この程度の人物が日本の首相だったのか、(民主党連立政権の行方、その7)

 今日4月19日の朝刊各紙を見ると、鳩山首相が苛立つのもよくわかる。朝日は、内閣支持率が25%にまで続落し、その一方で不支持が61%に急増したと一面トップで伝えている。天声人語欄でも、「政権交代で高く舞い上がったピカピカの機体も、身から出たさびで輝きを失い、ほぼ自由落下の体たらく。悲しき政権後退である」とコテパンだ。

 朝日が鳩山政権失速の原因を「身から出たさび」だと非難するのは、普天間基地を国外移転させることに鳩山首相が失敗したからではない。ことは反対だ。アメリカの軍事基地が国内に必要だという朝日の立場から、鳩山首相が「国外あるいは最低でも県外移転」など、およそ実現不可能な「軽はずみ発言」をしたことを「身から出たさび」だといって咎めているのである。もっと慎重に「うまくやれ」というわけだ。

とはいえこんな朝日の論評を読むと、ついこの間まで鳩山号をピカピカに磨き上げ、「天まで高く持ち上げていた」のは、いったいどこの誰だったのかといいたくなる。それがほどなく一転して酷評せざるを得なくなったのだから、日本を代表するマスメディアとしてまずその不見識を恥じなければならないはずだ。ところがそんなことは棚に上げて、「首相の言葉は綿菓子のように軽くて甘い」などと他人事のようにいうのだから、天声人語は今後「天唾人語」と改めた方がよい。

一方、日米軍事同盟を金科玉条に掲げる読売も負けていない。4月12日にワシントンで行われた核安全保障サミットの「夕飯前の非公式10分会談」の内容を一面トップですっぱ抜き、オバマ大統領が鳩山首相に「あなたは、トラスト・ミーと言ったが、何も進んでいないではないか。きちんと最後まで実現できるのか」と質したと伝えている。

もしこのすっぱ抜き記事の内容が事実であるとすれば、ワシントンポストが「鳩山首相は不運で愚かな人物」と論評したのも無理もない。いまや「漢字の読めない首相」に代わって、今度は「英語の意味がわからない首相」が登場したというのだから、日本の首相の国内外での威信は落ちるところまで落ちてしまった。4代続いての暗愚な世襲首相が、世界に対してどれほど「日本の国益」を損なっているかは計り知れないのである。

だが読売の最大の狙いは、非公式会談の内容をすっぱ抜くことによってアメリカの意向を日本国民に知らせ、鳩山首相アメリカ案をのませようと圧力をかけていることにあるのだろう。いわばアメリカが日本に公式に言えないことを、読売が代弁するかたちでこの記事を流しているのである。きっとアメリカの国務省あたりが読売にリークしたのを受けて、「米日共同編集記事」として出してきたものではないか。

日本の新聞であるなら、各紙とも今日の朝刊の一面トップ記事は、昨日の鹿児島県徳之島の基地移転反対島民大集会の記事でなければならなかった。なにしろ徳之島人口の過半数が基地反対集会に参加し、老若男女あわせて1万5千人の住民が反対の声を上げているのである。いまや沖縄県民はもとより、日本国中の全ての地域で「アメリカ軍基地は要らない」というのが国民世論になっている。日本の新聞なら、この国民の意志をアメリカに伝える記事を大々的に発信して然るべきなのだ

この点で意外だったのは日経だろう。日経は、経済記事以外は一面トップで扱わないが、今日は社会面トップで「普天間基地移設先受け入れ反対集会、徳之島「基地断固ノー」、高校生「未来壊さないで」」などと大見出しを掲げた。日経が「基地断固ノ―」なんて書くのは驚き以外の何物でもないが、現地を取材した記者の筆を止めることができないほど、基地反対の熱気がすごかったからだろう。とにかく事態はここまできたのである。

しかしこれほど情勢が緊迫しているにもかかわらず、この日の民主党首脳の動きはどうだったのだろう。驚いたことに小沢幹事長は、地元の岩手県で「季節外れ」の両親の大法要を営んでいる。地元支持者2500人が集まった体育館の会場で、小沢氏は「念願の政権交代を果たし、やっと両親に報告と供養ができた」と述べたという。彼の眼中には、普天間基地移設問題も政治とカネの問題なく、ただ次期参議院選挙で小沢派の身内候補を当選させることしかないのだろう。

また鳩山首相の腹心の平野官房長官は、普天間基地移設問題の5月決着とは、「問題解決の糸口を付ける」ことだとまたまた詭弁を弄している。加えて、たとえ決着しなかったとしても「首相の進退にはつながらない」とはやくも予防線を張り始めた。だが鳩山首相の進退を決めるのは、民主党でもなければ首相自身でもない。それは沖縄県民をはじめとする日本国民であり、その世論が全てを決するのである。