関西3空港の乱立問題、(神戸空港を取り巻く情勢、その3、神戸市長選座談会、その10)

A:話を元に戻して、なぜ関西に3空港がかくも乱立したのかを考えてみたい。第1は関空を建設する代わりに廃止するとしていた伊丹空港を存続させたこと、第2はいったんは断念した神戸空港構想をたとえ「地方空港」でもいいからと復活させたことがその原因だと思うが。

B:伊丹空港についてはこれまで表向きは「廃止」とされてきたが、その辺は政治的にはかなり曖昧だ。むしろ意識的に廃止問題を曖昧にして、国も周辺自治体も伊丹空港を存続させてきたフシがある。理由は簡単だ。なにしろ関空はアクセスが不便で利用効率が悪い。伊丹空港を廃止すると新幹線に客が流れて航空需要全体が激減する恐れがある。航空会社にしても運輸省にしてもこんな事態は避けなければならない。それに騒音対策も一定の効果を上げるようになったので、ますます存続に拍車がかかるようになったというわけだ。1990年には、伊丹空港を国内線に限定して存続させることが運輸省と周辺自治体との調印で正式に決まった。

C:この事態は、伊丹空港に代わって国内路線の就航を目論んできた神戸市にとっては大打撃だった。神戸市としては、関空神戸空港を高速船でつないで国際線と国内線の乗り換え需要をまかなうつもりだったのに、当てが外れたというわけだ。しかしこのあたりで断念しておけば、まだ傷は浅かったのにね。

B:そうはいかないよ。神戸空港を巡っても関空と同じ政治力学が働いていて、もうこの頃は空港土木事業そのものが目的になっていた。神戸市からは「ポートアイランド」や「六甲アイランド」の埋め立て事業と絡んで、建設官僚が多数ゼネコンやマリコンに天下りをしている。その次の「オイシイ土木公共事業」を「持参金」として用意する必要に迫られていた。

C:だから御用学者やコンサルタントを総動員して、架空の航空需要をでっち上げたというわけか。それに市議会にも手をまわして、社会党共産党を含めて全会一致の推進決議(1990年)まで挙げさせた。これはまさに正真正銘、いや根がらみの「オール与党体制」だといえるね。

A:それでも阪神大震災が起こってからは様子が一変したと聞いているが。

B:さすがに壊滅的な被害を被った市民感情からして、市議会はこれまでのように「全会一致」で神戸空港を推進できなくなった。共産党は震災翌年の市長選で空港反対の市民団体と組んで、空港推進の笹山市長の対立候補を立てた。でも市職労は堂々と「身内候補」である笹山市長の選対として「大奮闘」した。あくまでも空港推進の立場だ。

C:戦後一貫して続いてきた「市役所一家体制」の物凄さだね。財政が破綻しようと市民が反対しようと全く眼中にないというわけだ。身内の利害だけで団結する強固な軍団だと言っていい。だから31万人近い市民署名を集めた「神戸空港建設の是非を問う住民投票条例請求運動」に対しても一瞥もしなかった。そしてついに1999年には空港建設工事が着工された。

B:だが、その後の神戸空港会計の実情たるや惨憺たるものだ。すでにそれ以前のポートアイランド2期工事の用地でさえ売れ残っているのに、空港関連用地は「売却できる」として借金返済計画の辻褄を合せてきたのだが、それがここにきてついに破綻した。空港用地が売れないので起債償却費を調達できない。借金を返すために借金をしなければならないという「多重債務」状態に追い込まれたわけだ。おまけに日本航空の路線撤退が追い打ちをかけて、来年からの展望がまったく見えなくなった。だからこれまでの都市間競争路線をかなぐり捨てて、関西3空港の一元管理を言いだしたのだろう。

A:この先、関西3空港問題はどうなるのだろうか。呉越同舟の「一元管理案」をまとめたからといって、160億円の関空補給金が復活するわけではあるまい。そうなると、またもや橋下知事が独走する場面が出てくるね。

B:すでにその兆候は出てきているよ。国交省の成長戦略会議あたりを足場にして勝手な大風呂敷をぶち上げている。でも、もうそろそろ彼の「破れ太鼓」もお終いだね。伊丹空港の廃止方針は周辺自治体からは総スカンを喰らっているし、普天間基地機能の移設案についても関空周辺自治体からは「軍事利用なんてトンデモナイ」との声が上がっている。

C:第一これだけの利用客のある伊丹空港を潰すなど、如何に国営空港であったとしても絶対に不可能だ。そんなことをすれば、民主党政権の足場が崩れる。現に前原国交相は「潰す」などとは一言も言っていない。むしろ従来の「曖昧な伊丹廃止論」に終止符を打って、「伊丹空港は残す」とはっきりと宣言したとみるべきだろう。

B:ところが橋下知事は「機能縮小」という言葉に飛びついて、まるで関空統合案に一歩近づいたような解釈をしているが、思い違いも甚だしいよ。結局、一元管理案も普天間基地機能移設案もオジャンになり、それとともに彼の政治生命も終わると考えるのが妥当な線だ。

C:テレビの街頭インタビューでも、茶髪の若者たちが「アメリカ軍が来る必要はない。」とはっきり言っていた。橋下知事自身が「伊丹空港廃止を言うたびに票がどんどん減っていく。」といっていたが、関空の軍事利用の可能性が高まれば、「それどころではなくなる」ということだろう。(続く)