8月30日の国会包囲デモを読売・産経両紙はどう伝えたか、日本新聞協会の倫理綱領に反する新聞社は即刻除名すべきだ。日本新聞協会会長の読売新聞(東京本社)白石社長、副会長の産経新聞(東京本社)熊坂社長は自らの手で自社の除名処分を断行しなければならない。大阪都構想住民投票後の新しい政治情勢について(2)、橋下維新の策略と手法を考える(その56)

 安保法案に反対する市民の抗議集会やデモが8月30日、全国47都道府県の数百カ所に上る地域で開催された。主催したのは、各地で護憲運動を続けてきた市民らでつくる「戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会」だ。呼びかけに応えて「SEALDs」などの学生団体、日弁連に所属する弁護士会、大学教員有志がつくる「学者の会」、子育て世代の「安保法案に反対するママの会」、日教組ほか全国多数の労働団体が参加し、「戦争法案反対!」「安倍政権退陣!」の声が各地で轟いた。

 なかでも国会を包囲した東京デモは主催者発表で12万人に達し、日頃は集会やデモが厳しく規制されている国会周辺の歩道を超えて国会議事堂前の車道一杯に広がるなど、60年安保闘争以来の歴史的規模になった。毎日、朝日、東京、西日本、中日、中国など大手・地方各紙は、この光景を国会議事堂上空からヘリで撮った大型の航空写真で第1面に飾り、迫力あふれる紙面をつくった。眼下に広がる白亜の国会議事堂とその前方の道路一杯に埋め尽くしたデモ群集との鮮やかなコントラスト写真が読者の目を奪い、新聞本来の醍醐味に満ちた紙面となって多くの読者を惹きつけた。

 国会前の大規模デモは、海外でも大いに注目を集めた。米国のAP、CNN、英国のロイター、フランスのAFPなど国際通信社が一斉に「戦争させない」「9条壊すな」と雨が降る中、プラカードを持って抗議する人々の写真や動画を発信し、英BBC、ドイツ公共テレビ、中東アルジャジーラなど各国のテレビ局が安保法案反対の熱気に満ちた空気を伝えた。また米ニュヨークタイムズや英フィナンシャルタイムズなど世界各国の有力新聞も挙って記事を掲載し、「冷静な日本人が立ち上がった」「若者が目覚めた」「子連れの母親など新しい人たちが参加している」「戦後最大のデモのひとつ」「市民は平和主義の決別に反対している」「安倍首相は国会成立を希望しているが反対が増大している」など、安保法案の行方を占う新しい政治情勢を隈なく報道した(毎日新聞2015年8月31日電子版、東京新聞9月1日同)。

 このように国内はもとより世界各国のメディアが注目したこの歴史的な国会デモを、国内の大手紙である読売・産経両紙はいったいどのように伝えたのであろうか。8月30日の翌日、近所のコンビニで買い求めた両紙には、これが日本の新聞とは思えないほどの恥ずかしい(申し訳程度の)記事の扱いだった。読売紙は社会面の片隅に僅かばかりの紙面を割いて(4段記事)、「安保法案『反対』『賛成』デモ、土日の国会周辺や新宿」との見出しの下に、安保法案反対の歴史的な国会デモと数百人程度の賛成デモを同列に並べて国会デモを完全に無視した。この記事は国内外のジャーナリストの間で、読売紙が政府下請けのメディアであるかを象徴する「ジャンク記事」として長く語り継がれるだろう。また同時に世界のマスメディアの間で、日本のマスメディアが如何に劣化した存在であるかを物語る代表例として語り広められるだろう。

産経新聞はそれなりに紙面を割いたものの、記事の内容はまるで警察公安情報のような扱いだ。「“主役”シールズ 実態は?」との見出しが示すように、安保法案反対運動の先頭に立っている学生団体「SEALDs(シールズ)」を胡散臭い存在と見せかけるためか、その内容は「ヘルメットにゲバ棒といった過去の組織運動とは一線を画し、“クリーン”なイメージで存在感を示しているが、実態は不明な部分もある」との書き出しで始まり、「一方、シールズをきっかけに地方に始まった若者の取り組みでは、共産党が助言を行い、関係者が動員して活動を支援するなどし、若手党員の獲得につなげようとしているとの分析もある」で終わっている。これでは政府に批判的な国民を全て「アカ」扱いにした戦前戦中の新聞と何ら変わらない。

日本国内の主だった新聞社が加入する日本新聞協会という組織がある。現在の会長は読売新聞(東京本社)白石社長、副会長は産経新聞(東京本社)熊坂社長である。新聞協会の倫理綱領には次のような一節がある。前文の中に「国民の『知る権利』は、民主主義社会を支える普遍の原理である。この権利は、言論・表現の自由のもと、高い倫理意識を備え、あらゆる権力から独立したメディアが存在して初めて保障される。新聞はそれにもっともふさわしい担い手であり続けたい」とあり、「独立と寛容」の節には「新聞は公正な言論のために独立を確保する。あらゆる勢力からの干渉を排するとともに、利用されないよう自戒しなければならない。他方、新聞は、自らと異なる意見であっても、正確・公正で責任ある言論には、すすんで紙面を提供する」とある。

私はこのような格調高い新聞倫理綱領を掲げる新聞協会の会長・副会長に、読売・産経両紙の社長が平然と居座っていることに強い違和感を覚える。倫理綱領があるのであれば、それが遵守されているかどうかをチエックする倫理審査委員会があって然るべきだ。協会加盟の各新聞社が倫理綱領に照らしてメディアとしての社会的責任を果たしているか、社会の木鐸としての役割を果たしているか、そのことを絶えず厳しく問う環境がなければ倫理綱領は空文に等しい。そうでなければ、「権力からの独立」も「自らと異なる意見であっても、正確・公正で責任ある言論にはすすんで紙面を提供する」ことも空文と化してしまう。

各紙には紙面審査委員会があるように、新聞協会においても今回の歴史的な国会デモに関する読売・産経両紙の記事について審査し検証すべきだ。そしてそれが著しく倫理綱領に反しているときは、協会からの除名処分も含めて厳しい対応をとるべきだと思う。幸い読売・産経社長が新聞協会の会長・副会長を務めているのだから、「隗より始めよ」とあるようにまず自らの手で自社の記事の検証を始めてはどうか。そして、それが新聞倫理綱領に反しているときは潔く除名処分に踏み切り、自らも協会から身を引くことにしてはどうか。(つづく)