全容が明らかになった安倍政権の改憲戦略、それは集団的自衛権の「限定容認」を掲げる公明党を水先案内人にして、解釈改憲(憲法9条の否定)で日本の安全保障政策を大転換させることだった、維新と野党再編の行方をめぐって(その23)

 6月27日の「NHKニュース9」で、公明党山口代表は党内議論(調整)の機先を制するように集団的自衛権の「限定的な行使」を容認する考えを表明し、武力行使の「新3要件」を「二重、三重の歯止めが利いており、拡大解釈のおそれはないと思う」と力説した。公明党内の異論を押さえ、安倍政権の「下駄の鼻緒」になった執行部の見解を既成事実化する行動に打って出たというわけだ。

 これまで集団的自衛権問題にまともに向き合ってこなかった「ニュース9」が、このときとばかり公明党の宣伝機関になり、山口代表の「言い分」を長々と報道したのは「見苦しい」(聞き苦しい)限りだった。こんな有様ではニュースキャスターなど要らないし、アナウンサーが原稿を読むだけの方がまだ増しというものだ。掛け合い問答よろしく互いが「限定容認」の効用を臆面もなく演出するのだから、聞いている方はたまったものではない。こんな提灯持ちの番組などNHKの恥さらしそのものではないか。

それにしても山口代表の発言は空々しい。前日の6月26日の党内会合では、北側副代表が例によって、「これは解釈改憲ではなく、憲法解釈の一部変更に過ぎない」と強弁したという(毎日新聞、2014年6月27日)。憲法を1内閣の都合で勝手に変えるという行為は、「一部」であろうと「全部」であろうと明々白々な解釈改憲そのものだ。これを「憲法解釈の一部変更」などと言うのは、「鹿」を「馬」といい、「黒」を「白」というに等しい。こんな屁理屈で公明党内の議論が収まるようなら、この組織は鹿と馬、黒と白の区別もつかないということになる。

しかも山口代表や北側副代表の発言には、自民・公明合作の「台本」(シナリオ)があるのだから念が入っている。その台本とは、6月26日に判明した集団的自衛権の行使容認等に関する政府の想定問答集である(毎日、同上)。その中からいくつかの「Q」(質問)と「A」(回答)を抜粋するだけでも、党内会合での山口・北側発言は政府答弁の予行演習であることがわかる。

「Q 憲法解釈を変更したのか。A 解釈の再整理と言う意味では一部変更だが、論理的整合性と法的安定性を維持しており、解釈改憲ではない」
「Q なぜ憲法改正でなく閣議決定なのか。A 憲法改正の是非は国民的な議論の深まりの中で判断されるべきだ。自国の平和と安全を維持し、存立を全うするために必要な自衛の措置を1972年政府見解から論理的な帰結を導ける以上、必ずしも憲法改正の必要はない」
「Q どのような場合に集団的自衛権は行使できるのか。A 新3要件を満たす場合に限り、国際法上は集団的自衛権が根拠になる『武力の行使』も憲法上許される。要件に該当するかどうかは政府が客観的、合理的に判断する」(以下、略)

この政府問答集については、毎日新聞の解説が以下のように断じている。
「ポイントの一つは日本が武力行使をするかどうかを『時の内閣が主体的に判断する』とした点だ。政府・自民党は世論対策として『限定的な容認』を強調してきたが、時の政府・与党の判断で際限なく広げられる。政府が自衛権発動の条件としてきた『新3要件』については『武力行使の新3要件に修正。集団安保での武力行使のように、『自衛』以外の目的でも他国を攻撃できるにすることが狙いだ。(略)安全保障政策の大転換である。『自衛以外の武力行使の解禁』が、密室で進んでいると言われても仕方がない」(毎日、同上)

ところが6月28日に公明党本部で開かれた県代表懇談会では、出席者から連立離脱論や行使容認への慎重対応を求める意見が相次いだにもかかわらず、山口代表は与党協議の経緯を踏まえて、「今回の集団的自衛権の行使は極めて限定的で、憲法九条の規範は変わらない」と再三再四繰り返し、井上書記長は異論を制して「執行部として責任を持って決定したい」と押し切ったという(東京新聞、2014年6月29日)。かっては「党内の意見を丁寧に聞く」、「期限を切って決めるようなことはしない」などと言いながら、7月1日の閣議決定を目前にしたいまは、党内にどんな異論があろうとも安倍政権の意向に沿って予定通り「党内調整=ガス抜き」を進めるーーー。これが公明党執行部の「下駄の鼻緒」の本質なのだろう。

こうした一連の経緯を見れば、結局のところ、公明党執行部の果たした役割は自民党安倍政権の「解釈改憲の水先案内人」だったということになる。要するに、安倍政権が当初狙った憲法96条を変えて国民投票のハードルを下げる企みが失敗に終わり、1内閣の閣議決定集団的自衛権の行使容認に関する解釈改憲に踏み切ることに戦略が変更された結果、「露払い」の役を公明党執行部が買って出たということだ。その行程表(ロードマップ)にはおよそ以下のようなシナリオが書かれていたのではないか。

(1)表向きは「解釈改憲には慎重」だとする創価学会公明党を前面に立てて国民の警戒心を鈍らせながら、実質は与党協議と言う密室の場で解釈改憲のための閣議決定案を煮詰める。
(2)与党協議の一端をリークして公明党解釈改憲に抵抗しているかのような雰囲気をつくりながら、その実は「極めて限定的」という表現で公明党改憲容認に転じたことを既成事実化する。しかしそれは「公明党の苦渋の決断」によるもので、決して望んでやっていることではないとの注釈つきだ。
(3)こうして安倍政権の改憲策動に公明党が「ブレーキ」をかけるというイメージを振りまくことで国民の目を閣議決定案の瑣末的修正に集中させ、憲法改正を与党の密室協議で決めると言う「立憲主義の破壊」すなわち公明党の犯罪的役割から国民の目を逸らす。
(4)それでも安倍政権が目的とする改憲条項をそのまま文章化すれば、公明党の「抵抗」や「苦渋」といった茶番劇は吹き飛んでしまうので肝心なところは書かず、公明党執行部にはあくまでも「憲法9条の規範内」と強弁する役割を演じさせ、安倍政権は政府の想定問答集というかたちで改憲条項を政府原案として実質化するーーーと言う寸法だ。

 閣議決定は目前に迫った。しかし、公明党を水先案内人にして解釈改憲の策略を企てた安倍政権はこれから厳しい国民の審判に直面するだろうし、一蓮托生の仲になった公明党もその批判を免れることはできないだろう。国民を一時は騙せても、いつまでも騙し続けることはできないからである。(つづく)