「どちらかといえば望ましい」37%という驚くべき結果が導き出されているのである。(つづく)