行政主導の“スピーディな復興計画策定”は、かえって被災地域の復興を遅らせる、岩手県復興計画からの教訓と課題(3)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その16)

 宮城県福島県のこともそろそろ書かなければならないので(こちらの方が岩手県よりもっと複雑で深刻な事態に直面している)、岩手県に関する報告はこれぐらいして、最後の1、2回は山田町の地区別復興計画の見通しについて語ろう。

 「山田町復興計画行政素案」(2011年9月29日)が出た段階での住民の反応はどうだったのかというと、10月半ばから実施された「復興計画行政素案及び今後の居住に関する住民アンケート調査」(10月15日〜11月4日)の結果は次のようになっている。

まず調査概況について言うと、山田町の全世帯(町内6364世帯、町外643世帯、計7007世帯)が対象で、回答は世帯主となっている。回収数は町内3252世帯(51.1%)、町外143世帯(22.2%)、計3395世帯(48.5%)で、前回6月のアンケート調査(配布数6888世帯、回収数3161世帯、回収率45.9%)よりも若干回収率が上がっている。また地区別の集計結果も記載されており、それも従前住宅のある行政区を通して回収したものと、仮設住宅から回収したものが区別されて集計されている。「調査のプロ」がやったのではないかと思うほど丁寧な仕事ぶりだ。

だがこの調査結果を見る上での最大の留意点は、これまでは触れてこなかったが、「住民アンケート調査」とはいうものの、中身は世帯主が回答する「世帯主アンケート調査」だという点にある。

世帯主の性別は、男性が若干多いが(57.5%)、女性世帯主の比率も結構高い(41.3%)。しかし最大の特徴は年齢構成で、70歳以上(31.6%)と60歳代(29.4%)で全体の6割を占め、50歳代以下の世帯主は4割しかいない。この数字が母集団である全世帯主の年齢構成を反映しているのか、それとも若年齢層の世帯主があまり回答しなかったので高年齢層に偏ったのかわからないが、とにかく60歳上の高年齢層に「今後の居住に関する意向」を求めている点が要注意である。

このアンケート調査は、最終的には「現住地に残るか、移転するか」といった土地家屋と財産処分に関する意見の所在を求める調査なので、世帯主でなければ判断できないといった事情もあるだろう。しかし百年単位の大津波災害からの「今後の復興のあり方」を問う調査なのだから、若い世代が回答しないと余り参考にならないという側面もある。たとえば、18歳以上の「個人アンケート調査」であったとしたら、その結果は「世帯主アンケート調査」とは全く違った結果が出てくる可能性も否定できない。

このような高齢者中心の回答者の基本属性に頭に置きながらも、私が最も注目した回答結果は次の3点だった。第1が「今後住みたい場所」、第2が「新しい家に住む上で不安に思うこと」、第3が「行政素案の地区別復興計画案に対する賛否」である。集計結果は以下の通りである。

(1)今後住みたい場所(被災世帯のみ、1880人)
「被災前と同じ場所」25.7%、「被災前と同じ地区」46.0%、「町内の他の地区」9.1%、「町外に移住」5.1%、「その他」4.7%、「無回答」9.3%。

(2)新しい家に住む上で不安に思うこと(被災世帯のみ、1885人、複数回答)
「資金の確保」50.6%、「土地の確保」41.5%、「住宅賃料の支払い」16.8%、「居住環境の維持」15.5%、「高齢者のみの生活」12.5%、「近所づきあい」6.0%、「その他」4.2%。

(3)行政素案の地区別復興計画案に対する賛否」(全世帯、2702人)
地区別の賛否結果を示すと複雑になるので、ここでは7地区を合計し、「行政案に賛成」(「案のどちらかに賛成・条件付き賛成」および「どちらでもよい」の合計)、「よくわからない」、「その他」、「無回答」に再集計して結果を示そう。なお地区によって賛否状況が大きく分かれている時にはこのような全体平均を出すことには問題があるが、地区別結果が7地区とも驚くほどよく似ているので(これも大きな特徴)、全体結果を示すことにした。それによると、「行政案に賛成」50.1%、「よくわからない」27.1%、「その他」2.7%、「無回答」20.2%になる。

この結果をどう読むかは、住民にとっても行政にとっても復興計画の今後の行方を見通すうえで大きな課題(難しい課題)となるだろう。だが、すでに山田町ではこのアンケート調査結果にもとづいて「山田町復興計画」が策定されているのだから、住民アンケート調査や復興計画の内容に対して発言することは、「いまさら」とか「事情を知らない門外漢が」といった批判を受けることになるかもしれない。

しかし、策定された復興計画があくまでも「基本計画」レベルのものである以上、今後は「実施計画」に移されていく過程のなかで「積み残してきた課題」や「先送りしてきた難題」に直面することは目に見えている。

もともと復興計画といった性格の計画はすんなりと決まる方がおかしい。スッタモンダして揉める方が普通なのだ。だから「スピーディに計画を決めないと大変なことになる」とか、「スケジュールに則って計画策定を進めるのが行政手腕だ」といったことが前面に出てくると、計画策定は住民統制の手段となり、“計画ファッシズム”に転化しないとも限らない。(つづく)