橋下・維新は“墓穴”をますます深く掘り続ける、「憲法改正」に関する世論が激動している(その6)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(10)

 2013年6月6日、橋下・維新が沖縄米軍のオスプレイを大阪の八尾飛行場で訓練させる提案を安倍首相に申し入れたというニュースを聞いて、さすがの大阪人も「仰け反った」という。沖縄の基地負担を本土が分かち合うというのが表向きの理由だが、米軍撤退には一切触れないで「基地負担の軽減」を云うのだから、これは米軍司令官に性犯罪をなくすために「風俗の活用」を提案したのとまったく同じ構図だ。この人物の頭には、「米軍基地の撤去」という選択肢は端(はな)からないらしい。

 橋下・維新に関するニュースがこのところめっきり減っている。かっては朝昼夜と1日に3回も見たくもない顔を見せられてのだから、視聴者に取っては気分のいいことこの上ないが、橋下・維新の側からすれば危機的状況であることには間違いない。「風評政党」である維新の命運は、どれだけマスメディアに露出するかということに懸かっているので、とにかくテレビに出なければ「話にならない」のである。

 橋下・維新が参院選勝利のために描いていたシナリオは次のようなものだった(と聞いている)。このところ目立ってきた支持率の低下を回復させるには、なにか新しいトピックス(話題)をつくらなければならない。しかし国内ではもう「種切れ」なので、新機軸を打ち出すために仕組んだのがアメリカ訪問だった。マスメディアの注目を引きつけて、手垢にまみれてきた「大阪都構想」をアメリカ大都市圏自治体との交流のなかでクリーニングして参院選用の政策に仕立て直す、これがアメリカ訪問の目的だった。

 もうひとつ考えていたのは、橋下・維新の念願である「カジノ都市構想」着手のためにラスベガスへ行くことだった(らしい)。ラスベガスは言うまでもなく世界最大のカジノ都市、そして性産業都市だ。しかし公費出張となると市議会で訪問意図がいろいろと議論されるので、こちらの方はどうやら取り止めになったようだ。香港・澳門マカオ)のカジノ視察の時は問題にならなかったのだから、人気が落ちてくるとやはり詮索も厳しくなるらしい。

 ここから橋下・維新らしい前宣伝が始まる。通常の場合であれば、日米大都市圏自治体の比較のためにプレシンポを開くとかして世論を盛り上げるのだが、橋下・維新にはそんな見識もなければ興味もない。そこに出てきたのは、橋下流らしい「慰安婦・風俗発言」だった。

 目的は2つ。ひとつは参院選後の自民党との協力関係を睨んで、安倍首相の「侵略の定義はない」という歴史認識問題に歩調を合わせるために「慰安婦が必要だったことは誰にもわかる」という容認発言、もうひとつがアメリカ訪問の手土産としての「沖縄米軍の風俗活用」発言だった。日米同盟の安定を図るためには沖縄米軍基地が不可欠、沖縄米軍基地を安定的に維持するためには米軍の性犯罪を減らすことが不可欠、米軍の性犯罪を減らすためには「風俗の活用」が不可欠、これが橋下流の3段論法の帰結だった。

 弁護士とはいうものの、橋下氏がやってきた仕事といえば「サラ金取り立て業」の顧問弁護士、大阪の歴史的風俗地帯「飛田新地」の顧問弁護士といった「裏の仕事」だけで、弁護士らしい本来の仕事は何ひとつやってこなかった。それが時の勢いで大阪府知事になり大阪市長になったのだから、「国際交流」をやるとなれば彼の地肌が出てくるのはやむを得ない。今回の「慰安婦・風俗発言」はその必然的結果であり、彼なりの描いたシナリオの帰結だっただけのことだ。

 とはいえ、橋下・維新にとって大誤算だったのは、「慰安婦・風俗発言」がこれほどの国際的反響を呼び起こすとは想像だにしていなかったことだろう。しかし、政治家としての道義や倫理、首長としての社会的責務の自覚など「チリの欠片(かけら)」ほどもない人物にとっては大誤算であったとしても、ごく普通の市民にとっては顰蹙(ひんしゅく)を買う発言以外の何物でもなかった。そして「こんなことよういうわ!」と驚き呆れる大阪人にとっても、こんな人物を知事・市長に選んだという点では「大誤算」だったのである。

 外国特派員協会での橋下氏の講演や質疑応答をきいたあるアメリカのジャーナリストが語った言葉が印象的だ。「アメリカでは穴に嵌ったら(はまったら)穴を掘るのを止める」。しかし、橋下氏は依然として居直りとすり替えの発言を続けて、遠からず自ら掘った土で生き埋めになる運命を知ってか知らずしてか穴(墓穴)をますます深く掘り続けている。(つづく)