関西の航空需要の落ち込みは回復できるか、(神戸空港を取り巻く情勢、その4、神戸市長選座談会、その11)

A:伊丹空港が国内線の基幹空港として確立すれば、神戸空港の立場はますます苦しくなるね。3空港を一元管理すること自体が気の遠くなるような政治課題だが、たとえ一元化できたとしても、井戸知事がいうように果たして関西の航空需要全体を底上げできるのだろうか。

B:それは楽観的すぎるね。新幹線との競合関係の影響は無視できないよ。最近の新幹線は「割引切符」や「格安切符」など様々な乗客サービス路線を打ち出しているし、一時懸念された高速道路無料化の影響もこれ以上広がるとは考えにくい。それに民主党マニフェストの表看板だった「高速道路無料化」政策は、遠からず破綻して撤回せざるを得なくなるだろう。実現しても一部の地方高速道路だけだ。

C:日本は世界のなかでも高速鉄道網がもっとも整備されている国だ。それに国土も狭い。もともと飛行機よりも鉄道に向いている国なんだよ。だから大半の地方空港は必然性がないとみてよい。現に新幹線の新神戸駅ではほとんど全ての「のぞみ」が停車するし、これからも便数増発や運行速度のアップが計画されている。北海道・東北や沖縄・鹿児島ならともかく、本州各地なら新幹線のほうがはるかに便利だ。

B:それに3空港一元管理がいつ実現するかは五里霧中でまったくわからない。しかし神戸空港からのJAL撤退は来年5月末に決まっている。このタイムラグは深刻だ。読売新聞の兵庫県内主要100社に対するアンケート調査によると、うち59社が回答したが、その結果は思いのほか正直な結果が出ている。(読売新聞12月8日付け)

C:神戸市当局がこの記事を見て愕然としたと聞いているよ。まず「出張の時に神戸空港を使うか」という質問に対しては、わずか1/4の14社しか使っていない。これは神戸商工会議所などが躍起になって神戸空港の利用を呼びかけている割には、意外に少ない数字だ。しかもそのうち8社は「JALが撤退した場合は他の空港や新幹線などに切り替える。」と答えている。理由は「新幹線や伊丹・関空の方が便数の面などで便利だ。」というものだ。また全体の8割近い46社が「関西に3空港は必要ない」と回答している。

B:たしかにこの数字は衝撃的だね。今回のアンケートで「関西に3空港は不要」と回答したのは実に全体の78%に達している。同紙が神戸空港開港時(2006年2月)に実施した100社アンケート(77社回答)ではまだ29%に止まっていたが、それが開港1年目の100社アンケート(89社回答)では一挙に70%に跳ね上がり、開港3年目の今年はついに78%にまで上昇した。兵庫県内の代表的企業の圧倒的多数が「3空港は必要ない。」と言っているわけだ。

A:でも「3空港は要らない。」といっても、それがいったいどの空港かはわからないよ。現に井戸知事は「関空こそ不必要だ。」と言っている。

B:いや読売もなかなかやるよ。「3空港は不必要」と回答した46社に対して、「不要と考える空港名」を追加調査したところ(33社回答)、阪神間では15社が神戸空港の名を挙げたという。「伊丹空港があれば、神戸空港は要らない。」というのが各企業の本音なのだろう。

A:3空港問題は来年半ばまでに結論を出すというが、果たして可能か。その頃になると神戸空港ではJAL撤退にともなう激震が走っている。なにしろ利用者数の4割を占めるJALが撤退するのだから、その影響は計り知れないほど大きい。これを契機に企業関係の利用者が一気に激減する可能性があるね。

B:関係者の間でも、JAL撤退後の神戸空港の厳しい現実を目の当たりにしない限り、3空港懇談会の結論を出すのは無理だろうといわれている。雑誌『月刊FACTA』(2009年12月号)によると、関西3空港懇談会の下妻博座長(関西経済連合会会長、住友金属工業会長)や野村明雄大阪商工会議所会頭(大阪ガス相談役)は、「伊丹をなくしても新幹線に利用客が流れるだけで、関空活性化には寄与しない。」と伊丹空港の存続には熱心だが、神戸空港については一切発言していない。

C:大阪財界の真意は、関西経済同友会の山中諄代表幹事(南海電気鉄道会長)の発言にあると言ってよいだろう。10月22日の記者会見で「関西に3つの空港は必要ない。関空ハブ空港、伊丹を地方空港とし、神戸は廃止するのがよい。」と言い切った。神戸空港については「廃止したうえで国の補完機能として利用すべきだ。」として、災害時のバックアップ機能として活用するよう提言した。

B:橋下知事もいつまでも「伊丹空港廃止」を言っていると身の程が危うくなるから、そのうちに前言を翻して「関空と伊丹の棲み分け」を言うときがやってくるよ。そのときはちょうど成田と羽田の連絡ルートを整備して両者の利用効率を上げているように、関空と伊丹のアクセス条件を改善して国際線と国内線をつなぐ構想が一気に浮上するだろう。

C:大阪市はWTCを橋下知事に買ってもらうので、今のところ「伊丹縮小に賛成」のそぶりをしているが、神戸市との対抗関係からして本音は「伊丹拡充」だ。だから南海電鉄と共同して地下鉄の延伸の用意を始めているといわれている。山中発言はそのスタートの合図だろう。

A:こうなると神戸空港はますます苦しいね。前原国交相から起死回生の救済策でも引き出さない限り、神戸空港の存続は危うい。民主党から推薦してもらった矢田市長は小沢幹事長にすがりたいところだが、ギリギリでしか当選できなかった選挙結果を聞いた小沢は、矢田市政は「もうこれで終わり」と判断しているようだ。それに前原国交相は必ずしも小沢とはそりが合わないから、小沢の言うことを聞くとは限らない。(続く)