「徹底的に行革やる」と公約する蓮舫氏は、「身を切る改革」の維新の党とどこが違うのか、「身を切る改革」が民進党の党是になれば、野党共闘は次期総選挙で大敗する、民進党代表選について(4)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その11)

過日の毎日新聞の報道によれば、民進党代表選で蓮舫氏が第1回投票で過半数を占める勢いなのだという(毎日新聞、2016年9月8日)。その後、各紙の調査でも同じ傾向だというからその通りなのだろう。国会議員票で蓮舫氏がリードしているのに加えて、地方票でも「一般党員は蓮舫氏の人気が高い」「発信力が抜きんでている」など、党のイメージ刷新を期待する声が多いからだそうだ。

そういえば、蓮舫氏のホームページを見てみると、中身がはっきりしない「イメージ」だけの出馬表明が並んでいる。「ガラスの天井を破る」などといった類の表現は、アメリカ大統領選のヒラリー氏の姿と意識的にだぶらせているのだろうが、とにかく女性候補であることを押し出す作戦のようだ。しかし「イメージ選挙」だけで民進党代表が終わってしまっては困るのだ。野党第1党の政策の軸がどこにあるのかをはっきり示してほしいのである。

一方、マスメディアは蓮舫氏の政策をどう伝えているのだろうか。記者会見の質疑やインタビュー記事を一応読んでみたが、核心を衝いた記事が極めて少ない。時事通信社が伝えた米軍沖縄基地の存続を前提とした辺野古移転について「当然」とする蓮舫氏の見解など、どこを探しても見つからないのである。松下政経塾出身(親米右翼)の野田グループの1員であれば当然そうなるのであろうが、蓮舫氏の政治発言や政治家像についての的確な分析や論評がなく、テレビニュース紛いの「イメージ記事」が多すぎるのだ。政治記者の劣化の表れだろう。

その中で9月9日の毎日紙が、「2016年民進党代表選候補者に聞く」で蓮舫氏を取り上げ、タイトルに「徹底的に行革やる」と見出しを付けたのが光った(慧眼だ)。記事の内容は一問一答形式の簡単なもので、当該記事の部分は、「――財政金融政策で他候補との違いは何か」という質問に対する「私は大前提として徹底的な行政改革をやっていく」という回答だけだった。これを上述のような見出しをつけるのだから、それはそれなりの理由があるのだろう。おそらく蓮舫氏が旧維新の党グループの支援を受けるにあたって「身を切る改革」を要求され、「党是そのものだ」と応じたことがその背景にあるに違いない。

私は蓮舫氏の第一印象を「冷酷無比な事業仕分け人」と書いたが、あながちこの印象は間違っていないと思う。日経新聞蓮舫氏へのインタビューのなかで、こんなコラム記事を書いている(日経新聞、2016年9月2日)。
――旧民主党政権では政府の仕事のムダを洗い出す「事業仕分け」に取り組み、「仕分けの女王」とよばれたが、スーパーコンピューターの予算に「2位じゃだめなんですか」と切り込んだ発言が物議を醸した。(略)憲法改正論議には「積極的に参加する」としながらも、改憲に慎重な旧社会党グループから全面支援を受ける。主張との折り合いをどう付けるかも問われている。

蓮舫氏が表向き「9条を守る」といいながら、一方では「改憲論議に参加する」と言う。野党共闘に関しては「枠組みを維持する」と言いながら、その具体的な中身についてはいっこうに明らかにしない。要するに憲法9条野党共闘は「タテマエ」なのであって、「徹底的行革=身を切る改革」が蓮舫氏の「ホンネ」であり、本当にやりたいことなのである。蓮舫氏が民進党代表選に勝利すれば、おそらく民進党の表看板は大きく塗り替えられることになるだろう。当面、そのターゲットになるのは社会保障費の削減であることは間違いない。

前原氏が代表に選ばれれば、民進党は正真正銘の「改憲政党」へ直行することは明らかだが、それでは蓮舫氏が選ばれれば民進党は如何なる政党へ変身するのか、そのあたりのことが実はよくわかっていない。私は蓮舫氏が民進党代表になると、民進党は「冷酷無比な野田民主党」の再来となり、日本維新の党などとともに行革合戦を競う「リストラ政党」に変貌していくと思う。そうなると、次期総選挙では社会保障費の削減が一大争点となり、「徹底行革」を推進する蓮舫民進党が表向き「9条擁護」を掲げても、また「部分的」野党共闘を実施しても国民の支持を得ることはとうていできないと思う。

野党共闘は「憲法9条」だけでなく「憲法25条」を政策共闘の主軸に据えるべきだ。国民生活の基礎と根幹が社会保障費の削減で大きく揺らいでいる現在、「憲法9条」の擁護だけでは国民生活を守れない。「憲法25条」の実現を掲げて戦わなければ、子供の貧困も学生の困窮も救うことができないからだ。かって民主党は「コンクリートから人へ」という魅力的なスローガンを掲げた時期があった。しかし今回の民進党代表選では、そんな言葉を発する候補者や支援者は誰一人いない。そこにあるのは「事業仕分けの女王」であり、冷酷無比な野田政権のエピゴーネンだけなのである。(つづく)