大阪都構想のカベは“特別区の区割り”の特別の難しさにある、住民投票の前に区割りの是非を問う住民投票が必要だ、大阪維新の会内部資料が暴露した橋下維新の実体(その5)、ポスト堺市長選の政治分析(14)

 大阪維新の会の内部資料が「プレゼン作戦」と並んで、もうひとつ重視しているのが住民投票の進め方だ。周知のごとく、大阪都構想を実現するには2つの高いハードルがある。ひとつは大阪府・市両議会で住民投票の実施に関する議決を得ること、もうひとつは住民投票で賛成の過半数を得ることだ。維新が議席過半数を持たない大阪市議会では、与党である(あった)公明党の支持を得なければ議決を通すことが不可能だし、住民投票は投票総数の過半数の賛成を得なければ大阪都制に移行することができない。

 橋下代表はこれまで住民投票の実施時期について明言を避けてきた。しかし、大阪都構想の是非を問う住民投票には“デッドライン”がある。それは、2015年4月(統一地方選前)に大阪都制に移行すること、およびその半年前の2014年10月に住民投票を実施する(しなければならない)という“絶対期限”が設定されていることである。理由は、次の統一地方選で橋下維新が府議会・大阪市議会で大幅に議席を減らして、大阪都構想そのものが消える可能性が大きいからだ。だから、どんなことがあっても維新は現行勢力を維持したままで住民投票に持ち込まなければならないのである。

 住民投票は以下のような手順で行われる(読売新聞、2013年11月22日)。
(1)2014年8月までに、橋下・松井両首長と府市議の代表者で構成される大阪都の制度設計を話し合う法定協議会において、特別区の区割りなどを定めた協定書を作成する。
(2)協定書の承認後60日以内に住民投票が行われるため、ただちに府・市両議会に諮り、両議会の過半数の賛成により協定書を承認する。
(3)2014年10月に住民投票を実施する。

 だが、このスケジュールはどう考えてみても無理がある。まずなによりも、大阪都制のコア(核心)ともいうべき大阪市特別区の区割りが難航をきわめているからだ。今年中に区割り案を1つに絞り込みたい維新とそうはさせまいとする反対派が鋭く対立しており、法定協議会の結論がなかなかまとまらない。維新内部においても「5区」でいくのか「7区」でいくのかで意見が分かれているのだから、区割りが難問中の難問であることにかわりない。それに自民をはじめとする反対勢力は「時間切れ」を狙っており、区割り案そのものが大阪都構想を巡る最大の対決点になりつつある。

 大阪維新の会内部資料においても「区割りの早期決定」がきわめて重要だと指摘されている。「全体戦略」(その5・主軸メッセージ)は次のように言う。
 ・「区割りによって、住民の賛否意識・参加意識は大きく異なる」
 ・「他党との調整で困難課題であるが、区割りの早期決定は重要」
 ・「区割りを確定することで、当該区のサブ主軸メッセージの確定」

 当然といえば当然のことだが、区割りが決まらないと広報戦略が立てられず、当該区住民に対する宣伝活動の内容も決められない。だから維新の側からすればできるだけ早く決めようということになるのだが、しかし橋下維新はこのことをあまりにも簡単に考えてはいまいか。長年慣れ親しんできた大阪市内24区の住民に対して新しい特別区への参加意識を掻き立てるのは容易なことでないし、なによりも住民の日常生活にとっての区割りは市町村合併に匹敵する大事業であり、区割りそのものが住民投票の対象になるほどの一大関心事なのである。

 考えてもみたい。これまで市町村合併を進めてきた自治体では、関係市町村の間で合併協議会をつくり、長年の協議(10年以上も珍しくはない)を繰り返してどのような自治体をつくるかを粘り強く話し合ってきた。その間には幾度も住民アンケート調査を実施して住民の意向を確かめ、また議会や公聴会をその都度開いて住民の多様な意見を聞く努力が重られてきた。しかしそれでも合意形成に至らなければ(多々あるケースだ)、合併協議会は解散して元に戻る他はない。こうして無数の協議会が解散し、また出直しては市町村合併が進められてきたのである。

 今回の大阪都構想にともなう大阪市内の区割りは、従来の政令指定都市における単なる行政区の変更とは全く性格が異なる。それは、公選区長や区議会の設置をともなう新たな自治体の創設ともいうべき一大事業であるから、24行政区の関係住民や関係団体の意向が何よりも尊重されなければならない。特別区の区割りは、僅か20人の法定協議会委員の談合で決定されるような案件であってはならず、大阪府・市両議会における討論は言うに及ばず、区割りについての住民投票を含めて広く府市民の意見を求めるものでなければならないだろう。

 だが、橋下維新にはこのような地方自治・住民自治への関心や考慮は毛頭もないらしい。念頭にあるのは公明党への政治工作であり、橋下ブレーンを中心とする大阪都構想専門家会議による「お墨付き」を得ることだけだ。すでに公明党への内部工作が始まっており、橋下・松井両氏が公明党大阪市議団幹部と11月26日に大阪市内で会談し、関係修復を呼びかけたと言われる(産経新聞、2013年11月27日)。

 また11月21日には、大阪市特別区区割りと府市統合効果を「客観的」に検証する専門家会議の初会合が開かれ、今後、堺屋・上山氏など府市特別顧問ばかりの専門家(御用学者)が府市統合効果額について改めて検証し直すのだという。おそらくありもしない府市統合効果をでっち上げるのであろうが、楽屋裏はすでにお見通しの状態だ。この記事を掲載した産経新聞(2013年11月21日)が見出しで「都構想検証『出来レース』、会議メンバー、橋下氏ブレーンずらり」と皮肉っているのだから。(つづく)