「事業仕分け」の政治的背景、政治資金疑惑と普天間基地移転問題の行き詰まり、(閑話休題、その2)

 なぜ「事業仕分け」がかくも盛大に演出されたのか。私の考えるその理由と背景は、鳩山政権の抱える2つの爆弾を封じるための「煙幕」を張ることだったというものだ。いうまでもなく2つの爆弾とは、鳩山首相自身の政治資金疑惑と普天間基地移転問題である。

 政治資金疑惑の本質は、母親からの鳩山兄弟への「プレゼント」だったことが次第に明るみに出てきている。だがその額が兄弟合わせて18億円という巨額であったことは、それがもはや単なる政治資金規正法違反の偽装献金の域を超えた新たな政治問題化しつつあることをうかがわせるものだ。それほどの巨額の政治資金がなぜ必要だったのか、どんな使途に使ったのか、政治家とりわけ首相としての説明責任が生じているのである。

 目下、兄が「知らなかった。驚きの一言だ。」と言い、弟が「寝耳に水だ。」と口裏を合わせているとはいえ、そんな見え透いた口実に国民がとうてい納得していないことは、「首相の偽装献金問題の説明が不十分」80%、「十分」8%という世論調査の数字一つを見ても明らかだろう(日経11月30日)。

 このような政治的苦境を乗り越えるためには、内閣支持率を落とさないことが至上命令となる。麻生前政権の余りの不評さの反動として、あるいは発足当初の新政権に対する御祝儀として、目下の鳩山内閣の支持率は60%台を維持している。8割の国民が「偽装献金問題の説明が不十分」だとしながら、その一方で6割強の人たちが鳩山内閣を支持しているのである。そして、その最大の下支えが「事業仕分け」の演出であったことはいうまでもない。

 「内閣(首相)支持率が高いと検察・警察も手がつけられない」というのは、古今東西の法則だ。だから政治案件には起訴・不起訴の判断はいうまでもなく、捜査や事情聴取の段階からすでに「政治的配慮」がはじまっている。今回も、東京地検が首相自身の事情聴取をするつもりはないとのニュースが意識的に流されているのはそのためだ。

  小沢幹事長にとっても、鳩山内閣の支持率を落とさないことは極めて重要な政治課題となっている。小沢氏が首相の座を目前にしながら「棒に振った」のは、西松建設疑惑で彼の公設秘書が逮捕されたからだ。しかしその後も、彼の身辺から政治献金疑惑の火が消えたときがない。この数日間においても、元小沢秘書の民主党国会議員が近く事情聴取されるとのニュースが飛び交っている。小沢氏自身にとっても内閣支持率を維持して、彼の身辺に捜査の手が伸びることを防ぐことが至上命令になっているのである。

  2つ目の爆弾は普天間基地の移転問題だ。鳩山首相にとっても民主党にとっても、普天間基地問題については二重の意味で大きな誤算(楽観)があったのではないか。そのひとつはオバマ大統領への期待が余りも大きく、核廃絶演説と同様に、海外軍事基地についても大幅な再編政策が打ち出されると期待していたからだろう。

  この期待は、ブッシュ政権時代のゲーツ国防長官が再任されたときから消えたといってよい。ブッシュ時代にイラク戦争アフガニスタン戦争の指揮をとってきた張本人が、沖縄の米軍基地の撤去や縮小に応じるなどと考えるのは、「宇宙人」の思考を以てしても不可能ではないか。事実、来日したゲーツの高圧的な一喝で岡田外相、北沢防衛相は震え上がってしまったのだ。

  もうひとつの誤算は、「沖縄県民の心情を尊重する」といいながら、その実は沖縄の人たちが最後は「辺野古移転」を呑んでくれると勘違いしていたことだろう。鳩山首相は、岡田・北沢両大臣に「辺野古移転やむなし」の発言を先行させて事態を既成事実化し、最後に「自分が年内に苦渋の判断をする」という段取りを思い描いていた。そしてこの場合も、「決断」を支える最大の材料が、「内閣高支持率」だったのである。国民全体の支持を得ている内閣であるからこそ、「沖縄の人たちには我慢してもらえる」と考えていたのである。

  だから「事業仕分け」はどうしても派手にやらなければならなかった。自らの政治資金疑惑を打ち消し、普天間基地辺野古移転を決定するためには、内閣高支持率を背景にして真相を曖昧にする煙幕を張り、事態の強行突破を図る必要があったからである。そして、それは一時的に成功した(かに見えた)。

  だが「煙幕」はいつか晴れる。事実、「事業仕分け」という煙幕もどうやらそれほど長続きしない情勢になってきた。ひとつは「事業仕分け」そのものに対する批判の世論が盛り上がってきていることがある。ノーベル賞学者ならずとも全国の研究者が怒っているし、保育関係者も医療従事者もものすごく怒っている。これに「子ども手当」の財源として、税額の基礎控除までが削られてくる事態が加わってくると、おそらく世論は劇的に変化するのではないか。

 しかもこれらの作業は予算と絡んでいるだけに、いつまでも曖昧にしておくわけにはいかない。政府税制調査会の結論を急がなければならないので、鳩山政権の「マニフェスト」の正体をいつまでも隠しておくわけにはいかないのである。(続く)