集団自衛権の行使容認のためには、「行けるところまで行く」「使えるものは何でも使う」、安倍首相の大阪入りの狙いと国会対応、維新と野党再編の行方をめぐって(その2)

 4月19日、来阪した安倍首相は、橋下維新共同代表・松井幹事長の案内で「あべのハルカス」を視察するなど維新との友好関係を久し振りでアピールした。「責任野党・みんな」が渡辺氏の借金問題で使いものにならなくなった現在、目前に控えた集団自衛権の行使容認を国会で取り付けるためには、維新をはじめとして「使えるものは何でも使う」ことが要求されているからだ。

 その一方、安倍首相が与党である地元の自民党公明党の幹部と会った形跡はない。府議会・市議会で維新と対決する自民・公明とは会わないで、その政敵である橋下・松井両氏にはことさらに会うというのだから、安倍政権と地元保守(自民・公明)の関係は相当冷え切っているのだろう。

 そういえば、19日はみんなの新三役も橋下氏を訪れている。浅尾氏らが1年前に袂を分かった維新との関係修復に動き、府議会でも維新(50人)とみんな(1人)の与党統一会派結成の話がまとまったようだ。みんな府議といえば、これまでも泉北高速鉄道外資売却案件でも知事与党として維新と行動をともにしてきた関係だ。だから、これで府議会の勢力関係が変わるわけでもなければ、維新が再び過半数(53人)に届くわけでもない。

 しかしこの時期、安倍首相や浅尾みんな新代表がわざわざ大阪に来て橋下氏に会うのは、国会での集団自衛権に関する討議がそろそろ大詰めに差しかかっているからだ。歴代の自民党政権と異なる安倍政権の特質は、突出した国家主義(極右)政権に特有の「いける所まで行く」「使えるものは何でも使う」という行動様式にある。これはヒットラーナチス政権にも共通する行動様式であり、その“突撃性”はいささかも軽視できない。安倍政権の改憲戦略・戦術は、以下のような経過をたどって変化してきた。

(1) 当初は、改憲派が衆参両院で3分の2を占めるという空前絶後の状況の下で、「憲法9条」そのものの改憲を目指した。両院で発議し、国民投票にかけて改憲すると言う正攻法である。しかし、世論が9条改憲阻止に傾く中で、彼らが迂回戦術とも言うべき「憲法96条」の改憲に標的を変えた。

(2) ところが案に相違して、各界の奮闘で立憲主義に関する国民的理解が急速に広がり、国民投票に持ち込むことは却って改憲が否定される可能性が出てきた。そこで今度は国民投票を回避するために「解釈改憲」に舵を切り、集団的自衛権の行使容認を可能にする態勢を整えた(首相の私的諮問機関「安保法制懇」の設置、法制局長官・NHK会長・経営委員の一連の人事など)。

(3) 解釈改憲は、衆参両院の3分の2発議も国民投票も必要としない。国会の審議抜きに行政の意思決定手続きにすぎない閣議決定憲法解釈の変更を強行するという事実上の“クーデター”だといってよい。安倍政権にとっては重要なのは、この閣議決定を可能にする国会内の改憲勢力の糾合であり「合意形成」であって、そこに全精力が傾注されている。この点で公明はもとより維新・結い・みんな・民主改憲グループの結集が鍵になる以上、求心力が衰えたとはいえ、橋下氏はまだまだ使いものになると見て安倍政権が接近するのである。

 その一方、この1年間の護憲世論が過去のいかなる時期よりも顕著な高まりを見せ、安倍政権の改憲路線に対する国民的批判が飛躍的に広がっている「国会外」の状況も見ておかなくてはならない。最近の朝日新聞世論調査(2014年2月中旬〜3月中旬実施、4月7日発表、郵送法、回収率68%)によれば、前回調査(2013年3月下旬〜4月中旬実施、5月2日発表、郵送法、回収率73%)に比べて、国民の護憲意識はこれまでにはない新しい様相を示している。以下、主要な質問について前回と今回の変化を見よう。

憲法第9条について、「変える方がよい」39%→29%、「変えない方がよい」52%→64%
非核三原則について、「維持すべきだ」77%→82%、「見直すべきだ」18%→13%
憲法第9条を変えて、自衛隊を正式の軍隊である国防軍にすることについて、「賛成」31%→25%、「反対」62%→68%
集団的自衛権について、「行使できない立場を維持する」56%→63%、「行使できるようにする」33%→29%
○いまの憲法ついて、「変える必要がある」54%→44%、「変える必要はない」37%→50%
憲法第96条を変えることについて、「賛成」38%→29%、「反対」54%→63%

 このように、これまで憲法9条を軸に形成されてきた護憲意識がさらに強化され、集団的自衛権の行使など軍事行動へ反対する世論がほぼ3分の2のレベルに達したことは、“国民世論の構造変化”だと言っても過言ではない。また自民・公明支持者の中にも立憲主義への理解が深まるにつれて、これまで多数派を占めてきた改憲世論(変える必要がある)が護憲世論(変える必要がない)に逆転したことは、戦後の憲法状況を考える上で“歴史的変化”だといえる。安倍政権のなりふり構わぬ改憲路線が国民の危機意識を呼び起こし、立憲主義への理解を広げたことは、安倍政権の「最大の功績?」と言えるのかもしれない。
 
 石原維新共同代表のように一切の国民世論を無視して行動する極右分子もいることはいるが、もう一方の共同代表である橋下氏はかなり世論の影響を受けるタイプらしい。もし維新と結いの合併新党が護憲世論の動向を無視して安倍政権と野合すれば、党名を変えたところで合併新党の生き残る道はないことは彼自身もよく知っていることだ。維新が近づく統一地方選で「合併新党=改憲翼賛政党」のレッテルを貼られることがないようにするとすれば、それはいったいどのような行動となってあらわれるのか。これからの野党再編の行方と護憲世論の動向についての分析を深めたい。(つづく)