「創造的復興」という名の“道州制導入実験”に突っ走る宮城県の震災復興計画、「企業国家日本」の破綻、そして崩壊のはじまり(4)、(私たちは東日本大震災にいかに向き合うか、その11)

5月3日、東日本大震災の「被災者ワンパック相談会」に阪神淡路まちづくり支援機構の一員として、私は南相馬市住民の避難所(福島市内)の相談会場にいた。そのとき、何気なく手に取った地元紙・河北新報の記事に思わず目を見張った。同紙によれば、前日の5月2日、宮城県の震災復興計画策定に向けて有識者の提言を受ける「震災復興会議」の初会合が開かれ、菅政権の復興構想会議のメンバーでもある村井知事が「地球規模で考え、日本の発展も視野に入れた計画を作る上で適切な助言をお願いしたい」と挨拶し、「宮城県の復興にとどまらない大胆な構想」を打ち出す意欲を見せたという。

「地球規模で考え、日本の発展も視野に入れた計画を作る」とはいったいどういうことか。そんな疑問を抱きながら、12名の委員の顔ぶれを見てさらに驚いた。議長は小宮山宏東大前総長、副議長は寺島実郎日本総合研究所理事長、それに菅政権の復興構想会議検討部会メンバーである藻谷浩介日本政策投資銀行参事役など「大物委員」がズラリと並んでいるではないか。「発言力のある有識者を選んだ」(県幹部)というが、これではまるで国レベルの復興会議の人選とほとんど陣容が変わらない。なにしろ被災した地元市町村からは誰一人も選ばれず、圧倒的多数が東京在住の「発言力のある有識者」で占められているからだ。

このときはメンバー構成について充分考える余裕がなかったので、後で調べてみると、野村総合研究所顧問(震災復興プロジェクト・リーダー)の山田澤明氏という委員が宮城県震災復興会議の「キーパーソン」であることが分かった。野村総研は知る人ぞ知る財閥系のシンクタンクで、ニュースリリースによれば、同研究所は東日本大震災発生直後の3月15日に社長直轄で「震災復興支援プロジェクト」を発足させ、4月4日の「東北地域・産業再生プラン策定の基本的方向」(第2回提言)をはじめ、震災復興に向けた緊急対策提言や復興支援のためのソリューション提供など、「震災ビジネス」「復興ビジネス」をものにするために実に精力的に動いている。そして4月14日には、「宮城県の震災復興計画の策定を全面的に支援することで宮城県と合意しました」との声明も出している。

具体的な経緯は、「野村総研NRI)は、これまで宮城県知事の政策アドバイザーや宮城県及び東北地方に関連する様々な調査研究プロジェクト業務等を通じて、宮城県と深い関わりをもっていました。その経験を生かして、NRIの「震災復興プロジェクト」の一環として、この度の「震災復興計画(仮称)」の策定を全面的に支援することに致しました。宮城県の復興計画策定に加わることで、より具体的な形で被災地域の復興に寄与して参りたいと考えています」というものだ。

また復興に関する基本的なコンセプトに関しては、「当該地域の復興に当たっては、単なる「復旧」ではなく、今後生じる様々な課題に対応した先進的な地域づくりに向けた「再構築」が求められています。現地の実態をしっかりと踏まえたうえで、NRI保有する防災、地域開発、産業開発に関するノウハウを総動員することにより、今後の宮城県、さらには東北や全国の発展に資する住民志向、未来志向の計画づくりに、宮城県と一体となって取り組んでいく所存です」とも表明している。

通常、この種の県や市町村の行政計画の策定は、地域の有力者や学識経験者が審議委員として名前を連ねるものの、実質的な作業は自治体と委託契約を結んだコンサルタント事務所やシンクタンクが受け持つことになっている。宮城県の震災復興計画の場合もその審議日程をみると、月1回2時間程度、全部で4回8時間程度の審議で計画案をまとめることになっている。この程度の時間では実質的な審議が不可能であり、事務局原案をほぼ追認する形で審議が進められることはまず間違いない。つまり私が言いたいことは、野村総研が「地球規模で考え、日本の発展も視野に入れた計画」と「宮城県の復興にとどまらない大胆な構想」をつくるということなのである。

くわえて注目すべきは、議長の小宮山東大前総長の果たす役割だろう。同氏は、高額の報酬で東京電力社外取締役に就任していたことでも有名だが(原発事故後、辞任したかどうかは知らない)、本職(現職)は、野村総研と同じ財閥系シンクタンクの三菱総研の理事長である。このことは、野村総研と三菱総研が手を組んで宮城県の震災復興計画をつくることを意味する。被災した地元市町村から誰一人も震災復興会議の審議委員に選ばれず、圧倒的多数が東京在住の「発言力のある有識者」で占められたのはおそらく両シンクタンクの意向によるものだろう。地元市町村の委員が参加すれば、被災地の惨状を無視して「地球規模で考え、日本の発展も視野に入れた計画」や「宮城県の復興にとどまらない大胆な構想」をつくることが困難になるからだ。

日本を代表する巨大な財閥系のシンクタンクが、自治体からの「丸投げ」に近い形で震災復興計画をつくるなど、阪神淡路大震災のときでもなかった未曾有のことだ。私は、ことの背景に財界が東日本大震災を“奇貨”として道州制の導入実験をしようとする意図が横たわっているのではないかと考えている。すでに経団連経済同友会をはじめ多くの経済団体から、東日本大震災を契機に広域的な「東北再生機構」をつくり、それを「東北州」にスライドさせていくといった提案が数多く出されている。宮城県の震災復興計画がその「先導役」としての役割を与えられているとすれば、野村総研との委託契約も小宮山三菱総研理事長の議長就任も納得がいく。

この点から私が注目しているのは、この間の宮城県村井知事の突出した発言ぶりだ。村井知事は国の復興構想会議においてはもとより、県内でも被災地を「復興特区」に指定して土地所有を集約化し、あるいは土地利用の大胆な規制緩和を行い、市街地や農地ならびに漁港の再編をこの際一気に実施したいという発言を繰り返している。なかでも「漁港を集約して漁業権を民間資本に移す」、「小規模農地を集約して規模拡大を図る」、「建築制限を継続して市街地の高台移転を促す」などは、被災地の復旧復興の根本にかかわる重大問題だ。

たとえば、「県内に約140カ所ある漁港を3分の1から5分の1程度に集約する」、「地元漁協に優先的に与えられる漁業権の枠組みを緩和し、国の資金で水産関連施設や漁船の整備を行い、その後漁業権を漁業者や民間企業の資本を活用した会社などに移す」など(日経、5月11日)といった構想をそのまま実行すれば、三陸沿岸の漁村はほとんど消滅し、過疎集落を無人化に導くことは火をみるよりも明らかだ。

次回からは、村井知事発言の「種本」となった野村総研の『震災復興に向けた緊急対策の推進について、第2回提言、東北地域・産業再生プラン策定の基本的方向』の内容について詳しく検討していきたい。(つづく)